第2話 とあるお家のお話
「不思議な人だったねー」
「そうね」
私と咲稀は放課後に「たまに未来が見える」喫茶店のマスターの感想を語りながら道を歩いていた。
「あのおっさん結構雰囲気かっこよかったよね」
「確かに良い人そうではあった」
しばらく歩いていると十字路が見えてきた。この十字路はいつも私と咲稀が家に帰る時に別れる場所。
「あー、もうそろ家帰んなきゃね」
「じゃあここでお別れ」
今みたいな会話をほぼ毎日のようにしてる。
「じゃーねー!」
「また」
私は咲稀と別れてから周りに誰かいないか確認した。なぜかって?それは…
スッ...
あら不思議。私は今まで道路に立っていたはずなのにいつの間にか家の中の玄関にいるではありませんか。
「そう、瞬間移動を他の人に見られないようにするため」
体を動かすことがあんま好きじゃない怠け人間故に家に帰る時1人の場合ほとんど瞬間移動で帰る。あの十字路から家まで絶妙な距離。いくらデメリットだらけの能力だって便利な時は便利。人生楽して生きた方が得。
あれ、リビングの電気が付いてる。多分お母さんの仕事が早めに終わったんだろう。現に母の心の声が聞こえてくる。っていうか何なら今リビングから出てきた。
「あら、お帰り。いつの間に帰ってたのね」
「まあね」
「絶対瞬間移動して帰ってきたわよね?」(ほんと毎回バレバレね)
母の心の中から失礼極まりない発言が聞こえた気がするけど疲れてるからスルーした。
「ま、お風呂湧いてるからね~」
母は全てを見透かしたような表情でリビングに戻っていった。
はぁ。お風呂入ってさっさと宿題終わらせて寝よ。
そういえばさっき咲稀からテレパシー常時発動してて気にならないのかって聞かれたっけ。
結論、別に気にならない。例えば普通の人間でいう小鳥の鳴き声みたいな感じ。耳を澄ませばよく聞こえるけど変に意識しなければそれほど気にならない。
こんな数分前の会話を思い出してる時間も惜しい。私はお風呂場に直行した。ちなみに私お風呂早い時間から入る派。
「今日はいつもより疲れた。結構歩いたし...学校めんどかった。宿題やらないと......」
私はしばらく湯船でぶくぶくしながら夢と現実の狭間を行き来していた。30分くらい経った頃に我に返る私。
「いくら能力者でも眠気には勝てない」
私は眠気をごまかすために一旦湯船から出て、シャンプーをもこもこあわあわし始めた。
私科学とかそっち系苦手だから原理は知らないけど能力を使えばシャンプーめっちゃもこもこにできる。これしょうもない能力の活用法の1つね。
その頃、咲稀は…
<咲稀>
「たっだいまぁ~」
「にゃぉ~ん」
出迎えてくれるのは愛猫のきなこだけ。いや、一人暮らしとかじゃなくて普通に親が仕事で帰るの遅いだけなんだけど。
私はきなこの癒しパワー補充した後に台所で夜ご飯を作るよ!
親の帰りが遅いからいつも夜ご飯作っておいてあげるんだよ。優しい!天使!かわいい!神!
ふう。こんな恥ずかしい事1人で思えるのは美春が近くにいない時くらいだよ。
「とりまお風呂入るかなー。今日結構疲れたし」
まあご飯作る前にお風呂入っちゃうんだけどぉ。
私は急いでお風呂を沸かした。
「まだかなー…お風呂が沸くの待つ時間って凄い長く感じるよねー」
「美春今頃どうしてるかなー。っていうか美春も親に夜ご飯とか作ってんのかな。いや、あの人そういえば能力者だったね料理くらい一瞬だったね」
ん?ということはお風呂沸かすのも一瞬…?え、めっちゃ良いじゃんやっぱ私も何か力がほしいんだけど。
「お風呂が沸きました」
聞きなれた音楽と共に機械音声が私にお風呂が沸いたことを告げてくれた。
「よーしさっさとお風呂はいっちゃおー!」
脱衣所に服脱ぎ捨ててお風呂場にダイブ!!いや、ほんとにダイブした訳じゃないけど。別に家にいるの私だけだからいいよね!
