第40話毒

エリスSide


放課後、ギルバートから聞いたことのある目的地に向かう。


魔法学園の池の近くの古い旧校舎。


かつて戦場となり、大部分が損傷したものの、何故か放置されている場所。


校舎でありながら、見た目は城のよう。


実際、戦いを想定した作りで、構造は本物の城と同じだ。


この魔法学園の生徒は百年前までは、戦時の予備兵力となり、この魔法学園は要塞としての機能も持っていた。その名残らしい。


「バカバカしい」


私は興味のない歴史の知識を忘れ、旧校舎に入った。


現在は使われていないため、立ち入り禁止の札が立っているが、無視する。


「灯りをつけないと」


用意して来たランタンに火をともす。


しばらく真っ暗な一階を探し回ると、目的の場所を見つけた。


地下への階段だ。


その階段を下っていき、地下一階の部屋を隅々まで見て回る。


「あのバカ、こんなに広いなんて聞いてないじゃないの……チッ」


地下二階に降りて同じように隅々まで部屋を見て回るけど、探しているものは見つからない。


だが、不思議な魔訪紋の描かれたドアを見つけ、開けてみる、すると。


「あった!!」


おそらくここにある。


いかにも危険な研究をしていたような雰囲気がある。


「あのバカの話だと意外と簡単に見つかるはず……」


大きな研究室のような部屋を探し回ると、いかにもな魔法紋が描かれた棚を見つけた。


その中にはおどろおどろしい紋様の箱が置かれていた。


「ブレイク」


黒魔法を使い、箱の鍵を壊して、中の小瓶を取り出す。


小瓶の中には透明な液体が入っていた。


「これがギルバートの言っていた大昔の毒? 透明だし、本当に毒なのかしら?」


この旧校舎が放棄されたのは百年前の戦争以来。


その頃から保管されているのなら、既に毒は自然分解して、ただの水になってしまったのか?


本来なら、この小瓶一つを川に流せば、その水を飲んだ者は皆死ぬ。


それ程濃度の濃い毒。


リーシェは光魔法の使い手。


生半可な毒では、回復魔法で、簡単に解毒されてしまう。


しかし、証拠を残さず殺すなら、毒以外に考えられない。


光魔法の使い手はただでも毒や呪いへの耐性が強い。


ならば、数万人を殺せるこの毒を使えば、いくらリーシェでも殺せるはず。


邪魔なリーシェさえ、殺せば......。


「フッ」


気が付くと、笑いがこみ上げてきていた。


ガタンッ


「誰!?」


突然の物音に、その方向に視線を向ける。


誰もいる筈がないのに。


でも、見られた?


「何してるの? お姉ちゃん?」


声がした先には小さな子供がいた。六歳か七歳くらい?


ちょうど、私がリーシェ達と出会った頃と同じ年代。


「私、旧校舎に忘れられた貴重な資料があると聞いて、好奇心が抑えられなくて......僕の方こそ、どうしてここに?」


「僕はこの魔法学園の雑用係のお仕事をしていて、この旧校舎を探検するのが楽しみなんだ」


なるほど、そう言う事か。ちょうどいい。


「お姉さんも一人なの?」


「それがどうしたの?」


「僕、友達がいなくて、寂しくて。その……お姉さん、僕の友達になってくれないかな?」


少し震えて、勇気を出して言っているようだった。


ほんとちょうどいい。この毒がちゃんと効くかどうか、試してみないとわからないものね。


こんな平民の子供じゃ、いなくなっても、誰も気にしやしないだろうし、毒の効果が薄くても後で嫌疑をかけられるのも嫌。


「そっか、お姉さんも一人なんだ。友達になろ?」


「は! ほんと!!」


「もちろん。もう寂しくないわよ」


そう、もう寂しくなんてなくなるわ。


何しろ、もうじきあの世に行くんだから。


私は持参していたドリンクのボトルに小瓶の毒を全部いれる。


「ねえ、こっちで、一緒に休まない? 私、紅茶を持って来てるの。おしゃべりしない?」


「おしゃべり!!」


楽し気な笑みを浮かべるバカは喜んで私の近くによって来た。


ほんと、バカ多いわね。


そして、近くに一緒に座ると、一口、ボトルに口だけつけて、中身を飲んだふりをする。


「さあ、私の特性の紅茶よ。美味しいのよ。飲んで?」


「う、うん。ありがとう!」


そういうと、安心しきってボトルの紅茶をゴクリと飲み干す。


「味はどう?」


「美味しい! こんなに美味しい紅茶は初めて! ありがとうお姉さん!」


? どういう事? 毒はやはりただの水になってしまったの?


「い! 痛い! 何か身体の中が熱いよぉ!」


突然大声で叫ぶと、目の前の子供の顔色が真っ青になって行き、更に体中が真っ黒に変わって行く。


見るからに汚らしい色。


そして、全身が真っ黒になる前に。


ビチャ!


身体が弾け飛んだ。


「ちッ。汚いわね。汚れたらどうしてくれるのよ」


抱き着きでもされて、よだれとか、毒が私に付着するのを恐れて、戸棚の影に隠れた私には幸い汚らしいモノが付着することは無かった。


だけどその辺にばばっちい肉片や真っ黒な汁が飛び散っている。


「ちゃんと強力な毒だったのね。しかも、真っ黒に見苦しい姿になった上、この汚らしい肉片に代わるなんて、なんてリーシェに相応しい最後なのかしら?」


どうやら、無味の上、無臭らしい。


その上透明。


これ以上という毒はない。


何より、毒が強くて、流石にリーシェでも、これを飲んで平気な訳がない。


これを飲んだら......。


リーシェが汚らしい肉片に代わることを想像すると、愉悦が収まらない。


「それにしても、本当に汚いわね……」


私は出来るだけ汚物を踏まないように注意深く、研究室を出た。

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