25話目 金欠

「困った。マジで金欠……何か金策しないと」



 金欠と言っても、まだ生活に困るほどでは無い。


 住まいも狭いが確保されている。

 飯は主食以外の食材をダンジョンから得られるし、最低限の暮らしは出来る。


 ただ『街中で』となると、少なくとも1日3,000ゼルは必要だ(宿泊費を入れて)。


 それに俺は宿に泊まりたい気持ちが既に無い。ただ、飯は美味いから食いたい。


 街への出入りに金は掛からない事を考えると、やっぱり泊まりは『大介』で、飯は食いたくなったら街に行き、その時に交換と買い物をする……そんなスケジュールで暫く様子を見ようと思った。



「本当に切ない……444万ゼルも毟られて…。また増坪への道が遠退いたよ!」



 『大介』の認識阻害はオン・オフの切り替えが出来た。いざとなったら、『魔の森』に行って稼ぐ事も一つの案とするか……行くのが大変だけど。


 テーブルに肘を付き、自作の夕飯を食い終えてボーーっとする。


 目の前にあるもう一つの扉。

 

 まさかと思うけど、急に開いて知らないヤツが入って来たりしないよな?


 開けても『壁』ってのが、どうにも落ち着かない。普通、ただの壁に向かって扉は設置しないだろ?これに一体どんな意味があるのか?


 『魔の森』に居た時にも、何度か開けてみたけど結果は変わらなかった。魔力を通してみても、『始まりの草原入口』と場所を指定してみても、出て来るのは白い壁。



「……ぴ!」

「ん〜〜〜?お前も腹減ったのか?飯食う?」

「…………メシ!」

「へ?」

「メシ!」

「は?!」

「メシ!クウ!」

「……マジか……流石おしゃべりインコ。羽根より先に話かよ?お前、絶対に口から先に産まれて……来てるか。普通、鳥は殻を割って出て来るんだから間違ってはいないな……」


 急に喋り出したピー助に純粋に驚いた。

 

 意味が分かっているかは不明だけど、確実に俺の言ってる事をトレースする様な口調。

 ……これ、気を付けないともっと言葉を覚えて来たら色々と拙い気がする。



「……これから、口調と話す事には気を付けよう。でないと、通常オブラートに包むべき言葉も、そのまま垂れ流されそう……」

 


 吹いたら飛散って無くなりそうな羽毛は、ピー助が少し動く度にフヨフヨと揺らいでいる。


 そんな心許ない羽毛でも、日を追って身体全体に生えて来ていた。



「………ふえるワカメみたい。毛深い鳥っているのか?インコって、シュッとしたイメージなんだけど?」



 飯を食わせながら、嵩張って見える羽毛を見て、毛深い鳥を想像する。


 どこかのムキムキの格闘系主公の様に、筋肉で服を破く、モリモリ羽根を生やしたマッチョインコ………なかなかシュールな絵面だ。


 ピー助には普通のボリュームの羽を生やして欲しい。俺の肩で変なポージングをしたら、絶対に野生に還そうと本気で考えた。



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