第4話 とある犬を探すお話

 私たちはスマホでググった中央公園の場所へ向かった。

 1秒で。


「いやー、瞬間移動って便利だね~」

「乗り物じゃないんだから。本当にいざという時しか一緒に瞬間移動してあげない」

「ええぇ~~、能力は活かしてなんぼだよ?」

「活かし方が違う」

「そうかなー」

「本当にここに犬いるのかな」


 カラスさんが草むらで見たと言ってたけどもう既に犬は移動している可能性の方が絶対高い。冷静に考えて。


「なんか能力使って分かんないの?」

「あれ割と疲れる」

「都合の悪い時だけ能力を使うと体力を使うことを盾にしないでほしいな」

「無理な要求」

「いや絶対できるでしょ」

「できないできない」


 気持ちの問題。


「っていうか犬、本当にここにいるの?」

「私に聞かないでよ」

「ここ美春しかいないじゃん」

「こんな時間にこんな人の気配のない公園にいるから」

「それよくよく考えたら相当危ないよね。不審者とか」

「私がいなければね」

「ってかマジで犬いないね」

「感覚が麻痺してるのよ。普通に考えてこんな広い町の中犬1匹を見つけるのは簡単じゃない」

「隣に普通じゃない人いるんだけど…」

「うちはうち、よそはよそ」

「母親か」


 私たちはとりあえずそこら辺を探し回った。

 が、見つかったのは草むらに捨ててある缶コーヒーのゴミと500円玉くらい。

 ちなみに500円はこっそりいただいた。


「美春ずるい」

「私が最初に触ったから私の物」

「その理論で行くと世の中荒れまくる気がするけど」

「ところで犬、見つかった?」

「全然。そっちはどう?」

「見つからなかったから聞いてるの」

「確かに」

「一応テレパシーで周辺を探ってみたけどこの近くにはいない」

「テレパシーってどのくらいが範囲なの?」

「大体半径50mくらい。がんばったらもっと伸ばせるけど基本そんな使わない」

「意外と広いんだね...」


 さっさと出てきて。夜遅いし早く帰りたい。


「……」


 いやいや。なんで今日中に見つけられないといけないみたいな空気なの。別に明日でも問題ない。


「なんか中澤さんに悪いじゃん?」

「夜暗くて探せないから明日探すとか言えばいい。そもそも中澤さんは私の能力のこと知らないわけだし見つからない方が自然」

「……」

「……」

「夜がめっちゃ暗くて捜索にならないから明日探そっか」

「今日は帰ろ」


 咲稀が私の肩に手を置いた。

 他人も同時に瞬間移動するには私に触れていないといけない。咲稀は私に瞬間移動してもらう気満々。

 他人を連れて瞬間移動するときの注意点。それは瞬間移動先の位置をよーく考えてから飛ぶこと。うまくスペースがあるとこに飛ばないと最悪咲稀が壁に埋まる。っていうか私もミスったら埋まる。これも一回見て知ってる場所じゃないと瞬間移動できない理由の一つ。

 はぁ、もっと都合の良い超能力が欲しかったな。


「いざしゅっぱーつ!」


 スッ...


「まあ一瞬だけど」

「家着いたー」

「じゃあ、あとで請求書送っとく」

「美春悪い顔してる」

「真顔」

「じゃ、また明日ここで集合ねー!」


 請求書は無視された。

 というか、私に連れて行ってもらう前提で話進めてる…

 私と咲稀は別れ、それぞれの家へ帰った。

 私は家に帰る道を歩いていたら、道の端っこに一匹の犬が座っていた。野良犬?ここら辺では黒い野良犬はあんまり見たことないな。まあいいや、さっさとかえろ。

 私は家に戻っ…

 黒い……犬……?


 いやいやまさか....あんなに探しても見つからなかったということはどこか遠くへ行っているはず……

 まあ、念のため。

 私は「触れたものの過去を見ることができる」能力を使って犬を調べてみた。


「はあ...............................」


 この犬の過去に普通に中澤さんが居た。

 こんな夜に見つかっても困るんだけど…

 中澤さんの家まで結構遠いから今から行くと夜遅いし中澤さんの親に心配されるかも...

