第28話アリアとティア
「……と、言うことは先程のアリアさんは」
私は今回の依頼に必要な情報を得るために図書館で、百年前の戦争の記録や伝承を読んでいました。王国にもたくさんありますが、やはり敵国側の伝承や記録とは多少の差異がある。
しかし、それは瑣末なことです。概ね、両国の伝えたい事実に違いがございません。
そして、あのアリアと名乗った少女の正体に私は気がつく事ができました。
幸い、彼女らの肖像画が残されていました。二人はこの地の領主の娘。
そして、百年前に戦争の犠牲になった渦中の人であり、この地の英雄とされている。
にわかには信じられませんでしたが、私の推理ではそう。後は実際に答えをアリアさんに聞くしかありません。
私は図書室を後にし、奉仕部の部室へと戻り、皆と池のほとりへと向かいました。
「リーシェさん。本当に大丈夫なの? あなた、表情が強張っていますわよ?」
「クロエさん。大丈夫です。これはサフォーク家の私が解決しなければならない事です。それに、クロエさんにも関係していましてよ」
「私? 私に関係なんてあるのかしら?」
「知っていて、あえて黙っていましたけど、あなた、この地の領主の娘。違いますか?」
「……やっぱり、気がついていたのね」
「リーファ商会で、あなたのフルネームを聞いて、わかったの」
魔法学園では通常姓は名乗らない事になっている。魔法学園内では平民も貴族も区別されない。故に、貴族である事が知れる姓はあえて名乗らない。
学園外のリーファー商会で、偶然、クロエさんの姓を知って、それを知った。
だからこそ、アリアさんの正体に気がつく事ができた。
紫の髪は珍しい。おそらくクロエさんのカーライル家の血統なのだろう。
アリアさんの髪も紫。彼女の言う、幽霊もまた紫の髪。
これが意味する事に一つの仮説ができた。
「着いたようだよ。アリアさんは先に来ているみたいだね」
「そのようね。と、言うより、最初からこの池に縛り付けられているのだと思う」
「え?」
「リーシェさん、どういう事?」
「神様、幽霊なんていませんよね。いないっスよね?」
「アリアさんが全部教えてくれます。百年前の戦いの最後の遺恨を」
皆、息を呑む。リリさんだけ、皆と違って、自分の世界に入って恐怖と戦っているようですが、それを楽しんでいる余裕はございません。
全く、あの冷血漢はなんて依頼を私に突きつけてくれるのでしょうか?
私はシスターのボランティアはしておりますが、本当の聖職者ではございません。
頼む相手が見当違いではございませんこと?
あの冷血漢に心の中で毒づきながらもアリアさんの元へ向かいます。
「アリアさん、お待たせしました」
「いえ、私もつい先程着いたばかりですので」
それが嘘である事は承知しているが、あえて言わない事にしましょう。
「し、少女の幽霊は出るっスか?」
「リリちゃん、そんなの出る訳ないよ、ないよね?」
「いえ、います。私達の目の前に」
「「「え?」」」
三人共、同時に驚きの声を出す。
「アリアさん。あなたがその幽霊なのではありませんか? 百年前の戦争の犠牲になった人物。それがあなたですよね?」
「……わかってらしゃったのですか?」
アリアさんはあっさりと肯定しました。しかし、この謎解きはこれからが本番。
「あなたは何故死してもこの地に囚われているのですか? 聞いて欲しくて奉仕部へと来たのではないですか?」
「はい。私はあなたに聞いて欲しかったのです。私の怒り、憤り。王国の人間のあなたに」
「あなたが犠牲になった百年前の戦争の相手、つまりレンブラント王国の人間の私に聞いて欲しいという事ですね?」
「はい」
池のほとりに幽霊が出るようになったのはちょうど私がこの学園に転校した頃らしい。王国の血を強く引く私に彼女は反応したのだろう。
彼女は遠くを見つめ、話し始めました。
「百年も経っていたのですか。あんな愚かな戦争はもう止めて欲しい。あなたはレンブラント王国の上位貴族なのでしょう? 私の無念を聞いて、もう二度と戦争をして欲しくはないです」
「あなたはどのような運命を辿ったのですか?」
「私は学生でしたが、騎士として戦場に立ち、そしてこの地で果てました。あなた達王国の人間は私にどんな仕打ちをしたのか? 私は敗れただけではなく、王国の兵に蹂躙されました。戦争なんて止めて欲しい。あなたも女性なら、私の屈辱をわかって頂けるのではないですか?」
そう言うと、彼女の姿は学園の制服から騎士の出たちと変わりました。
「ひッ! 本物!」
「リリちゃん、黙って、ここはリーシェに任せよう」
クロエさんが私の方を見て、コクリと頷く。おそらく彼女も気がついたのだろう、このアリアさんの誤解に。
「先程、図書館で100年前の戦争の事を調べて来ました。帝国と王国は戦争となり、王国側はこの地に攻め入り、あなた達魔法学園の生徒も戦争に駆り出された」
「その通りです。まだ学生だった私達も戦争に動員されました。魔法が使える私達学生は戦力として数えられました。戦争する覚悟なんて、誰一人できていませんでした。それでも私達は戦いました」
「このブランシュの街の市民がこの地を脱出し、援軍が来るまでの時間稼ぎのためにですね?」
「はい。帝都からの指示に従い、私達は戦いました。王国の人だけが悪いとは思っていません。でも、戦場で騎士として戦った私は殺されただけでなく、蹂躙されました。その事が私をこの地に縛りつける恨みなのです」
「それは違います。アリアさん、いえ、あなたはアリアさんではありません。ティアさんです」
「え?」
アリアさん、いえ、ティアさんは戸惑った声を出して、私を見ていた。
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