ep.005 動かない探偵〜不動無道

「さあ、次の探偵さんは……こちらから指名いたしますわ。 そこのあなた、お名前は?」


 シャーロット先生は、前髪で顔の半分が隠された眼光の鋭い男子学生を、指名した。


不動ふどう無道むどう、動かない探偵」


 声変わりした後の低い声が、スタジオに響く。


「不動……ということは、タンジョ――探偵たんてい助手じょしゅ専修学園の創設者で名誉理事長でもある、不動ふどう如山じょざんのお孫さんかしら?」


「そうだ」


 動かない探偵の正体を明かしたシャーロット先生は、妖艶かつ愉快そうに口の端を上げた。

 赤いヒールをカツカツと鳴らしながら、動かない探偵へと近づく。


「タンジョは、『探偵になりたい人あるいは探偵の助手になりたい人たちが、安全で持続可能な探偵業を行える、未来の探偵と助手を育てる』という名誉理事長の理念のもとに創設されたわ。わね。未来の探偵と助手を育成するために集められたのは、現役の探偵や助手、元検察や元監査法人の会計税理士、高校教師から一般教養を教えるマナー講師……私も、その一人よ。あなたのお祖父じい様にスカウトされたわ。タンジョに入学できる学生は、義務教育課程が修了していれば、年齢国籍を問わない。単位制だから、入学時に中卒であれば三年以上在学かつ七十四単位以上取得で高卒資格を、入学時に高卒であれば四年以上在学かつ百二十四単位以上取得で学位取得できる。また卒業後は、大手探偵事務所への推薦が受けられたり、独立に必要な資金を無担保無利息で貸与する制度があったり、特に優秀な成績を修めた学生には給付金が授与される制度もある。すごいわね。ねえ、ひとつよろしいかしら? この学校が、に創設された、という噂を……耳にしたことある、探偵さん?」


 腕組みをしたシャーロット先生は、動かない探偵の真正面で立ち止まった。

 突然のシャーロット先生の挑発的な態度に、周りの生徒たちは動揺を隠せなかった。

 しかし、動かない探偵は無表情のまま、眉ひとつ動かさない。

 結ばれた唇は閉じたまま、落ち着いた瞳で、シャーロット先生を見つめる。

 二人の間に漂う不穏な沈黙を打ち消すように、終業のチャイムが鳴り響いた。


「あら、残念。今日の授業はここまでね。探偵科の学生のみなさん、お疲れさまでした。本日の事件現場について、概要と推理と考察をまとめて、レポートで提出してください。期限は明後日まで。それでは、ご機嫌よう」



ーーーー


氏名:穂村シャーロット

本職:探偵

専門:探偵科/推理演習

二つ名:現代に転生した美しきシャーロック・ホームズ

決め台詞:「ひとつよろしいかしら?」


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