第3話 とある公園でのお話

3話 とある公園でのお話


「ああああっ!」

「どうしたの?」

「そういえば喫茶店のマスターの名前聞いてない」

「柊 直樹(ひいらぎ なおき)。覚えといてあげて。次あった時泣くよ」

「いやなんで知ってんの」

「私だからだよ」

「そうだった…」


 今日は学校が休みだから咲稀と遊びに出かけてる。いろんなお店で買い物したり食べ歩きしたりして疲れたから帰りに桜坂公園っていう私たちが住んでいる町の割と大きめの公園に休憩がてら寄っていくところ。クレープ美味しかった。

 ちなみにこの公園は桜が綺麗でお花見シーズンになると割と混む。だから春はあまりここに来たくはない。耳に入ってくる声と、『頭に入ってくる声』がうるさいからね。


「いやぁ、でも美春みたいな能力者とおでかけはいいねぇー」


 咲稀は手ぶらで言った。ちなみに私も手ぶら。

 私たちはさっき結構な量買い物してきたから荷物は瞬間移動で先に家に置いてきた。


「次は荷物ちゃんと持ってよ」

「えぇーーー」

「能力に頼り過ぎるのも良くない」

「別にいいじゃん」

「良くない」

「っていうか直樹って名前聞いたら凄いイケメンなイメージあるんだけど」


 いきなり話が飛んだね。その話題どっから出てきたの。


「現実を見て。ちょび鬚のおっさん」

「ちょび髭なおっさんで悪かったな」


 噂をするとなんとやら。咲稀の横からニュって出てきた。言葉だけ見たらまあまあきもいけど。


「ギャアァァァアア!」


 異常なまでの叫びっぷり。周りにいた人たちが一斉にこちらを振り返る。ちょっとやめてよ。

 私はなんとなく近くにいるのは分かってたけど咲稀は完全に気づいてなかったようで。


「おいおいそんな何かが化けて出たみたいな驚き方はよせよ。というか周りに人いるからな?恥ずかしいだろ普通に」

「生霊の可能性もあるじゃん。本当に化けて出た可能性もあるじゃん。」


 無いよ何言ってんの。

 という風に意味不明な言い訳をぬかす咲稀。

 というかもし生霊だったとして、その場合咲稀は一人で喋ってるただの変質者だからね。

「ちなみに直樹さんは何しにここに?」

「ああ、店のサンドイッチの材料切らしててな、ちょっと町中に買いに出かけてたんだ」

「へぇ、マスターも材料切らしちゃうことあるんですね~」

「いや別に使ったら何でも無くなるだろ」

「.....」

「.....」


 絶妙に分かりづらい冗談を言った咲稀に対して普通にマジレスする直樹さん。


「いやそういう意味で言った訳じゃ…」


 そして普通に拗ねる咲稀。


「咲稀頭おかしくなった?」

「美春は私の思考読めるからボケたの分かるでしょ!」

「ボケてたのかよ!分かりずれぇな」


 いい感じにツッコんでほしかったらしい。

 まあツッコまなかったけど。というかツッコめないでしょあれは。どうすればいいのよ。

 何とも絶妙なボケ。もはやボケるんだったらネタに全振りしたほうが良い気がしてきた。


「美春ひどい!私との関係は遊びだったのね!」

「誤解されるような言い方やめて」

「......ったく。どこでそんな表現覚えるんだか。最近の子供は」

「おっさんは時代の波に置いて行かれてるんだよぉ!歳だからぁー」

「んだとぉ!」

「ああああああああああああああ!」


 うるさい...

