第33話再びラテラルシンキング
「リリさん、あなたの水平思考の力を貸して欲しい。私には出来ない事」
「もちろんっス。うちは逆に垂直思考が苦手っス」
「水平思考? 垂直思考? 何なの、それ?」
「委員長はしばらく黙ってるっス」
年下のリリさんの指図にギルバートはあっさり納得する。少し可哀想だけど、今は説明している時間も惜しいですね。
「まず最初に前提を破壊するっス」
「前提の破壊。しかし、一体何を疑うの? 殺人事件の前提って何かしら?」
「簡単っス。そもそも犯人の目的が殺人ではないと言うケースっス」
「!? それは大胆な仮定ね、そんな観点から考える自警団はいないわ」
なるほどと思った。目的が殺人ではないとすれば、一体何なのかしら?
「これを見て下さいっす」
リリさんが取り出したのは、新聞の切り抜きだった。リリさんも単独でも調べるつもりだったのですね。
「地図に殺人現場をマークした物だね」
「委員長、そうっス。新聞の切り抜きを持って来たっス」
新聞はこれまでの殺人現場をマークし、何か共通点を見出そうとしていた。
記者の結論では、唯一の共通項は金曜日にのみ犯行が行われ、現場や被害者に共通点は見出せないとしていた。
クロエさんの時は泉だったが、その前は公園だったり、人けのない路地だったりなのですね。
!? 私は金曜日と聞いて、一つ思い出す事があった。そして犯行現場に共通点があることに。
「ギルバート。この場所、子供の頃にあなたがよく誘ってくれた、聖地じゃないの?」
「え? あの小説の聖地巡礼の事?」
ギルバートは子供の頃、小説にハマっていて、その舞台はこの街だった。
それで、あちこちその場所に四人で行っていた。
「ねえ、ギルバート。あなたの読んだ小説って、何て本だったの?」
「う〜ん。子供の頃だし、よく覚えてないな。ごめん」
「謝らなくてもいいわ。それより、聖地の場所は覚えてない?」
「ごめん。それも覚えてないや」
「……そう」
そうなると、手がかりは私の記憶だけですわね……あの頃の記憶は曖昧なのですが。
私は地図を見つめ、一つの事に気がついた。3箇所には記憶がある。
「リーシェ様、その聖地巡礼って何スか?」
「あら、ごめんなさい。ギルバートが子供の頃に読んでいた小説の舞台がこの街だったの。それで、みんなでその小説の舞台となった場所や建物を巡っていたの」
「そうっスか。もし、その小説の聖地と現場が一致すると、何かわかるかもしれないっスね」
「そうね。私は多分、3箇所位は思い出せるかしら」
「リーシェはすごいな。僕は全然覚えてないよ」
ギルバートは記憶力が昔から弱点でしたわね。性格の割に運動神経は良かったですけど。
私は記憶に残っている三箇所を地図にマークした。その内の一点は重要である事にも気が付いた。
「ちょっと待つっス。これって?」
「そうよ。これは」
「五芒星?」
私のマークした場所な三箇所。だが、地図の空欄の中心地ともう二箇所の殺人現場を記すと、誰でもわかる事が浮かび上がってきました。
「ギルバート、そうです。聖地はこの街の中心にある時計台を中央に置いて、五芒星を形作っていますわ」
「よくは思い出せないけど、聖地は何か、悪い奴らを封印するとか、そういう話だった様な気がする」
「すると、残りの五芒星の一箇所を張っていれば犯人に出くわす、って、事っスか?」
「そうなるわね」
金曜日の聖地巡礼。ギルバートはいつも金曜日に誘っていた。確か、金曜日なのも小説の内容から来ているらしい。
「さすがリーシェ様っス。殺人が動機じゃない事からここまで捜査範囲を絞れたっス」
「リリさんが前提を破壊してくれたからです。殺人が動機じゃないと聞いて無かったら、あの聖地巡礼とこの事を結びつけて考えようなんて思わなかったです」
「へへ、リーシェ様に褒められたみたいで嬉しいっス」
「じゃ、次の金曜日に残りの一箇所の湖を張っていればいいんだね? 僕も協力するよ」
「委員長じゃ、足手纏いになるっス」
「そんなぁ。僕、これでも剣術の授業じゃ一番なんだよ」
「いざとなったら、腰を抜かすっス」
ふふ、そうね。ギルバートは肝心な時にはいつも腰を抜かしてましたね。
森で蜘蛛を見た途端……懐かしい思い出が少しずつ蘇って来ましたわ。
その日は月曜日だったので、お開きになり、帰途に。
私は馬車の中で思案した。どうしてギルバートと私達、幼馴染四人の記憶はこんなにも薄いのだろう? 特に残り一人の幼馴染は顔も名前も思い出せない。
ギルバートとは、その後も親交があったのでかろうじて記憶がありますが、何故なのでしょうか?
そんな時に古い古書店が目に入って来ました。
「ジャック! 馬車を止めて下さい! お願いします!」
「お嬢様、前みたいに突然飛び出さないで下さい。それは約束して下さい。このジャックめはリーシェ様を守る事が務めですぞ。リーシェ様は少々ご自身の武の才を過信し過ぎております」
「あの時はごめんなさい。気をつけるわ。この間攫われた時も何も出来なかったし、ジャックの言う通りです。古書店に寄りたいだけです。危ない事ではございませんわ」
「了解しました、リーシェ様。それなら、そこの場繋馬に止めます。くれぐれも飛び出さねぇで下さい」
「わかったわ、ジャック」
そして、私は古書店に寄った。この本屋がギルバートがよく本を買っていた場所だから。
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