16話目 魔法屋のミフ爺
「はぁ〜〜〜参った!!食い過ぎたよ……」
店名に偽りなく『まんぷく』になって店を出た。街を散策したいけど、少し休憩が必要だ…腹が苦しくて横になりたい…。
「ぴ!ぴ!ぴ!」
「あ…そうか、お前の飯の時間か…ちょっと待ってろ」
「ぴーーーーー!」
「はいはい……あ、あの広場なら、休憩がてら餌やり出来そうだな」
少し先には市民の憩いの広場的な場所があった。公園……ってよりはやっぱり広場だな。所々に樹々が植えてあり、芝の様な植物がグランドカバーで広がっている。
空いている適当な場所に座り、ピー助の飯を用意しようか。
一食分のフードを小鉢に入れ、『水玉(ビー玉サイズ)』を『火種』で温め、人肌の温度にする。
そのお湯でフードを溶き、専用スプーンでピー助の口元に持って行くと、パクパクと元気に食っていった。
「……お前はいつ頃、自分で食える様になんだろうな〜?その前に羽根が先か??鳥なんだから、ハゲのままじゃ残念ビジュアルが過ぎるぞ?頑張って生やせよ?」
「ビーーーー!!」
お?さすが『おしゃべりインコ』。俺の言った事を理解できたのか、抗議の一鳴きをして来た。
「はいはい…悪かったって。鳴いてないでちゃんとメシ食え。でないと、ハゲのままだぞ?」
「………ぴっ。」
そうしてピー助に餌をやり終え、『クリーン』でピー助ごと巣を綺麗にして、暫く広場で食休みを取った。
ここの人種は様々だし異世界だけど、このマッタリした感じ……平和な国に来れたのかな?
人々に殺伐とした雰囲気も無く、穏やかな街だ。……それに、入場時の審査も簡単で税も無かった。
腹が落ち着いたら、街を散策しつつ、宿も探さないとな。そうだ、ウサギとスライムも売らないと……。
「……………………………いや、だめだこれ。このまま寝そうだ」
そうだった……座って目を閉じれば、秒で寝れるアクティブスキルを俺は持ってたんだ。
電車で座れた時や昼食後の少ない空き時間の活用方法としても重宝する、リーマン必須の優秀なスキルだ。取得している日本人は多いだろう。
だが、ここで寝落ちる訳にはいかない……しかたなく、重たい腹と腰と目を無理矢理起こし、立ち上がった。
……まあ、急ぐ必要もないか…。
もう宿を探して後は全部明日にしよう。
ブラブラと、広場から商店のある方へ向かい、気になった物を買いながら歩いた。
その途中『魔法屋』と、看板を掲げた店に目が止まる。
「……魔法屋?え??魔法って買うものなのか?!買えるなら俺も買いたい!」
攻撃力の無い生活魔法しか持っていない身としては、是非とも『ファイアーボール』とか『ストーンショット』的な、ザ・攻撃魔法!が欲しいんだ!
いそいそと『魔法屋』へ向かい、扉を開けて中に入って行く。
店の中は、古書店の如く本がうず高く積まれており、これが全部魔法関係だとすれば、魔法ってどれだけの数があるのか……金が掛かりそうな予感に震えが来た。
「…ご、ごめんくださぁ…い。どなたかいらっしゃいませんか…?」
「………ん?…なんだお前は。探索者か?見ての通り魔導書なら買い取れんぞ!持って来るなら希少な物だけにしろ!」
買い取りもやってるんだ……それより『探索者』って何だ?冒険者みたいなもんかな…?
「いえ、探索者…じゃありません。田舎から出て来たばかりで、魔法と魔導書の事を教えて頂けたらと…」
「お主……魔法は何を覚えておる?」
「生活魔法だけですが……」
「何?!本当か?!」
「え?…はい……」
「うぉぉぉっ〜!!客じゃったか!よーーし、こっちへ来い!魔法の事をしっかりと教えてやるからな!」
一人でテンションを爆上げ、俺の腕を掴んでズイズイ店の奥へと連れて行った。
うわっ!力強っ!ええ〜…大丈夫かこの店。
店の奥にはカウンターと椅子が3つ。そのカウンターと椅子の上にも本が沢山積み重なっている。
魔法屋の爺さんは、椅子の上にあった魔導書をカウンターに積み上げ、俺に掛けるよう勧めた。
「先ずは……魔導書を買う予算はどのぐらいかな?」
「……定価も知らないのに予算は立てられませんね。それに、このあとは他の街にも行く予定なので、ここで買わないとならない訳でもないんです。田舎者ではありますが、その辺りをお汲み頂き、忌憚なくお話をさせて頂いた上で、購入の検討に移りたいと思っております。」
おい、爺!先に俺の
それに、話の感じからすると『探索者』が魔導書の買い取りでここに来るって事は、何らかの入手方法があり、しかもこの本の量からして、ダブりもかなりあると見た。ここは交渉せずに買いはしないぞ!
「ぐぅ…。お主、田舎者から出て来た割には口が達者じゃな…」
「それはそうでしょう。田舎者でも行商人に足元を見られない様、交渉はしますからね。ただ、魔法については先程言った通り、何も知らない真っさらな状態なのは確かです。なので、中々売れない初期のアレとかコレとかを買う可能性は高いですよ……店主さんが欲をかかなければ」
そう言ってニッコリ営業スマイル。魔法屋の爺さんは俺を鴨にするつもりだった様だが、俺は『大介』の増築に金が必要なんだ。
別に買取り時の原価割れをさせようって訳じゃなんだから、お互いに無理なく取り引きをしましょうよ!
「………むぅ…相分かった。なら、魔法を覚える時は儂の店を贔屓に頼むぞ!儂は店主のミフじゃ。しかし…お前くらいの年の者が生活魔法以外を全く覚えてないなんて普通は有り得ないんじゃぞ?本当に何も習得しておらんのか?」
「してませんよ……。孤児だったんで、村でも冷遇されていましたからね……」
俺は、異世界あるある設定を発動した!
ミフ爺さんに50ポイントのダメージ!眉毛をヘニょらせ、哀れみの眼差しに変わった!
「むぅ…それはすまんの……。知らぬとは言え、余計な事を聞いてしもうた……」
「大丈夫です、気にしていたら生きていけませんから。では早速、魔法や魔導書についてご教授願いますか?」
「そうだの……なら手始めに…………この魔導書は開けるか?」
そう言っておもむろに、一冊の魔導書を手渡して来た。
これ、開くと覚えるタイプの魔導書なのか?だとしたら、迂闊に開けないな……。
「………こちらはお幾らでしょう?」
「………100ゼルじゃ」
「………本当は?」
「………………………………80ゼル……」
「もう一声行けそうですね…?」
「50ゼルじゃ!それ以上はまけられんぞ!」
「後で探索者組合にも行ってみようかな……」
「30ゼルじゃ!!もう本当にこれが最後じゃ!!」
この爺さん……商売っ気強過ぎね?
もっと、優しく行こうよ〜!
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