 しょうがないな。もう。

 私は能力でそこにゴミとして積んであったプラスチックを加熱して溶かし、固めて形を変え、犬が入れるスペースを作った。

 要するにアレ、ペットを病院に連れて行くときにペットを入れるカゴみたいなアレ。ケージって言うのかな。

 私は家の自分の部屋に瞬間移動し、部屋の端っこの方に置いた。ついでに中澤さんからこっそり頂いたドックフードとふかふかの毛布を中に置いた。


「エサよこせエサよこせエサよこせ」


 そして犬が狂ったかのようにうるさい。

 とりあえず中澤さんに犬見つけた報告をLINEで送ったが送っといた。今まで一回もメッセージ送ったことないけどまあ通知いくでしょ。


「なんでお前人間のくせに犬と会話できんだよ」

「犬以外も話せる」

「……なんで人間のくせに俺たち生き物と会話できんだよ」

「あ、虫系は無理。色んな意味で。ほんと無理」

「……なんで人間のくせに俺たち動物と会話できんだよ。いやわがままか」


 せっかくのセリフが台無しだね。


「お前のせいだろ」

「違う」

「いや違うくないだろ」

「違う」


 こんな感じのまるで私と咲稀のような言葉の攻防戦がしばらくの間続いた。私何してんだろって思った。


「明日家にかえすから。だから今日はおとなしくここで寝といて」

「別に俺、家帰ろうとしてただけだけど」

「えぇ...」


 私があのまま放っておいても別に帰ったんじゃん。


「なんで最初からそう言ってくれなかったの」

「いやお前最初いきなり俺を連れてったし。しかもいきなり俺の目の前でプラスチックが勝手に溶けて固まったし。しかも今俺はその中にいる。俺としちゃ何が何だか分かんねぇからそんなこと言う暇なんてねえんだよ」


 まあ確かに。


「だが私は謝らない」

「いや謝れよ」


 十数分後犬は暇になったのか、ドックフードガツガツ食べて深い眠りについていた。太るよ。

 ちなみに私は何を思ったかケージをベッドの上に置いて話してる最中で寝落ちしたから寝てる間に私の寝相でベッドから落ちた。


「おい、おいお前、起きろ!!俺ベッドから落ちたぞ、戻せ、戻せぇぇ!」

 