 二人の間の謎すぎる会話から謎すぎる追いかけっこに発展した。日陰でも探そう。

 最近とある小説にハマってて、自称つよくてかしこい美少女魔女さんがいろんな国に行って、いろんな人と出会い、別れを繰り返す日記形式の物語なんだけど。ネタに振った話もあれば、シリアスな展開の話もあってすごく面白いしめっちゃ好きなん


 がしっ


「ん?」

「ゼェ…ハァ…お、追いつめたぞぉ!お前!」

「これ以上近づくな!美春がどうなってもいいのかぁ!」

「なにぃぃぃぃぃぃ!?」


 本当に意味が分からない。私を巻き込まないでよ。

 っていうか何直樹さんもノリノリでやってんの。


「よく考えてみて。可愛い女の子2人の目の前にこちらを見つめるゼエハア言ってるおじさん。他の人から見たら完全にアウトだよ」

「保護者です!って言えばいいだろ?ギリギリセーフだ」


 ガチガチアウトだよ。


「っていうかお前自分で可愛い女の子っていうなよ」

「じゃあ私たち可愛くないの?」

「知らねぇよ、んなことは同年代の友達にでも聞くんだな」


 呆れと疲れが混ざった顔で追いかけっこ始める前に私の横に置いた荷物を取る直樹さん。


「じゃ、俺はこれで。お前らも気を付けて帰りなよ」

「あ、逃げた」

「逃げてねーし!」

「えーじゃあ何?」

「戦略的撤退だ」


 本当に、意味が分からない。

 というか戦略的撤退は言い方かっこよくしただけで結局のところ逃げてるじゃん。

 って、いない…

 直樹さんはいつの間にか消えていた。逃げ足は早いようで。


「ちょこまかとすばっしっこい奴め…」

「咲稀、それアニメの雑魚キャラのパターン」

「雑魚キャラに言うセリフってことだよね!」


 雑魚キャラが言うセリフだけど…



「おーっす!咲稀じゃん!」


 咲稀と休憩しながら話をしていると遠くから声が聞こえてきた。

 その声の方向に目をやると私と同年代くらいの女の子がこっちに向かって手を振りながら歩いてきた。


「もしかして私達に手振ってる?」

「春華ちゃんだ!」


 中澤春華(なかざわ はるか)。私と同じクラスの女子生徒。ちなみに私の席の前の前の前の2つ右の席に座ってる人。咲稀が結構仲がいいらしい。そもそも咲稀は割といろんな人と仲いいけど。


「さっきの男の人誰だー?まさか…年上が好みのタイプか?」


 流石にあの年の差は無理があるでしょ。少女とおっさんだって。

 っていうかこの子私とはあんまり話したこと無いのにグイグイ来る....苦手....


「全然違うよー。最近よく行ってる喫茶店のマスターだよ」

「じゃあ君たちはここでデートか?」

「ぜぜぜ全然ちち違、違う…違うよ?」

「普通の買い物の帰り」

「私ショック…!」


 どっちなの。


「なるほどぉ。咲稀ちゃんの反応から察するにデートだね!」


 参考にする人間違えてるよ。

 この状況から察するにこの人あほだね。


「おーー、よくわかっ」

「だからただの買い物だって」

「なんだただの買い物かー。じゃあ2人はそういう関係じゃなかったんだね、いやー勘違い勘違い。」


 .......苦手。

 なんだこの人..........ヤバい人と知り合いになっちゃったな。

 人の恋愛見て楽しんでる女子と同等のオーラを感じる。


「じゃあ咲稀と美春ちゃんは何の深い関係もない『ただの』友達ってことだね!!」


 それは流石に悪意感じるって。絶対わざとでしょ。

 そんな事言ってるとだんだんと咲稀のメンタルが削られていくよ。


「そういえば君たちここら辺でボクが飼ってる黒い犬見なかった?」

「見てない」

「その犬がどうしたの?」

「実はね……」


 かくかくじかじかと。

 ふむふむなるほど。

 要は中澤さんは愛犬の犬が散歩中に逃げたので探し回っていたそう。…その割には随分と余裕そうに見えるけど。


「心の中では凄い心配してるんだよ?」


 らしい。余裕そうに見えるのは外見だけじゃなくて心の中もなんだけど...

 どうやら何回か脱走したことがあるらしく、脱走しても次の日の朝とかに帰って来たそう。だから今回もどうせ見つかるって楽観視してるっぽい。大丈夫かこの人。


「え、探すのを手伝えと?」

「ご名答!」


 次の日の朝とかに戻ってくるから楽観視してるって説明した直後に人に捜索を頼むとはこれまた何故に?


