第27話最初の依頼者

「今日、最初の依頼者が来るのね?」


「ええ、クロード殿下からはなんでも、私に拘りがあると」


「リーシェさんに拘わりがある? 不思議な言伝ですね?」


「ええ、あのお方は一体何を考えているのやらです」


「リーシャ様! 最初の依頼者がやってきました!」


「あら?」


リリさんが明るく最初の奉仕部の依頼者を連れて来てくれました。


内容はこの方の悩みを聞いてやってくれというものです。


「ようこそ、奉仕部へ。私はリーシェと申します。あなたは?」


「わたくしは2年生のアリアと申します。実は幽霊を見たという人がいまして」


「幽霊?」


私は依頼内容があまりに突飛すぎて、思わず椅子から立ち上がってしまいました。


「そんな非科学的な」


「見間違い……ではないのですか? リーシャさんもそう思いません?」


「ゆ、幽霊、ゆうれいなんていない。いないっス。絶対っス」


ギルバートとクロエさんが最初から否定から入るのに対してリリさんは……どうやら幽霊が苦手のようですわね。いけませんわ。嗜虐心がムクムクと湧いて出て来ましたわ。


「幽霊をどこで見たというのですか?」


「校舎裏の池の上を歩いて行く幽霊を見た人が大勢いるんです」


「ひっ! 池の上歩くって、本格的っス!」


リリさんの悲鳴は心地よいですわ。いつも無茶苦茶してギルバートを困らすので密かにお仕置きしましょう。正直、私も幽霊なんて信じていませんが、ここは話を合わせましょう。


依頼者の気持ちもございますし、それなりに証拠や論拠もなく、彼女の言う幽霊が存在しないと断定するのもどうかと思います。


「あなたも見たのですか?」


「いえ、私は見た事がありません」


私は彼女を観察した。魔法学園の制服。だが、おかしい点が一つある、それはループタイが黄色である点。この学園のループタイはこの百年間、ずっと赤、青、緑の三種。


そして、現在だと一年が緑、二年が赤、三年が青と決まっている。


ループタイの色が変わった事には理由がある。


「見た人はその幽霊の姿をどのように言っているのですか?」


「騎士の姿の少女の霊です。帯剣し、まさに戦場から帰還したばかりという風体でした。池のそばへ行くと、必ず現れると言うのです」


「その少女の特長は? 髪の色とか、長さ、目の色は?」


「髪は長く、色は紫、目は濃い緑だとか。しかし、言葉で話すより、直接見て頂いた方が早いと思います。夕暮れ時に池に近づくと、必ず現れると言うのです。百聞は一見に如かずです」


「わかりました。しかし、夕暮れ時というと、未だ少々時間がありますね。校舎裏の池のほとりで午後6時頃待ち合わせを致しませんか?」


「わかりました。では後程、お会いしましょう。池のほとりで待ちます」


「では」


私がアリアさんを見送ると、皆、一斉に言葉を放った。


「リーシェ、本当に幽霊なんて信じるの?」


「て、言うか、幽霊がでるなら行きたくないんだけど」


「幽霊なんていません。絶対にいません。お願いだから出ないでっス」


ギルバートは疑問に思い、クロエさんは涙目で私は見て、リリさんはとても楽しいことに壊れています。


何故こんな話を真面目に受け取るのか? ですか? それはクロード殿下の言った私に拘る事、そして先ほどの少女、アリアさんの黄色いループタイ、そこから導き出せる物は……おそらく百年前の戦争が関係しているのでしょう。


何故なら、あの戦争のレンブラント王国の主隊は我がサフォーク家。そして、この魔法学園のあるブランシュの街は帝国の抵抗した地であり、この地での抵抗が凄まじく、足止めをされた王国軍が帝国軍に包囲殲滅された経緯がある。


サフォーク家の私に関係があり、百年前の魔法学園を思い出させる黄色いループタイ。


何か、因縁が絡んでいるのかもしれません。私は胸元の短刀を使う事になるかもしれないと、覚悟しました、そして。


「ギルバートは帯剣してきて頂けるかしら?」


「学園内で帯剣? 別にいいけど、なんで?」


「私にもまだわかりません。ただ、万が一の時には……」


「き、危険があると言うの?」


「わかりません。ただ、危険になるとしたら、私だけの筈です。ギルバートは万が一クロエさん達が巻き込まれた場合の保険です」


皆、神妙な顔をして私を見る。


「私には心当たりがございます。これから図書館で少々調べものしてくるので、皆さんはここで待っていてください」


「大丈夫なの? リーシェ? それに僕に帯剣しろなんて、相当物騒な話?」


「そうなる可能性がある……と、言うだけですし、そうはならないかもしれません。ですから、いざと言う時には……」


「わかった。僕が剣でみんなを……」


「いえ、いざと言うときには私に剣を貸してください」


「え? そっち? これでも僕、剣技の授業、学園一だよ?」


「ギルバート、あなたを信じていない訳じゃないの。ただ、これはサフォーク家の問題だからなのです。あなたに無益な事をさせるのも、あなたが傷つくのも筋違いだと思います」


皆、驚いている中、私は図書館に向かった。


おそらくこれは百年前の戦争の遺恨が残したもの。


百年前に起きた悲劇。我がサフォーク家の嫡男とこの地の領主の娘だった二人に起きた、今も両国で語り継がれる物語が関係していると思います。

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