23話目 濡れ衣〜2層目

「……まったく!やっと2層目に来たのに直ぐコレとか。あのガキふざけんな!!」

「………………」


 振り返って見ると、ガキ共が騒ぎで集まった他のヤツ等に何かを話していた。


 俺を指差している感じからすると、碌なもんじゃ無い予感がする。


 案の定、話を聞いていた中の三人組が、俺の方へと歩いて来た。顔が既に怒った形相になっるしよ…。


「……おい。お前がこの火災を起こしたと言うのは本当か?」

「ああ?!アンタはそれを自分のその目で見たのか?」

「は?さっき聞いて、お前がやったと知ったからその確認に来たんだ。…だから見てはいない」

「やったのは、あっちの金髪クソガキだ!見てもいないのに決めつけてんじゃねぇよ!だと?!ふざけんな!!」


 話にならない役立たずを無視し、例のクソガキ5人組の元へ歩き出す。


 ニヤニヤしやがって……気に入らねえ。


「おい!自分のやった事を人のせいにするんじゃねえよ!クズが!!」

「なに言ってんだよ。俺達はお前がやったのを見たもんな!な?」

「……ふーん。5人全員同じ意見か?」


 俯く女2人と頷く野郎2人。これ、まとめてギルティで良いよな?


「………そうか。よーーく分かった。」


 森でも使っていた『水玉(特大)』は、直径約4mはある。それを2つ作り、奴等の頭上からスッポリ覆って、足が着かない様に水玉を浮かせた。


 周りのギャラリーが騒ぎ出したが『黙れ!』と、一喝したら静かになってくれた。


 ちょっと脅して喋らせるだけだからね〜。

 俺に人を殺す度胸はありません……今の所。


 そして、少し時間を置き『水玉』の中から先ずは1人掴んで出した。


「おい、さっきの火災は誰がやったって?」

「…がはっ!ごふっ……ご、ごめんな…さい」

「謝れなんて言ってないだろ?俺は誰がやったかを聞いてるんだ」

「……はぁ…はぁ……ジョンが…やりました」


 続けて同じく一人ひとり聴き取り、供述を吐かせてから、最後に残した金髪を掴んで引き寄せた。


「はい、お待たせしましたーー!」

「カフッー!ゲフッ!ウゥッ……オェーーゲェーーー!」

「うわっ!汚えな!!クリーン!」

「…グスッ…フーーッ…ウゥ…グスッ……」


 水を吐いて泣きぐずるクソガキ。泣いても許さないよ〜自分のケツは自分で拭こうね?


「……で?さっきの火災。俺がやったのを見たって?」

「…………………グスッ…………」

「あれ?まだ水浴び足りなかった?じゃあ、もう一回入るか!」

「!!や!止めてくれ!!……セ、セリンが…セリンやりました!」

「へぇーー……他の4人は皆同じく『ジョンがやった』って言ってたんだけど?何で、お前だけ回答が違うのかな??」


 それを聞いて、互いに睨み合う5人組。


 コイツは、自分が一番可愛い救い難いアホだ。だけど、一緒に行動している仲間にまで罪を擦り付けようとするなんて度し難い……。


「……ジョン!あなた…なんて人なの?!心底見損なったわ!この期に及んでセリンのせいにするなんて!自分の保身の為にそこの人やセリンに罪を着せるような人とはもう一緒に探索は出来ない!!今回の事、あなたが何と言おうと組合で全て話すわ。………さっきは、あなたに罪を着せる発言に沈黙してしまい、本当に申し訳ありません。街に戻って正直に話して来ます。」

「…………分かった。俺は自分の濡れ衣が晴れれば、後はどうでもいい。」

「「「すみませんでした!!!」」」


 素直に謝罪をした4人に比べ、仲間達に切られたアホジョンは、それでも謝る事無く喚き散らし、悪いのはあくまで自分以外だと言う態度を変えなかった。


「裏切り者!!お前たちの事、父さんに言い付けるからな!タダで済むと思うなよ!覚えておけ!!」

「………父さん?……ああ…お前、ドルネル殿のドラ息子だったか。まあ、安心しろ。俺からもお前の所業を克明に報告しておいてやる。他人や仲間を貶め、脅した事もな…」


 消火活動を手伝ってくれたおっさんがそう言うと、アホジョンは相手の顔を見て青ざめた。


「………ジグさん……どうしてこんな所に…」

「仕事だよ。急ぎで下層の素材が必要になったから来てたんだ。……ふむ、丁度いいから、このまま5人共街へ帰るぞ!話は組合に帰ってから組合長とドルネル殿を交えて行うとしようか」

「!!ま、待ってください!俺は悪く無いんで…」

「これが何か分かるかな?……これは『魔力判定機』と言ってな。魔法を使ってから、時間が経っていなければ、誰の魔法が使われたか判別出来る優れた魔導具だ。さっき確認した所、俺の魔力と消火活動をした彼……それにジョン、お前の魔力も検出された。見苦しい言い逃れは止めた方が良いぞ?」


 ファ?!そんなのあるなら先に言ってくれよ!多勢に無勢で罪を被せられそうだったから、かなり強行手段取っちゃった後だよ!


 アホジョンもそれを聞いて諦めたのか、膝を折ってメソメソ泣き出している。だが、声を掛ける者は誰もいなかった。


 そんなアホジョンを一瞥し、ジグさんと呼ばれた探索者は、俺の方へと向き直って話し始めた。


「それで、君。俺は組合専属の探索者でジグと言う者だ。君の名前を聞いても良いかな?」

「……カイです」

「カイか。今回は消火活動を率先してやってくれて助かった。さっきのは……誰も傷付いていないし不問としよう。たが、やり過ぎだった自覚も持って欲しい。これは、まだ若い君の為でもあるからな」

「……ええ、分かりました」


 痛い程分かってる!だって、みんな引いてるからよ!

 これじゃ、この街では一緒に回れる仲間探しは無理だろうな…。


「ぴ!ぴ!ぴ!」

「あ?何だよ……飯は食ったばかりだろ?」

「ぴーーーーぴぴっ!!」

「……足りなかったのか?今それどころじゃ無いんだけど……」

「ぴーーーーーー!ぴーーーーー!」

「分かった!分かったよ!ちょっと待て!!もう……」


 空気を読まないピー助の鳴き声で、しょうが無く飯の用意をさせられる羽目になった。

 身体が回復して、食える量が増えたのか?


 その場でピー助に飯を食わせていると、ジグさんがヒョっと覗きこんで来た。


「……それは、おしゃべりインコの雛か?」

「はあ、そうです。平原で一人鳴いてる所をみつけたんですよ。近くに親鳥も居なかったんで、そのまま俺が育ててます」


 いつも通り飯を食わせ、クリーンを掛けたら完了だ。全く……次からは一回の量を増やすか。


「……手馴れたもんだな」

「そりゃ、毎日3〜4時間置きに飯の催促されてますからね〜」


 ジグさんはそれ以上何も言わず、集まった他の探索者達に声を掛けて、その場で解散を促した。


 全然2層目進んで無いのにもう疲れた…。


 やっぱり魔物も怖いけど、人間が一番怖いと再認識させられたな。そして、クズは何処にでもいると……。


 状況証拠だけでも罪人にされる可能性も考えて、自衛の手段と方法を保たなきゃな。






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