私はお風呂に浸かり気の抜けたため息を漏らしました。
「ふゅぃぇぇぁぁぁ。やっぱお風呂最高~」
「だよね。でもたまに一瞬意識飛びそうになるよね」
「あ、それ分か………え?」
「ん?」
……疲れてるのかな。密室なのに美春の声がする。
「今私は貴方の脳内に直接話しかけています」
「言い方なんかそれっぽいね」
「これはテレパシーの応用。相手と面識があるかつ、相手の場所が分かる場合に使える」
随分と使いどころの限られた能力だなぁ。
「ちなみに咲稀がお風呂入る時間帯たまたま予想的中したから話せてる」
「私がお風呂入ってる前提で能力使ったんだ...」
美春曰く相手がいる場所をイメージしてそこにテレパシーを送るから行ったこと無い場所とかは無理っぽい。だから今のタイミングにお風呂場に私がいないと能力は不発に終わるらしい。能力って割とめんどくさいね。
「ちょっと待っていつから聞いてたの」
「最初っから最後まで全部。随分と気の抜けた声だったね」
全部じゃん!
「きゃー美春お風呂覗かないで~!」
「ぶっ飛ばすよ?」
「いやごめんて」
何とか美春を説得した後、とりあえず私は自室に籠り雑談タイム。いや周りから見たら1人で喋ってるやべーやつだけどちゃんと美春のテレパシー通して話してるからね。
ちなみに美春はテレパシーだけなので私の様子は見えないらしい。まあ別にそんな変わんないか。私は膝の上できなこをもふもふしながら美春と雑談を楽しんだ。
<美春>
「こっちで話したの久しぶり」
「そーだねー」
なんか咲稀から適当っぽい返事が返ってきた。まあいつもどおり。
私たちはよくこんな風にテレパシーで会話している…訳ではなく、たまにしかしてない。今日はたまたま暇だっただけ。
実はちょっと前までは結構やってたんだけど、テレパシーを通じて咲稀と話してて親の前で吹き出したら我が母にネタにされいじられたのがトラウマ。
「理由意外と可愛い...」
あ、聞かれてた。
「いや、逆に聞こえないように話したの?」
「テレパシーで会話してるから思ったことがそっち側に聞こえてしまうことがある」
簡単そうに見えて結構加減が難しい。
「そうなんだー」
その後も私たちは特別話すこともなく、くだらない話を何分も続けた。
「じゃあ夜遅いからこの辺で」
「そだね、じゃあね~」
私は力を抜いた。力を抜いた途端に咲稀の声が聞こえなくなった。話してる間ずっとテレパシーを維持しないといけないから今日はいつもより凄く疲れた。私はそのままベッドにダイブ。今日は早めに寝よう。
「……」
ちょっと待って、何か忘れて……
私はここ数時間の記憶を見てみた。比喩とかではなくそのままの意味で。
「ああー、宿題か」
体だるいけどしょうがない。私は体の状態を回復する能力を自分に使った。と言ってもこの能力は「回復するもの」ではなく「自分の疲れとかを未来の自分に移す」と言った方がいいかも。使い方を間違えれば大惨事になりかねない能力。
「明日の夜にでも移しとこうか」
明日の私、ファイト。
ちなみに一度移した疲れとかダメージはもうどこにも移せないから永遠に1日移し続けるみたいなのはできない。そんな甘くない。
宿題が終わってない…と言っても今日はそんな量はなかったはず。パパっと終わらせよう。
………パパっと終わらせるくらいの量なら能力使わなくてもよかったのでは…?
まあいいや。正常な判断ができないくらい疲れてたってことにしとこう。
私はノートを開いた。
「え、ん…?」
そのノートの中身を見た瞬間私はすぐに違和感を覚えた。その違和感の正体、
「これ私のノートじゃない...」
めんどくさいなぁ、これを理由に宿題をサボる…?
いや、どちみちあとからやることになるか。しかも今サボったら単に明日の私をいじめただけになる。
「誰のノートだろう、結構綺麗にまとめられてる。字は私よりかはきれいじゃないけど」
私はノートの表紙の下あたりに目を移した。
[中野 咲稀]
あいつじゃん。
まあ隣の席だしね。
っていうか咲稀で良かった。咲稀だったら私の能力を知ってるから瞬間移動使っても大丈夫。
そもそも外暗くなってるから外出るの嫌だし。
「ということで咲稀のお宅にお邪魔させてもらお」
スッ...
<咲稀>
私は自分の部屋のベッドにダイブ…最高!おまけに私の上にきなこが乗ってきた。マジ最高!!もふもふ!!マジすごい最高!!!
