24話目 過酷な3層目

「取られてる………たっぷり取られてるよ!!他の探索者達から結構な距離をな!」


 2層目での出来事を知っている探索者からは、通常以上にソーシャルなディスタンスを取られていた。きっと、星空の下くらいディスタンスがあるね。



「まあいいさ…。俺は流離さすら孤高ボッチの探索者だからな」



 でも、さっきのは結果的に平和な解決が出来たかもしれないが、万一ジグさんが居なければ……魔導具がなければ……あの決めつけ探索者達に犯人扱いされただろう。


 要は結果を知ってのタラレバだ。



「バカバカしい。考えるだけ無駄だな!周りに人がいないなら、2層目は俺の独壇場って事で、ガンガン行っちゃるわ!」



 しかしこの層は兎とバッタ率が高いな。なので、見つけた側からバッタバッタと倒している……そうバッタバッタと………。


 くだらない事を考えながら、心の寂寥を誤魔化す様に魔物を倒して進んだ。


 続いては鳥だ。


 鳥と一括りに表されていたけど、実際は軍鶏しゃもと雀(鳩サイズ)がいた。他のフロアに行ったら違う種類の鳥もいるかもしれないな。


 そしてもう一種が羊だった。


 これが中々厄介だ。5〜10匹の群れをつくっていて、敵(俺)を見付けると、仲良く突進して来てくれる。


 君たちは、臆病な性格じゃなかったのかね?


 その上、魔物が全部茶色い。1層目のバッタは緑色だったのに、ここのバッタは茶色。

 ご丁寧にウサギもピーター君みた色をしている。


 軍鶏しゃもと雀も茶色。羊まで茶色い。


 徹底して枯れ草色を全員が纏っており、索敵無かったら軽く死ねるなって思った。



「危険っちゃ危険だけど、羊のドロップは良い!フワモコの羊毛にドでかい羊肉!あの羊毛は『大介』の中でマットとして使おう!」



 ベットサイドの足元に敷く、足置きマットとしよう。俺は室内をきちんと土足厳禁にしている。玄関土間は無いけど、日本人としては、やっぱり靴は脱ぎたい。


 そして、ブーツなんか履きっぱなしにしてたら、間違いなく足臭一直線。毎日クリーンはしているけど、ケアは必要だ。


 

軍鶏しゃもの肉も美味そうだ…。塩して焼くだけでも美味いだろう。出来れば直火で焼いて食いたいな…」



 そうして、誰に邪魔される事もなく2層目を順調に進み、3層目へと足を踏み入れた。

 




□ □ □ □






「え?!冬なのかここは?!!」



 3層目、そこは寒風吹き荒ぶ冬の荒野だった。その荒野には、ポツポツと馬らしき影と角から見て鹿っぽい群れが点在している。草は枯れ折れ、何もないと言っても過言ではなかった。



「うわ〜……これは速攻抜けるとしよう……」

「ぴぃ!ぴぃ!!」

「あ、ヤベ!お前には寒すぎるか!一先ず羊毛に包んで風を防ぐぞ!」



 だいぶピー助を入れたバックが、俺の胸元でモッコモコの存在感を醸しているけど仕方ない。

 御包みの様に包んだら、ピー助からの抗議もなんとか止んでくれたし。


 そして、1層目〜2層目の傾向から、次の階層への予想を立てて進んで行く。


 何となくなけど、入口から見て『3時』の方向に次の階層への道があると思う。


 このダンジョン、カバンに入ってた地図で確認すると、ど真ん中に出入り口があるのが分かった。そして、その出入り口を囲む様にダンジョンが広がっている。


 1層目、2層目と進む過程で、地図をその都度確認して気づいた事なんで、3層目で時計の『3時』を示す場所に次へと進む階段があればほぼ間違いないと思ってる。


 進路にいる魔物と、向かって来る魔物の相手だけして、出来るだけ最短の通過を目指そう。


 だが3層にいる馬は、黒鹿毛くろかげの艷やかな毛を持ち、道産子の様な太さと、サラブレッドの様な長い脚、その巨躯はまるで黒○号かと言う風貌だった。


 そんな2頭の黒王○に押し寄せられる……かなりのスピードで。

 もう、バグった悪夢を見ているかのようだ。


 ここは、近寄られる前に脚を狙って魔法を放つ。

 足止めに『水玉(特大)』を置けば、避ける為に進路を変えていた。

 自ずと速度も少し落ちる。

 そこを狙って攻撃魔法を乱打し、ヒットさせていった。下手でも数撃ちゃ当たるんだよ。


 そして使うのは『魔矢』。

 2層目で良く使ったお陰で、アロー系の中では一番レベルが高い。

 馬なら脚を折れば、機動力を十分削ぐ事が出来るからな。

 


「転んだ!!ここで畳み掛ける!」



 無防備になった馬の首へ『魔矢』を放って行くが、首の太さもあって一撃では倒せず、5発打ってやっと討伐が出来た。


 2頭の馬がドロップに変わり、ホッと一息付いてから拾いに行った。



「…はあ……馬の相手キツイな。あと…今らさ気付いた…俺、防具何も着けてない……アホ」



 『洞窟ダンジョン』がピクニック気分で簡単に抜けられたから、同じ様なもんだろって高をくくっていた。


 気になるのは、周りを見回してもここのフロアには探索者がいない。

 ……降りてきてない?それか3層目を飛ばす手段があるのか?


 少しルートから逸れ『大介』を出して中へと入る。御包み状態だったピー助をテーブルに置いて中を確認してみたら、縮こまっていた身体を伸ばして鳴き出した。


 触れてみたらしっかり温かかったんで、体温は大丈夫そうだな。



「……先にモニターの方を確認しよう」



 『大介』のモニターは、一番初めに流して見た感じ、凡て室内の充実・模様替えに必要な項目ばかりだった。

 だから、欲しい物が出来る又は買えるまで、あまり見る事も無いかと思ってたんだけど…。



「ま!マジか……増えてた」



 今まで無かった項目が追加されていた…しかもトップに。


 『認識阻害………444万ゼル』



「だから高いよ!!しかも俺が払える金額!それに無駄なゾロ目にするなら、単発分でも払い戻せ!」



 俺が街に入った影響なのか『大介』に認識阻害を付帯出来る様になっていた。そんで相変わらず高い!



「……くそ…こんなの買うしかないじゃん。魔物はともかく、対人間相手には面倒を避ける為に必要なんだから………これが『断腸の思い』ってやつなのか……体験したくなかった!」



 投入口に金貨をザラザラと入れ『認識阻害』をタップする。


 今日はきっと厄日だったんだ……。


 明日がある……明日があるさ!!

 もう今日は不貞寝する!!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る