第17話真実
「謎は解けたのか?」
「はい。間違いなく」
「その言葉、信じよう。依頼主の元へ案内する」
目隠しをされたまま仮面の男にそう告げられると、何処かに連れて行かれた。
途中に奇妙な違和感を覚えましたわ。おそらく転移の魔法門をくぐらされたのでしょう。
転移の門とは魔導士達が数百年単位で作り上げた高速移動手段ですわ。
このブランシェの街にはレンブラント王国の首都までの直通ゲートがございます。
しかし、それを使えるとなると、この仮面の男と依頼主の正体......いえ、実は薄々正体に察しがついております。
長い廊下を歩かされて、広間と思しき場所に到着すると、目隠しを取られました。
「レンブラント王国王宮、翡翠の間ですわね?」
「君は何度かここに来ているのか?」
「はい。良く知っております。王太子候補の元婚約者でしたから」
「そうか」
王宮の翡翠の間に連れて来られたという事はやはり依頼主は王族縁の者、というより王族の最高位の者と考えた方が良さそうですわね。
しばらくすると、レンブラント国王、アルフレッド・レンブラントが姿を現した。
「お久しぶりです。陛下」
そう言って、スカートをつまみ、一礼をする。
「リーシャ嬢、犯人がワシと知れても驚かぬのか?」
「ある程度察しはついておりましたわ」
「......そうか。やはりそなたは賢いな」
険しい顔をした陛下は仮面の男の方を見た。
「レンブラント国王。約束通り、答えを持って来た」
「意外だな。お主の事だから、いともあっさりと、リーシェ嬢を殺害すると思っておった」
「俺は楽な道を選んだだけだ」
「楽? あんな訳の分からない小瓶の謎をか?」
「ようはお前の出す難題をこなせば良いということだろう?」
違いないと、陛下は笑みを浮かべると、質問をして来た。
「さあ、例の小瓶の持ち主を言い当てよ。ワシを納得させれば、例の刃傷沙汰の件はお互い不問としよう」
「そう言って頂くとありがたいな。では、リーシェ嬢、答えを教えてくれ」
仮面の男に促されて、私は課題の答えを紡いでいた。
「この小瓶は私の母、ハイジ・レインの所有物でした。しかし、現在の所有者は......私です」
「な! 何だと!」
「どういうことだ?」
二人共、私の出した回答に驚きを隠せないようだった。
「説明させて頂きます。この小瓶は私の母、ハイジ・レインの所有物でした。証拠として、元ハイジ商会の店員ジルの覚書を提出します。そして、この小瓶の所有者が私である証はここにあります」
そう言って、小瓶を上にかざす。
「その小瓶が何なのだ? それがそなたの物だと示す証拠などない筈じゃ。小瓶の持ち主がハイジ・レインの物だとしても、それが何故、現在の所有者がそなたという事につながるのじゃ?」
「この小瓶には昨日まで水が入っていました。現在はハイジ商会の化粧水が入っています。水が入っている時は誰も気が付かなかったのでしょう。このメッセージに」
「見せて見ろ」
仮面の男は私の持っていた小瓶を取り上げる光源にかざして眺めた。
「......なるほど。化粧水には薬草の他、魔法薬が配合されている。その魔力に反応して、小瓶の表面にメッセージが現れたのか?」
「その通りです。メッセージを読み上げて頂けますか?」
「ああ。わかった。『愛するリーシェ・レインに贈る。母ハイジ・レインより』」
謎は解けたが、陛下は険しい顔を緩めなかった。
「わかった。謎は解けた。お主の役目は終わりだ。約束通り、例の件は互いに不問。よいか?」
「よくはありませんな。俺は約束を守ったが、あなたはこの娘をどうするつもりだ?」
「お主には関係ないことだ。小瓶の謎と、この娘の生き死には関係ない」
「それでは騙したようなものではないか? そもそも、この娘を殺害して何の得がある?」
仮面の男の言う通りだ。こんな面倒な事をしておいて、結局、私を殺害など、理解ができない。確かに王宮内で殺害されれば、サフォーク家も犯人を特定することが難しいだろう。
だが、それに一体何の意味があると言うのか?
「その娘の存在は我が王国を危険に晒しておるのじゃ! ましてや帝国皇室と婚姻など結ばれてはたまったものではない!」
「それは身から出た錆だろう? それに俺がそれをみすみす見逃すとでも?」
「お主も所詮、政略目的じゃろう? 今、帝国は北の強国ヘルクと一触即発の危機に瀕しておろう。今、我が国といざこざを起こすことは互いに得策ではないじゃろう?」
確かに私の存在は王国にとって、やっかいな存在だろう。だが、私が殺害される、もしくは失踪した場合、最も疑惑が向けられるのは国王その人の筈だ。
それに小瓶の謎解きは何のためだったのかが、皆目わからない。
「力ずくで解決するしかないようじゃな」
「国王。その気なら、全力で阻止する」
国王と、仮面の男が抜刀する。
「いい加減に止めぬか! このバカ息子!」
「は、母上? 何故ここに?」
そこに現れたのは、国王陛下の母、王太后カーミラ・レンブラントだった。
「グエルといい、お前といい、我が王家の男共は一体どうしたというのじゃ? 冷静に考えて正しい対処ではなかろう? リーシェ嬢に何かあれば、もっと疑られるのはお主じゃろう? にもかかわらず、自ら手を血で染めるなぞ、愚の骨頂ぞ!」
「し、しかし、母上がおかしな小瓶の謎など解かせるから、帝国にこの娘を殺害させる計画に支障が生じたのではないですか? 何故母上はこんな何処の誰ともわからない女の娘の小瓶になど執着されておられる? 一体なぜ?」
王太后カーミラ様はため息を吐くと。
「お主の耳はただの飾りか? どこの誰ともわからない女の娘じゃと? 本気でそう言っておるのか? 私がお前の相談に小瓶の謎の注文をつけたのは、お前の暴走を止めるためじゃ。わからぬのなら、解るように説明をしてやろう。何故小瓶の持ち主がお前に必要な情報なのか」
「一体、この小瓶の謎にどんな意味があるんだ? この娘が所有者と聞いて、驚きはしたが、今回の件に一体何の関係があるのだ? 王太后、教えてくれ」
仮面の男が答えを要求する。当然だろう。こんな訳の分からない命題に答えても一体何の意味があるのか?
「おや、帝国の男も我が国と同レベルかえ? 少々安心したぞ。そうじゃな。我が国の女が優秀な処を見せるべきじゃな。リーシェ嬢。お主は察しはついておるのじゃろう? それを申してみよ」
「はい。畏まりました。王太后陛下」
そう言って、頭を下げて、礼をする。
「これはあくまで推測です。答えは王太后陛下がご存じでしょう。私の推測では......私の母、ハイジ・レインは17年前にお隠れになった当時の王女殿下、アリス・レンブラントその人だと思います」
私の発言に王は言葉を無くした。
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