「いや、すぐ戻って来るって思ってたんだけどいつもより戻ってこない時間が長いんだよ」


 なるほど。


「ごめんなさい、私用事があるからちょっと難」

「私と美春で必ず探してきてみせるよ!」


 おかしいな咲稀と私で言ってることが反対な気がする。


「中澤さんちょっと私たち話があるからちょっと待って」


 私は咲稀を連れて少し離れた。


(美春ちゃんの方はツンデレ的な感じかな?いいね~)


 危険人物じゃん。

 私に頭の中を読まれてるって知ったらどんな表情するんだろ。


「とりあえず咲稀一人で探して」

「や!」


 即答された…清々しいほどの返答だね。


「だって超能力があれば一瞬じゃん!」

「もしかして私のこと秘密道具かなんかだと思ってる?」

「いやいや流石にそこまでは思ってないよ!っていうかもし思ってたらそれは人間として終わってるからっ!」


 そうだよね。私も能力が使えるという特殊な点を持っているものの人間。だから私に拒否権はある。

 それに元々は能力に頼らずに人の力だけで解決できるしそれで解決すべきな問題。能力を使うことはゲームで言うとチートを使うことと同義と私は考えている。


「めんどくさいし行きたくない」

「なんか開き直った」

「どうだ?決まったかー?」

「残念だけどやっぱり私は行かな」

「私と美春が絶対わんちゃん見つけてあげるからね!!」

「おお~!頼もしいねぇ。よろしく頼んだよ。こっちもこっちで探してみるから何かあったら連絡して」

「はいは~い!」


 中澤さんは機嫌の良さそうに走り去っていった。


「……」

「……」


 さて。


「喧嘩売ってる?」

「いやいや流石にそれは大袈裟だって!」

「安心して半分冗談」

「残り半分は何なの」

「さっさと犬探して家に帰ろう」

「あれ?意外とすんなり」

「まあ私もそこまで鬼のような人間ではない」


 咲稀と過ごす時間は少なくとも一人でいるより楽しい。どうせ家帰ったら暇だし付き合ってやるのも悪くはない。

 などと本人の前では口が裂けても言えないようなことを考える私。でもご安心を。この空間で人の心を読めるのは私一人だけ。


「え、美春何その顔。今何考えてるの?」

「朝ごはん何食べたっけ。パンだっけ」

「本当は?」

「白米」

「いや朝ご飯の話じゃなくて」



「よぅし。そうと決まればまずは情報収集だ!」

「そこに止まってるカラスにでも聞いてみよ。そこら辺飛び回ってそうだから」


 カラスって黒いしゴミ漁るから割と嫌われてるイメージあるけどよく見たら可愛いんだよね。頭もいいし。

 この前どっかでカラスの赤ちゃんの写真見たけど普通に可愛かったよ。 


「うんうんそうしよ………え?」


 数秒の間こちらを見つめながらフリーズする咲稀。

 ん?どうかした?


「いや美春当然のように言ったけどまあまあヤバいこと言ってるからね?」

「カラスくらいのサイズだったら普通にテレパシー使ってお話できるけど」

「普通にテレパシーを使うこと自体が普通じゃないんだよ」


 普通の定義は人それぞれ。

 私にとっては、それが普通。


「っていうか当たり前みたいな顔してるけど初耳なんだけど、動物と会話できるなんて」


 動物と会話する能力というよりは、どちらかというとスマホとかの翻訳機能を使って外国人と話すって感じに近い。私の言葉をその動物が分かる言葉に変換し、その動物にテレパシーで送る。逆に聞き取ることも出来る。