 私は窓から漏れてくる太陽の光が眩しくて目を覚ました。いや、8割程度は横でギャーギャ言ってる犬のせいで起きたんだろうけど。


「お前、昨日俺をベッドから落としたろ」

「覚えてない」

「ああそうだろうな夢の中なんだからな」

「私の寝相を舐めてもらっちゃ困る」

「いや俺こん中から出られないからそんなこと言われても困るんだが」


 犬はいろいろと理不尽だろって言いたげな目でこちらを見てきた。

 顔は可愛い。顔はね。


「でも性格がこれじゃあねぇ」

「お前何の話してんの?」

「ほら、はやく行くよ。今からあなたの家に行く」


 咲稀と中澤さんにはもう伝えてある。後はこのまま連れてくだけ。


「私に触れてて」

「あ、悪い。昨日の一瞬で場所移動するやつは酔うからやだ」


 何なの瞬間移動酔いって。能力者歴14年の私ですら聞いたことない。

 まあ、一瞬で周りの温度とか空気とかの環境が変わったら体がびっくりしちゃうのかもしれない。ちなみに昨日瞬間移動で家に帰った時に1時間くらい気分が悪かったそう。

 言ってくれれば治してあげたのに。

 あれ、咲稀はどうなんだろう。もしかして慣れるまでの間は我慢してくれてたのかな。


「わがままだよ。私は外を出歩くのめんどくて嫌だから瞬間移動がいい」

「わがままはどっちだよ」

「今私があなたを解放してあなたが自力で家まで帰るか。それとも瞬間移動して家まで帰るか。どっちがいい?」

「なんでお前が外を歩かない前提で話進んでるんだ?」


 結局私と犬は瞬間移動することにした。でも、効果あるかは分からないけど無いよりはマシだろうということで犬を毛布でくるんで犬用の酔い止めを飲ませた。

 犬用酔い止めて…世の中進化していってるんだな。ちなみにお値段150円!安い、ほんとに効果あるのかは分からないからあの犬には黙っといた。

 そもそも瞬間移動による酔いに効くかは分からない。試したことないし。そもそも酔いの本質的な原因が違うから多分効果はない。

 私は準備をし終わったら、犬を連れて中澤さんの家の横の空き地の周りから見えないところに瞬間移動した。

「着いた」

「気持ち悪っ…本当にあの薬効き目あるのか?」


 ない


「この隣が家だよ」

「やっと帰ってこれたー。一生帰れないかと思ったわー」

「え?昨日の夜ここを目指してたんじゃ?」

「いや、道に迷って一生彷徨ってた」


 やっぱあのまま放っておいたらダメだった。犬のくせに方向音痴。


「とにかく、急ごう。早く帰りたい」

「お前めっちゃ家帰りたがるよな」

「外にいると何かしらのトラブルに巻き込まれる」


 心なしか最近外を歩いていると誰かに絡まれたり火事が起きたりトラブルに巻き込まれる傾向にある。能力を使う特殊な人間はそういうのを引き寄せやすい体質だとかあるのかな。そんなの現実じゃありえない!!って言っても、もう既に超能力が存在してしまってる以上可能性は無くはないんだよなぁ。

「お前もなんか色々大変なんだな…」



 ピロン


「ん?」


 中澤さんからLINEが来た。「お世話よろしくねー」だって。

 もうだいぶ遅い。

 っていうかもう家の前なんだけど...




「おぉ~!ありがとう、美春たち!」

「いや、犬の方から勝手に来てくれた」

「そうだよ~」


 いや咲稀今回何もしてないよね。


「祈ったからね!」


 何言ってんの


「いや~、2人とも本当にありがとう。クロマル~会いたかったぞ~?」

「あ、名前クロマルだったんだね」

「クロは分かるけどマルって何」

「あ~マル?なんとなく可愛いかなーって」


 なんとなく。


「お礼と言っちゃあなんだけどクロマルを見つけてくれた2人にこれあげるよ」


 そういって中澤さんは高級そうなチョコレートを手渡してくれた。


「いいの?」

「ああ。うちのお父さんが仕事で貰ってきたけどお父さんあんま甘いの好きじゃないみたいでボクにくれたんだよ。でもボクも特別好きってわけじゃないから」

「本当?春華ちゃんありがとう!」

「咲稀ほとんど何もしてないよね?これって全部私のチョコでは?」

「いやいや、連帯責任だから!」


 辞書見た方がいいと思う。


「冗談だよ」

「ふっ、信じてたよ」

「前言撤回」

「いやごめんて!マジで!ほんとに!ほんとごめんって!」

「本当に君たち、仲がいいんだね」

「うん、私たち生涯かけても見つからないような大親友だも」

「そう?」

「いやそこは私に肯定するとこだって!」


 中澤さんがそんな私たちの様子を見て突如「あははっ」と笑い始めた。怖い。

 おまけに咲稀まで笑い始める始末。あーなるほど感染する感じの?

 中澤さんともこれから仲良くなるのかな。そんなことを考えてると自然と頬が緩んだ。


「喧嘩するほど仲がいいってやつ~?」

「いや喧嘩はしてない」



<あとがき的なやつ>

 ここまで読んでくれてマジで感謝しかないです。

 最近「これ超能力女子のお話なのに全然超能力使ってねぇ!!」って気がしてきたので頑張って超能力要素増やしていってます。

 実はこの小説、カクヨムに投稿し始める前は世界線とか全然違うし、美春が敬語系女子だし。中澤さん乙女キャラだし。という風なぶっ飛んだ感じの設定だったんですけど、カクヨムに0話投稿する前に大改造してこんな感じの物語に落ち着きました。

 実は物語の展開が決まってきたのって次の5、6話くらいで、これを書いた時はあんま決まってなかったからノリで書いてます反省してます。だが私は謝らない。

 まあ物語自体はほのぼの日常系だからいいよね。

 ちなみにバトル要素は今のところ考えてないです。もし入れるとしてもガッチガチに戦うってよりかは能力を活用した頭脳戦的な方向に持ってくかな。少なくともバトルはメインじゃないです。考えても見てくださいよ。美春がドラゴンボールみたいにガッチガチの戦闘するシーンを。ありえないだろ。

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