第9話変態さんが来ました
「リーシェ様ぁ!」ガシッ!
突然現れた小柄な少女が、扉から全力でダッシュして抱き着いてきた。
......何故か隣の机の少女に。
と、いいますか、この人は誰でしょう?
「リーシェ様ぁ! 心配したっす!!」
「い、いえ、わたくしはリーシェさんではないし、どさくさに紛れておしりを触らないで頂けますか? と、いいますか、そんなに強く抱き着かないでくださいまし、リリさん?」
「ああ、この子犬のような感触と冷たい返しぃ!」
いや、まとわりつく子犬的存在はどちらかと言うと、このりりさんの方ですわね。
なにやら突然現れて、私を現人神に認定した少女はロングボブのキラキラと輝く亜麻色の髪が特徴の可愛らしい女の子でした。
ただ、私と隣の子を間違えた上、セクハラまがいのことをしていますわ。
「うわー......やっぱり、リリちゃんは暴走したな」
周りを見渡すと、教室のクラスメイト達も皆、あきれた顔で、リリという少女を見ていた。
あまりに突然のことで、完全に不意打ちとなって、戸惑っているようだ。完全にあっけにとられて、誰も動けない。それはそうですわね。
それにしても、彼女はどう見ても、年下にしか見えませんが、ギルバートや隣の席の少女の反応を見る限り、どうやら同級生のようです。こんな変なキャラの少女が、朝っぱらから嵐の様に登場して来るのがこのクラスの日常なのかしら?
「それにしても、リーシェ様と同じ学園、それも同じ教室でこれから一緒に片時も離れず過ごすことができるなんて......ああ! 神様! うちは、感動で胸がいっぱいっす! やはり神様はうちとリーシェ様との間には、特別な縁を築かれていたっす! お父様やお母様に頼んでお金を積んで、無理やりこの学園に転入したかいがあったっす!」
えっと、まず、どこから突っ込めば宜しいのでしょうか?
私がこの学園に転入することをどうやって調べたのかはわかりませんが、お金にものを言わせて転入したのなら、そこに神の縁などございません。ただの計画的犯行ですわ。
それにリーシェは私で、隣の少女と間違えていること、どっちを先に指摘すべきでしょうか?
「あ、あの。リリちゃん? その、ちょっと待ってくれないかな? リリちゃんが今、抱き着いているのはリーシェじゃなくて、風紀委員のクロエだよ」
ようやく動いたのは、私の幼馴染のギルバートだった。
「......リーシェさ......ま、じゃ......ない?」
「そうだよ。良く見てごらん、昨日転入して来たばかりだから無理もないけど」
「こんなに理知的で綺麗なお方がリーシェ様じゃない......と? では誰が?」
この子、喧嘩売ってますのかしら?
回りくどい喧嘩を売るのが帝国の流儀なのかしら?
「リーシェはこの子だよ。そもそも、クロエの髪は帝国でも珍しい紫だろ? リーシェは王国の人だから銀髪だよ」
リリという少女は私とクロエという少女を見比べて。
「こんな貧相で、青い顔をした女性があのリーシェさま?」
だから、喧嘩売ってます? そりゃ、毎日王妃教育と政務で、満足に睡眠もとれず、食事も食べる時間もなく、お化粧や美容に時間を割く暇はなかったという言い訳はしたいですのですが、クロエさんの美貌は天性のもので、それを比較するとか酷いです。
「あの、リリさんですか? 私がリーシェです。クロエさんを解放して差し上げて頂けませんか?」
「リーシェ様ぁ!」ビシッ!
思わず王妃教育で学んだ護身術が出てしまいました。軽くチョップを入れて、私に突進してくるリリさんを軽く避ける。
ドカーン。
盛大な破壊音がして、こんどは壁に穴を開けて、教室から落ちそうになっていました。
「死ぬ、死ぬっす。誰か助けてくださいっす」
自業自得ですが、流石に死んでしまっては可哀想なので、ギルバートやクロエさんと力を合わせて引き上げる。
「あ、あの。リリちゃん? その、ちょっといいかな。あまり派手に扉や壁を壊されると、その、困るんだ。絶対、壊したら怒れるの僕だし......あとあまり遅刻するのも困るよ......」
ギルバートが恐る恐る声をかけるが、あからさまにいい人の彼が普段から苦労しているのが見て取れて可哀想になる。
「はぁ? なんで学級委員ごときがうちに意見するっす? うちの親、この学園への賄賂じゃなかった、寄付は一番っす。それにこの国初の飛び級で転入して来た天才なことも良く覚えておくっす」
それに対して、見た目は愛らしい少女は悪びれる様子もなく、むしろ、ふてぶてしい態度でギルバートを睨みつける。
「あ、えと。と、とりあえず教室に入ってくる時はちゃんと扉を開けて入ってくれると助かるかなって......僕はなんとか扉と壁の修理をしておくから、明日からはお願いしたいなぁ......お願だから? は、ははは」
年下の女の子に圧倒されて、愛想笑いを浮かべる幼馴染のギルバート。
彼に漂うのは哀愁であり、彼に注がれる他の生徒の視線は、哀れなものを見るそれであった。
......ギルバート。情けないでしてよ。年下なのに完全に軽んじられていましてよ。
「ちょっとギルバート!」
突然声を上げたのは、先程までリリという強キャラに抱き着かれていた紫の髪の少女だ。
「もう少ししっかりなさい! 言いたいことははっきりいいなさいといつも言っているでしょ? それに、今日転入して来たリーシャさんとは知り合いのようですが、男女交際は校則違反よ!」
「いつも思ってたんだけど、クロエって、僕のこと好きなの?」
「な、何をバカなこと言っているの? そんな訳がないでしょ!」
「ごめん。言い間違えた。そんなに僕のことが嫌いなの?」
「き、嫌いよ。大っ嫌いよッ!」
顔を真っ赤にしたクロエさんの顔を見て、ギルバートもやるものね、と、少し見直した。
頑張れギルバート。私は弟同様のギルバートを応援する気持ちでいっぱいになりましたわ。
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