第10話リリさんはヤンデレ
「うちとしたことが、リーシェ様へのご挨拶を忘れてたっす。改めてご挨拶します。リリと言うっす。もろもろの事情で昨日から転校して来たっす。リーシャ様の信奉者として、リーシャ様に相応しい親友となることを誓ったっす。これから末永く、一生一緒に過ごすことになったので、よろしくっす」
「は、はい。......よろしくお願いいたします」
一瞬のことで、現人神から親友にされてしまったことに反応できなかったのを後悔するが、今更遅い。
「ライバルって認めてあげるけど、リーシェ様はうちのモノだからね、わかった!」
気が付くとギルバートに喧嘩を売っていますわ。
「リーシェさん、申し訳ありません。リリさんは悪い子じゃないけど、あなたのことになると見境ないようなので……風紀委員としてお詫び申し上げます」
風紀委員のクロエさんから頭を下げられてしまう。
「百合の方ですから、仕方がなくてと思いますわ。できるだけ関わりになりたくないですが」
「誰が、百合っすかぁ! うち、これでも彼氏いるっすからね!」
いえいえ、言動から察するにそれとしか思えない。
しかし、彼氏持ちの百合って聞いたことがありませんわ。
「ごめんな。リリちゃんはいい子だけど、どうもリーシェの貞操狙ってるみたいで……」
「ひ、酷い! うち、ノーマルなのにぃ! ただ、子供の頃から、王太子妃候補のリーシェ様に興味があって、理不尽な婚約破棄を受けてもなお毅然とした態度でぇ! あ、あああ、こ、この方が生リーシェ様! うちの最愛にして有史以来もっとも美しく、聡明なリーシェ様! な、生のリーシェ様ぁぁぁっっっ……!!!! そんな麗しい目でうちを見てぇ! ハアハアハア!!」
いや、これはあれだ。闇属性のヤンデレというヤツだし、やっぱりヤバい子ですわね。
見ると鼻が広がって、息が荒く、どういう訳か目も血走っているような気がする。
関わりになりたくないですわ。
「ひぃ!!!」
思わず声が漏れてしまいました。
「ところで、ハアハア」
「ちょ、ちょっと、りりさん。少し気持ち悪いですわ」
りりさんはなんと私に抱き着いて来て、ほおずりし始めた。
「だって、学園の制服の清楚系のリーシェ様の破壊力!」
さっきクロエさんと間違えたの誰ですか?
こんな貧相な女が? とか言ってませんでしたか?
「そ、そうですか? て、照れますね」
「大丈夫です。リリなんて今すぐ押し倒したい位です!」
だから、りりさん怖いのですわ!
やはり、父の力を借りて、早めに騎士団に逮捕してもらおうかしら?
「ふぇええええええ!!!こ、これがリーシェ様の生頬の感触!! た、たまらないっすぅうううう!!!!!」
みな狼狽気味だというのに、リリちゃんは一向に気にする様子がない。
もうじき授業が始まるというのに、しかも教室中の視線が集まっているというのに、高速で私の頬を擦り付ける絵ずらは、完全に狂気の世界に逝っている。
私はこの愛らしい変態を家の力で、この世から抹殺すべきだろうか? と本気で思って来た。
何よりさっき、私に相応しい親友になるって言ってなかったかしら?
この変態さんは?
「「「へ、変態だ……百合で、ド変態だ……」」」
同級生の心の声が駄々洩れになって来ていますわ。
あまりの変態ぶりに、クラスメイト全員引いていますわ。
「リーシェ様ぁ……ああ、いい香りがするっす……すうすうこれが我が女神の香り、転校してきて本当に良かったっす」
「リーシェ、大丈夫だよ。リリちゃんはレンブラント王国の豪商の娘でね、害はないよ……多分」
「今、多分って言ったぁ! 多分ってぇ!」
どうもギルバートがリリちゃんを擁護しようとしているようですが、かえって危機感を覚えます。まさか同性の上、こんな愛らしい少女に貞操の危機を覚えるとは思わず、頭が痛くなる。
「リーシェ様、今度、家に遊びに来るっす。そ、そそそ、そして、一緒にお風呂入るっす、あと、一緒に添い寝するっす」
「ギルバート、何とかしてください!」
「リーシェさん、これだけ想われているのですから、少し真面目に考えてあげるのもいいのではないですか?」
「クロエさん! 面倒だからと言って、私を売り飛ばさないでください!」
「わ、わたしはただ、みなが平和にと思っただけでして」
皆の平和のために私の貞操を売り飛ばさないでくださるかしら?
「みんなして、うちがふしだらな気持ちを持ってるみたいに! 決していやらしい気持ちなんてないっす!」
「まあ、その発言で自分の貞操の危険を感じない女の子はいないと思うよ、リリちゃん?」
「おまえは黙っとれ!」
「は、はあ」
「はあじゃなくて、はいっす!」
相変わらずギルバートは舐められているし、クロエさんは私を売り飛ばす方向だし......。
こうして、私の学園での1日目は波乱に満ちたものになった。学園からの帰り道、もっと波乱に満ちたイベントがやってくるとも知らずに。
☆☆☆
「面目次第もございません。お嬢様」
「気にしないで、ジャック、あなたに非はないわ」
学園から馬車で帰宅する途中、賊に襲われました。
並の賊なら執事のジャック一人で蹴散らすのは造作もない筈だった。
彼の見た目は老いた、いかにも執事という華奢で優雅な好好爺だが、ほんの10年前までは我がサフォーク家の筆頭騎士であり、一騎当千とも言われた猛者だ。
しかし、ジャックはあっさりと捕まり、彼を人質に取られた私は、すごすごと捕まり、目を黒い布で覆われ、手足は拘束されて、どこかに連れ去られていた。
「全く、酷い一日だったわ」
「面目次第もございません」
違うのジャック。どちらかと言えば、今連れさられていることより、例のリリちゃんの方が頭が痛いの。
どこの誰かは存じ上げませんが、武家であるサフォーク家の娘に元騎士団長を捕らえるとはいい度胸ではありませんか? 私はリリさんのうさをこの賊で晴らす気ですわ。
幸い、賊は私の胸元に仕込んだ短剣に気が付きませんでしたわ。
きっと、私は猛禽の笑みを浮かべていると思いますわ。
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