第26話奉仕部

放課後に意地の悪い顔をしたクロード殿下に呼ばれましたわ。


きっと、ろくでもない事を企んでいるに違いありません。


「リーシェ君、君には生徒会奉仕部に入ってもらう事にした」


やっぱりそうでした。顔を合わすや否や、唐突に告げられる。


「えっと、唐突に何をおっしゃるのですか、クロード殿下?」


「うん? 君みたいに聡明な女性に説明は不要だと思うが?」


「つまり、皇族の力を使って、既に根回しされていて、私に拒否権はないとおっしゃるのですか?」


「やはり理解が早いな。そう言うことだ」


何がそういう事ですか? 勝手に一体何を?


「お約束が違うのではありませんか? 婚約者になったら、何にもせず、グータラしてもいいと約束頂いたではないですか?」


「おお、では、直ぐにでも婚約してくれるのかな?」


グ!!!!ッ!?


悔しい! ああ言えばこう言う、ほんとに腹のたつ婚約希望者ですわね。


私は気楽に生きたいのです。面倒な生徒会なんてごめん被ります。


「ですから、婚約の件はもう少し時間をおいてから考えます。て、言いますか、奉仕部って何ですか?」


「決まってるじゃないか。俺の雑用係だ。はっはっはっはッァ!」


きいいいいいいいいいッ!


不愉快です。権力で人を雑用係にするなんて!


もう、一人じゃ大変だから巻き込もう。


「ギルバート、クロエさん、リリさんも奉仕部に入れてもいいでしょうか?」


「お前も人が悪いな。他人を巻き込むのか? まあ、早急に根回ししてYes以外言えないようにしておこう」


「お願いしますわ。特にリリさんは奉仕部雑用係に任命しておいてください」


「わかった。君も存外人が悪いぞ」


知りません。私は気分が悪いのです。


「ちょ、ちょっ待ってくださいっす!」


「あらリリさん、聞こえたの? 安心して、あなたは名誉ある生徒会奉仕部雑用係に任命されたのよ」


「光栄ッす!」


「え?」


思わず首を傾げた。私なら激怒する所ですわ。


「放課後もリーシャ様と一緒に過ごせるんですよね? 大歓迎っす!」


「あ、あら、そう……それは良かったわ」


しまった。付き纏いを公式なものに。ギルバートとクロエさんだけにしておけば良かったです。


「そう言えば、ギルバート君とクロエ君の姿が見えないな」


「二人共、今日は用事があるみたいで、先に帰ったっス」


「そうか、問題はないな」


問題はあるかと思われます。せめて、二人にも生徒会雑用係を任命された事を伝える位、せめて拒否の発言の機会位……いえ、皇室の力の前には何の意味もありませんね。


……なんて大人気ない方なんでしょうか。


「これで一緒に過ごす時間が増えるな。俺も婚約者と早く、より親しくなりたいからな」


「まだ婚約者ではありません」


とは言うものの、時間の問題ですわね。神様、私は前世で何か悪い事をしたのでしょうか? 出来うるなら、前世からやり直させてくださいまし。


☆☆☆


「と、言う訳で、今日からみんなで奉仕部を運営する事になりましたわ」


「なりましたわじゃないでしょ!」


「あの、リーシェ。僕、そんなの初耳だよ」


クロエさんとギルバートが非難めいた目で私を見る。


許して二人共、私だけ苦労するのは嫌なのです。


「これはクロード殿下に頼まれた重要な雑用係なのです」


「雑用って言った!」


「僕ら、雑用係なの?」


あら、いやですわ。本当のことを言ってしまいました。


「安心してください。クロエさんの処にはさる商人から商談が舞い込んでいる筈。ギルバートの妹さんの処にはさる子爵家の嫡男から婚約の話が出ている筈です。もちろん、クロード様の差し金ですわ」


私はにっこりと最高の笑顔で二人に向けた。


「ちっとも安心できないじゃないの!」


「そうだよ。それじゃ、ほとんど脅迫だよ!」


大丈夫です。私もほとんど脅迫されています。奉仕部やらないと、今日にでもクロード殿下との婚約が決まってしまうのです。


☆☆☆ 


いつからかは分からないが、分かっていることがある。


それはこの世界には異世界人が入り込んでいて、それを駆除しなければならないという事。


少し前の僕は絶えず気が滅入っていたが、今はすこぶる気分がいい。


何しろ、今の僕には重大な任務があるのだから。


神から託された、崇高な使命。


それも、とびっきり刺激に満ちた作業で完結する。


自分でも、どこか壊れているか、夢なのかもしれないと思うが、今はどうでもいい。


初めて使命を果たした時に感じた快感が忘れられないから。


それが自分に死をもたらすものだとしても、決して止める事は、もうできない。


しかし、いつものことだが、異世界人の滑稽な反応には笑うしかない。


僕が少し殴ったり、蹴ったり、目玉を抉り出したりしただけで泣け叫びながら、命乞いするんだ。


許せる訳がないだろ? お前ら、異世界人で、この世界を乗っ取るつもりなんだろ?


何より、そんな顔されたら、楽しいじゃないか?


余計もっとやってくれてと言っているようなものだろ?


何を僕の足にすがりついて、泣いて懇願なんてしてるの?


そんなみっともなく潰れた鼻の顔で頼まれても、聞く訳がないよね?


何を泣きわめいてるの? なんか、背筋がゾクゾクとして来たよ。


え? 何でもするから助けてくれって? そう。なら、死んで。


気が付くと、僕は笑いが堪えられず、大笑いで、その女の子を殴り続けていた。

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