第24話平穏
私にようやく平穏が訪れ、例の小瓶の騒ぎも一段落しました。陛下は私と一緒にグエル様の件の謝罪と私の血筋の事をお父様にお告げになられました。もちろん、私を亡き者にしようとした事は内密にしております。内乱でも起これば、一番傷つくのは民ですから。
父は泣いておりましたが、どうも父も察していたようですね。お母様と別れた直後に発表された王女殿下の訃報。元々父は母がどこかの貴族の娘とわかっていた様です。
運命の悪戯としか言えません。それまで婚約者も無く、家を継ぐ必要もなかった父。
あまりにも奔放で変わり者との評判が拡散してしまった母。第一王女であった母に政略結婚の話が無かったのは、王家として、嫁に出す事がはばかれたようです。
二人共、社交界には顔を出さず、自由気ままな二人は平民を装い、時を同じくして出会ってしまった。そして二人の愛の結晶として、私が母に宿った。
運命の歯車は突然動き出しました。父の兄が亡くなり。父が家を継ぐ必要に迫られ、父の兄の婚約者は帝国の貴族で、おりしも両国間に緊張が走っていた最中。先方も新たな婚約を父と結びなおす事に躊躇したとのこと。
それに父の兄と婚約者はたいそう仲が良く。元婚約者様はその後、新たな婚約をせず、今でも教会でシスターとして働いているとか。
代わりに新たに浮かんだのが第一王女との婚約。王家は帝国と領土を接する我が辺境領のサフォーク家を重要視し、二人に新たな婚約の話が舞い込んだ。
陛下はこんなことをおっしゃいました。
「姉上は何故、愛した人が辺境伯卿その人と知りながら出奔すると言う道を選ばれたのだろうか? 打ち明けてもらえば、お母様も許してくれただろうに……」
「陛下。その話は我が娘の前ではやめて頂けませぬか?」
「!? ハッ!! そう言うことか! 済まぬ。辺境伯卿、リーシェ嬢。ワシは姉と違い、愚かな男じゃ。すぐに頭が回らなんだ。許してくれ」
「もったいない言葉です。我が娘の事を気遣って頂けるとは光栄の極みです」
母が出奔した理由。それは私の為だ。二人の婚約の話が持ち上がった時、母はすでに私を身籠っていた。婚約が成立した日時から、私が不義の子であると思われる可能性があった。
王家の娘が自由に市井に出て、偶然、父とで会ったなど、誰が信じようか。
もし、二人が婚約となれば……私は堕胎されて……そう、私は母に救われたのだ。
「重ね重ね、我が王家はサフォーク家に謝罪では済まない事をしてしもうた」
「陛下が気に病む必要はございません。陛下、いえ、叔父様、と、今日だけ呼ばせて頂いて宜しいでしょうか?」
「おお! 私を叔父と呼んでくれるのか? グエルめの監督が不十分だったワシにその様な嬉しい事を言ってくれるのか?」
「はい。叔父様」
私はとびっきりの笑顔でそう言った。
「ありがとうリーシェ嬢。愚息とはいえ、グエルめと結婚してくれたら、姉上の娘と話す機会も多くあり得たじゃろうに。ワシもグエルめも本当に馬鹿じゃ。グエルめは廃嫡する。リーシェ嬢無くして王太子は無理じゃ。ましてや王など務まらん。せめて努力する才能があれば良かったのじゃが」
「叔父様、もうグエル様の事で気を病むのはおやめ下さい。お気持ちは嬉しいのですが、過ぎた事です。これも運命なのです。父と母がそうであった様に」
「「……」」
父上も陛下も沈黙してしまいました。二人共母の事を思い出しているのでしょう。
「……そう……だな。もう過ぎた事じゃ。それにリーシェ嬢には新たな求婚者、それも帝国の皇子からと聞いておる。ほんに、帝国にはやられっぱなしじゃわい。辺境伯卿の正妻の座には元帝国の王女が座っているという次第じゃからな。それと言うのも、王家のサフォーク家への感謝が足らんかったからじゃろう」
「それは違いますぞ、陛下。恐縮ですが、これも運命なのかと思っております。ハイジとは死に別れ、愛するリーシャを失う所でした。ハイジは頭の良い、素晴らしい女性でした。しかし、これは運命だったのです。私は今の妻を愛しております。ハイジとは違い、他人から互いに距離を近づけて行きました。彼女も私には過ぎた女性です。運命……その一言で片付けるしかないのです。実際、彼女は我が国との平和にかなり貢献してきたと自負しております」
「そうじゃったな。そなたの奥方には感謝せんとな。奥方のおかげで先の紛争も早めに終結できたのじゃからな」
私は父が今の母の事を愛していると聞いて安堵した。実母はもう鬼籍の人です。世界は生者の物です。きっと、ハイジ母様も喜んでくれていると思います。
もし、私だったら、悲しみに暮れて生きて行く父では無く、新たな愛情を育んで幸せに生きて欲しい、そう思いますわ。だって、アンネリーゼお母様はとっても良い人ですもの。私にも義兄と変わらぬ愛情を注いでくださる方。唯一の欠点と言えば、ヴォルグ兄様を産んだ事ですわね。あの義兄めは本当の妹同然に育った私を自分の嫁へと狙っております。
時々、お兄様の目が怖いです。猛禽類に狙われている様ですわ。
「そうだ。辺境伯卿よ。王家に遠慮せず、例の帝国の皇子との婚約を結んでくれ。例え、リーシェ嬢に王家の血が流れている事を公表しないと言う判断をしても構わん。ワシは可愛い姪の幸せを一番に考える。それが王家の誠意と思ってくれ」
「わかりました、陛下」
お父様、わからないで下さいまし。それでは、私はあの冷血漢との婚約待ったなしではございませんか? もう、いっそ、ヴォルグ兄様の嫁の線も視野に入れましょうか? もう、やけくそです。
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