第14話ロジカルシンキング

「ここで、この小瓶の持ち主がリーシェ様のお母様という可能性が見えてきたっす。なら、今度は論理的思考ロジカルシンキングで攻めるっす」


「今度は論理的思考な訳? 随分と節操がない考え方ね」


クロエさんが不満を口にしましたわ。無理もありません。リリさんに振り回されている感はぬぐえないのですから。


「えっと、そういうことだと、話はまた初めに戻って、リーファ商会に行った方がいいということになるのかな?」


「そういうことになるっす。どこの誰だかわからない人の持ち物はわからなくても、特定の人の物ならわかるっす。それが8年以上前のリーファ商会創立前のことなら、なおさらっす」


「そうね。私の母の持っていた小瓶がリーファ商会所縁の物で、この小瓶がその中の一つだとしたら、真実が見えてくるのかもしれませんわ」


「......」


「クロエ、どうしたんだ。下唇を噛んで?」


「ねえ。気が付かないの? リーシェさんの名前は帝国風よね? だけど、レンブラント王国風の発音だったらどうかしら?」


「そ、そうだ! 王国風ならリーファだ!」


様々な情報が私の母に集約されて来た。これ程の難問がここまで簡単に解決しそうになるなど、夢にも思わず、驚くばかりだ。


それにしても、リリちゃんは一体何者なのだろうか?


私は一抹の不安を覚えた。あまりにも都合が良すぎる存在。


いくら飛び級の天才でも、ここまで短時間で有力な手掛かりを得てしまうのはあまりの不自然だ。


「とにかく、放課後にリーファ商会に行こうよ」


「皆さん、お願いしますわ」


「水臭いこと言わないで頂戴。ここまで来たからは最後まで付き合うわ」


「うちはもちろんリーシェ様と生涯を共にする覚悟っす!」


それは止めて欲しい。


☆☆☆


放課後に四人でリーファ商会を訪ねた。


私の馬車で三人を乗せて移動した。


「馬車で通学なんて、すごいんだね、リーシャって」


「止めてよ、ギルバート。元は平民よ。単に運がいいだけで、私の力ではなくてよ」


「リーシェさんは貴族らしくないと思っていましたが、その理由がわかりました。でも、良い資質だと思います」


クロエさんから褒められてしまいました。この方も子爵令嬢なのに、男爵子息のギルバートと仲良くしているあたりから、やはりあまり身分にこだわらないタイプみたいです。


それに、恋敵と思っている女を褒めるなんて、それこそ良い資質だと思います。


ギルバートは幸せ者ですわね。


「リーシェ様が馬車通学で安心したっす。最近、若い女性の殺人事件が起きたばかりっすから」


「あら、そうなの?」


「ええ、本当よ。なんでも、現場は真っ赤に染まっていた猟奇殺人だったそうです」


クロエさんから恐ろしい話を聞いて身ぶるいする。


武に心得はございますが、その手の猟奇的な殺人にはどうも恐怖しか覚えません。


「つきましたぞ。お嬢様方」


「ジャック。いつもありがとう」


「もったいないお言葉です」


ジャックが馬車を停めに行っている間に四人でリーファー商店の門をくぐる。


シックにまとめられた内装はかなり高級店の佇まいをかもし出していますわ。


「これはクロエ・カーライル様、いつもごひいきにして頂き、ありがとうございます」


「こちらこそ、いつも良い品を提供して頂き、感謝に絶えませんわ」


どうやらクロエさんはここの常連らしい。


店員がこちらを向いたので、つい、スカートを摘み、挨拶を返す。


リリちゃんはガン無視で、既に商品を物色している。


ギルバートは所在なげである。まあ、男性が入る所ではなくて、当然でしょう。


奥には下着なども見え隠れしてますから、いたって当然の反応ですわ。


後で、よくお礼を言っておきましょう。もちろん、クロエさんにも。


リリさんは。


なんかどうでもいいような気がして来ましたわ。


「こちらのお嬢様は?」


「リーシェと申します」


「レンブラント王国の辺境伯のご令嬢よ。きっと、リーファー商会を気に入ってくれると思うわ」


「これは、これは、サフォーク家のご令嬢とは、失礼いたしました」


そう言って、膝をおり、手を胸にし、最敬意を払う店員さん。


中々教育が行き届いていますのね。見事な所作です。普段から高位貴族が出入りしているのは間違いないようですわ。


ここは、リーファー商会から有力な情報が得られなくても、何か購入させて頂けませんといけませんわ。


「そこの店員君。聞きたいことがあるっす!」


「こちらの方は?」


「私の学友で、リリさんと言います。可愛らしいでしょう?」


「クロエさん、そんな本当の客観的な事実なんて言ってないで、早く小瓶の話をするっす」


クロエさんと目が合う。ホント、リリさんはマイペースですわ。


「リリ様ですか、よろしくお願いします。しかし、何かお困り事のようですな?」


「あ、実はサフォーク家のご令嬢に探し物がありまして、お力を貸して頂きたいのです」


「そうですか、ご安心ください。今日は平日ですので、それ程込み合っておりません。わたくしめがお伺いしましょう」


「よろしくお願いいたします」


クロエさんの懇意にしている店員さんは中々好人物のようだった。


クロエさんはリリさんの家名を教えなかった。これは王国、帝国共同じ習慣で、家名を名乗るのは貴族の義務で、平民は紹介される場合でも名乗る場合でもあまり家名は名乗らない。


しかし、店員さんはリリさんに対しても最敬意の所作で応じた。


「そんな堅苦しい挨拶なんて、後にして、早く例の小瓶を見せるっす!」


リリさんが急かすので、止む無く小瓶を取り出しましたわ。


出来れば、先にお買い物を済ませて、店員さんへのお礼を済ませておきたかったですわ。


とはいうものの、ポーチから、例の小瓶を取り出す。


「実は、この小瓶の持ち主を探しておりまして、おそらく10年以上前の物で、私の生みの母、ハイジ・レインの物ではないかと思いますわ」


「ハイジさんの娘さん? それにハイジさんの化粧瓶? いや、このデザインは確かにハイジさんのデザイン? いや、これはもしかして?」


店員さんは何か重要なことに気が付いたかのような顔をしていた。

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