「聞くんじゃない。感じて」

「何言ってるの!?」


 冗談は置いといて早速聞いてみよ。できれば早めに見つかったらいいなーなどと思いつつカラスに話を聞いてみる。


「あの、そこのカラスさん?」

「あ?てめぇ何人間のくせに俺様に喋りかけてんだよ。あぁん?」


 可愛くないカラス。


「うわぁぁ、カラスが喋ったぁぁぁぁぁ!」

「ちょっと咲稀うるさい。翻訳済みのカラスの声を咲稀の脳内に直接送って聞こえるようにしただけだから周りから見たらただの変人」

「カラスさん。黒いわんちゃんどっかにいなかった?」

「おい、そこのアホそうな人間は何を言ってやがんだ?」

「ねぇ美春。全然通じてないんだけど」


 人語に翻訳済みのカラスの心の声を咲稀に送ってるだけで、咲稀の声自体はカラスに翻訳して送っていない。だからカラスは咲稀の言葉を理解できない。当然っちゃ当然。

 というかどういう原理なんだろうねこの能力。謎だけど、まあそもそも超能力なんかに原理求めてたらやってらんないか。


「黒い犬を見なかった?首輪つけてる」


 咲稀の通訳のポジションに今私はいる。


「ふんっ、お前らなんぞに教えて俺様に何の得がある。お前らがどれだけ困ろうと俺様には関係のないことなんだよ。分かったらさっさとどっか行きやがれ頭のてっぺんつつくぞオラァ」


 痛いぞー。と鋭いくちばしを見せつけながら私たちを脅しているカラスさん。

 どうやらこのカラスは自分の立場が分かっていないようで。食物連鎖の頂点というものを見……あーいや、流石に私カラスは食べない。

 私は口の悪いカラスに向けて文字通り謎の威圧感を送り込んだ。恐らく相手の感情を操るとかそういう類の能力なのだろう。

 全く、なんでこんな能力まで私には備わっているのか.....。まあ今役立ったからいいけど。

 カラスさんの顔色が変わった。


「わ、悪かった。悪かったから!言う、ちゃんと言うって!言うから食べないで」


 食べないよ……言われなくても。っていうか食べろって言われても食べないよ。

 でも人間って割と何でも食べるからもしかしたらどこかの国のどこかの地域で食べてるかもしれないね。カラス。どうなんだろ。

 虫とか食べるくらいだからね。正直私虫得意じゃないから昆虫食の研究を進めるよりフードロス削減とかの研究した方がいいと思うけど。


「それでどうなの?黒い犬は見たの?」

「見た!見たぞ、確か中央公園の草むらに首輪をつけているそれっぽい犬が見えた。本当だって!」


 中央公園…そういえば聞いたことはあるけど行ったことないな。

 場所はあんまわからないな。咲稀知ってるかな。


「咲稀。中央公園の場所知ってる?」

「分かんないー。美春は知らないの?」

「知らないから聞いたんだよ」


 私はスマホのマップアプリを起動し場所を調べた。

 中央公園で検索し、出てきた場所を指でズームする。


「うーん、知らない道」


 瞬間移動は言ったことのある場所とかよく知ってる場所でないと使えない。だから瞬間移動で移動する場所はあらかじめそこに行っておかないと行けない。逆に、一度言った場所なら好きに瞬間移動できる。力は使っちゃうけど。

 つまりどういうことかというと、行きは私達は徒歩で公園まで行かなければならない。

 要するにめんどくさい。大事なことなのでもう一度言う。

 要するにめんどくさい。



<あとがき的なやつ>

 今回と次回辺りは割とネタ回になりそう。いや、毎回か。

 新キャラ出ましたね。中澤さん。他キャラとキャラが被らないようにボーイッシュ系ボクっ娘という濃い目のキャラ設定にしといた。

 ちなみに途中で美春が好きって言ってた小説は実在する小説です。あれマジで面白いから派生作品も合わせて今のところ全巻買って読みまくってる。今3周目だぜ。


『なぜ僕が物語を書こうとしたら百合要素が強いものが出来上がるのだろう』


 1つの謎である。

 さっさと男性キャラも出さねぇと。男女関係なく仲がいい男子みたいなキャラも出したい。

 でも流石に恋愛は書かない。そんなことしたらただでさえジャンルが曖昧なこの小説がもっと曖昧になっちゃう。

 何だよ「日常な非日常系超能力ラブコメ中学女子現代ファンタジー」って。

 少し長めの話になって前編と後編に分けてるから次回の話は後編になります。

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