テレビでも見てから寝よっかなー。
「お、心霊映像かー。私結構こういうの好き....だ......な...あ?」
あれ?おかしいな。目の前に美春の幻覚が見える、やっぱ私疲れてるのかな。テレビ諦めて早めに寝た方がいいかも。っていうかいっそのこと今から寝ようかな。
「おやすみ~」
「咲稀」
「ギャァァアアァァァ」
きなこがびっくりして逃げちゃった…
結構隣で寝てくれるのレアなんだけど
「大声出したら近所迷惑」
「いやいやいや友達がいきなり目の前瞬間移動してきたんだよ?ありえないって」
っていうか普通に不法侵入だよね。
「全く、怖がりだね」
「いやいやいや」
その時私の後ろでちょうどテレビに怖いのピークであろうシーンが写った。
あ、美春って確か........
「キャッッッッ!!」
美春の横でパリン、と音がなった。あ、花瓶割れてる―。
「.....」
「.....」
「とりあえず直しとくね」
「能力あってよかったね」
まあぶっちゃけあの花瓶安物だからいいんだけどね。それに心霊映像にビビったちょっとレアな美春も拝めたし。
「聞こえてる」
「ふっふっふ…」
「どういう感情のセリフなのよ」
まあ超能力者も万能ではないということが分かったね。
<美春>
覚えておいて。この借りはいつか絶対返す。
「私何もしてないでしょ!?」
「そんなことないし」
「あ、拗ねた」
「ぶっ飛ばすよ?」
「なんでもかんでもぶっ飛ばそうとしないで!」
まさか心霊映像流れてるとは思わないじゃん。
「言っておくけど別に私はお化けだの幽霊だの信じてないし怖くない大体世の中で起こる怪奇現象はほとんどの場合科学的根拠を用いて説明できるから科学的に考えて幽霊なんか」
「じゃあさっきびっくりして反射で能力出たのは?」
「花瓶に虫が」
「無理があるよね」
細かいことは気にしない。
「っていうか反射で能力出るとかあるんだね」
「私の精神が安定していないと能力も安定しない」
私がどんな能力をどのように、どれくらいの力で使うか。とかいろいろコントロールしないといけないから精神安定は大事。能力を使って疲れる理由の一つね。
「…そういえばなんで美春はここに来たの?あ、もしかして寂しくて私に会いたかった?嬉しいなー。いやー美春もツンデレなとこあるね~」(まあノート取りに来たんだろうけど)
「全然違うけど?」
心の声丸聞こえだけど否定してやった。
「ふーん、じゃあ何?」
この人はこの人で毎日拗ねてるな。
「このノート。咲稀のでしょ?」
「ん?あー、これ私のノートじゃん!ありがとう、探してたんだよー」
「随分と棒読み」
咲稀は私からノートを受け取り、お礼を言い、「また明日ねー」と手を振ってきた。
「私のノートちゃんと返してね」
「ばれた」
まあ心の声聞こえるからバレるよそりゃ。
私は咲稀からノートを受け取った。
「保存状態が思ったよりも良い。てっきりぐちゃぐちゃになってて復元能力を使うことになると思ってた」
「私のこと何だと思ってるの?」
「冗談」
「じゃ、今度こそまた明日だね!」
「そうね。また」
スッ...
「人が瞬間移動する瞬間…見れちゃった…!なんか特別感が凄い!」
その夜、私は宿題を数分で終わらせベッドに入った。
そういえば私結構な疲れを明日の夜に移したんだったな.......。
今は考えないでおこう。
私は眠りに落ちた。
<あとがき的なやつ>
今回は咲稀視点でも書いてみました。
ちなみに「能力を使うには精神が安定してないと無理」的な設定は結構大事そうなので今回の話で強調しときました。美春を犠牲にして。そんな強い能力ボンボン連発できたらチートだよチート。
0話とか1話とかの最初の方の話はキャラ設定とか物語の設定とか理解してもらう感じの話になってる……つもり。
まあしばらくはのほほんとした日常が続きます。
あとこの場を借りて(セルフ)説明させてもらうんだけど、
かぎかっこ(「」←これ)の下にあるかっこ(()←これ)の文字はキャラクターの心の中のセリフです。
美春心読めるからね。
だんだんとどんなジャンルの話を書いてるのか分かんなくなってきたのはここだけのお話
ちなみに、この話最初は咲稀が美春がきた瞬間電気消して美春が「キャッ」ってなって咲稀が「可愛い.......」ってなる展開だったけど流石に無理があったから心霊映像もとから流れてた感じにしました。電気消そうとしてるのテレパシーでバレるしね。
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