30話目 ココナッツな5層目

「……そうか、こう来たか」

「ぴ?」


 夏草や………じゃない、今度は真夏の草原。所々に木も点在してるから、ほぼ草原だな。


 そして、陽射しがもう真夏!

 誰だよ?!

 行き成り夏を連れて来たのは!!

 メッ!ですよ?!


 さっきまで、黄金の穂波で麦刈りしてたってのに!ダンジョンのステチェン激しいよな。


 今は色とりどりの蝶々が舞い、南国さながらの鮮やかな鳥達もいっぱい。

 更に前より大きいハチだよハチ!

 飛んでる魔物ばーーっかり……迷惑千万!!


 それに、みんな全長1m近くもあるってどう言う事かな?!

 暖かい気候って、動植物が大きく育つとは聞いた事あるよ?だけどこれは育ち過ぎじゃね?!


 何より、俺の討伐意欲が全くおっきしないんだが!どうしてくれるんだ?!ああん?!!



「ぴぴっ!ぴぴっ!!ぴぴっ!!」

「………んあ?どうした?ピー助。」



 暑さと敵の種類に萎えていると、飛んでる鳥達を見てピー助が頻りに鳴き出した。


 一瞬、仲間なのか?って思ったけど、どう見てもあっちはハチドリ。インコじゃないよ?良く見な?


 軽く頭を撫でてピー助を落ち着かせると、目を細めてパタパタ羽根を動かしている。

 よーしいい子だ。ステイだぞ〜。


 

「ここはハズレ階層か?でも、無視して抜けるには魔物も多いしよぉ〜」

「ぴぃ?」



 愚痴ってもしゃーないな。ピー助も仲間じゃ無いと分かったみたいだし倒して進もうか。


 これは動く“的当て”の訓練だと自分に言い聞かせ、目に付いた順に撃ち落としていった。


 ハチと蝶は比較的当て易く、どの魔法でも一撃で落とせたが、ハチドリ……ヤツ等はさすがに素早い!

 そして何度か避けられつつも撃ち落とすと、魔石と色鮮やかな羽根をドロップした。


 だが、ここは長居し過ぎると暑くて俺もピー助もへばりそうだ。ムワッと高い湿度と気温は日本の夏以上だと思う。


 それに4層目で大麦を見たせいか、無性に冷たいビールが飲みたくなった。この際コーラでもサイダーでも良い。兎に角、冷たい炭酸飲料をゴクゴクのみたい!



「バリ〜○国〜クソ暑ぃ!」



 汗が滴り、不快指数があっという間にマックスまで上がっていく。これはドロップ拾いも一仕事だな……。しかも3層目と同じでここの階層は探索者が全くいない。絶対この環境のせいだろ?


 5層目も最短ルートを進んでいくと決め、所々生えてた木の近くまでやって来た。あの頂点にだけ葉を生やしたフォルムはヤシの木だよな。


 目を凝らして見ると、ヤシの実らしき物がちゃんと実ってる。ただ……頂点の高さが10m以上はあるんだ。


 密着してたわわに実ってるヤシの実に、試しに『魔弾』を当てたら殻ごと粉砕…。中に入ってたココナッツジュースらしき液体をぶち撒け、無惨な姿で落ちてきた。その欠片を見ると、内側には白いココナッツの層がしっかり詰まってる。


 ココナッツと言えば、ミ○ドのココナツチョコレートが俺は好きだ。次はポン・○・リング。あとはハニーディップだな。クリーム系とクルーラーは俺には刺さらなかった。


 小麦粉、卵、牛乳と材料は揃ってる。ベーキングパウダーは交換可能か試してみないと分からない。ハチミツもあるしココナッツミルクでタイカレーも良いな……あぁビール飲みてぇ。


 脳内で食いたい物を浮かべながら『風矢』で幹の上部を狙い撃つ。一発じゃ切れないけど切れ込みは入ってる。

 続けて『風矢』を当て、グラ付いて来たのを見計らって『魔弾』で一気に圧し折った。


 ドンッと大きい音と共に、折れたヤシの木が地面に落ちてくる。結構な数の実が付いてたから一本あれば十分だな。



「ココココココな!ココナーーーッツ〜〜……取れた!いよしっ!」



 近くで見るとスイカサイズのココナッツの実を次々採取し、一本取り終えた頃にはボタボタと汗が流れ落ちていた。

 駄目だこれ。暑すぎて熱中症になりそう。


 まだ半分も進んでなかったけど、我慢ならずに『大介』を出して室内に避難しよう。



「暑ーーーっい!くそ〜シャワー浴びたい!」



 『クリーン』で一瞬サッパリしても、身体に篭もった熱が汗を出し続けている。こうなったら無駄な抵抗は止めて、潔くパンイチになって熱の放出だ。



「はーー暑。ピー助お前も大丈夫か?」

「……………………」

「………え……あれ?うそ?!ヤバい!!」


 

 ポーチの中を確認すると、ぐったり羽根を広げて目を瞑ったピー助がいた。

 寒い時は直ぐ騒いだのに、暑いのは本人も気付きにくかったのか?!



「これ熱中症?!オ、オーエ○ワンで行けるか?!……いやポーション!!回復薬だ!!」



 慌てて『等価交換』に10万ゼルを入れて回復薬と交換し、ピー助に飲ませた。

 1滴1滴と口にゆっくり入れ様子を見ていると、暫くして小さく羽根を動かし目を開けてくれた。



「〜〜〜〜〜〜はぁ……良かった………」

「………ぴぇ?」

「悪かったなピー助。そう言えばお前まだ生後…………何日目か?だもんなぁ……ああ〜ビビった!本当に焦ったよ〜〜〜!」

「ぴぴ?」



 回復薬の効果なのか本人はケロッとしているけど、結構ヤバかったんじゃないか?

 でも、この先どうしよう……休み休み進むかここで一度戻るか……。



「………よし!一度戻ろう。急いでる訳でもないんだ。それに回復薬もそうだけど、俺、防具を持ってなかったんだよ。……あ………しまった……金が無い……」

「ぴぃ?」



 ガックリと項垂れた俺の頭をピー助がつつく。しかも今さっき焦って10万ゼル分の回復薬に交換したばかり。


 残高19万ゼル。


 初期の金がまだあるけど、あれは不測の事態用に取って置きたい。


 そして、ピー助につつかれながらしばし悩み、今後の方針を決めた。




【回復薬……飲むまたは患部に掛ける事によって状態を回復させる薬。軽〜中度の怪我や病に効く】



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