ep.003 育児探偵〜生田目栞瑠

「次、あたしイイっすか?」


 手を上げたのは、探偵科の制服を着崩した、ギャルっぽい女子。


「あなた、お名前は?」


 シャーロット先生に名を聞かれ、ネイルした長い爪でピースをしながら「育児探偵、生田目いくため栞瑠しえるっす」と彼女は答えた。


「育児探偵……ということは、育児中なのかしら?」


「そうっす。息子の來瑠空らるくは、ばぁばがみてくれてるっす」


 白い歯を見せて笑った育児探偵は、ベビーカーに乗せられた赤ちゃんと、その横に立つ女性に手を振った。


「はい。それではどうぞ、育児探偵さん」


「じゃあ、やりまーす」


 育児探偵は、事件現場を模したセットに入ると、真っ直ぐ倒れている男のもとに近づいた。


「おじさーん! どしたんっすかー?」


 男の肩を叩きながら、呼びかけをする育児探偵。

 しかし、男は微動だにしない。

 育児探偵は長い爪が付いた手を、男の口の近くと、首筋にあてて、呼吸と脈拍の確認をした。


「呼吸と脈なし。おなくなりっすね」


 育児探偵は制服のポケットから、タンジョから支給されている携帯端末を取り出した。


「ケーサツに連絡っと」


 味見探偵が電話をかけると、シャーロット先生の持つ携帯端末が鳴り出した。

 シャーロット先生が、端末を操作して応答する。


「こちら、タンジョ消防署です。事件ですか? 事故ですか?」


「えっとー、ちょっとよくわかんないんすけどー、男っていうかおじさん? みたいな? なんかそんな感じの人がー、倒れててー、おなくなりっぽいーっていうかー」


「そこまで!」


 シャーロット先生は、通話を切って、育児探偵に微笑んだ。


「倒れている人に対し、救命が必要かどうか、確認ができていましたね」


「当然っす」


「通報の仕方については、今後の一般教養の講義で教わる予定です。社会人として電話マナーは、これから学んでいきましょう」


「了解っす」


「そろそろ、息子の來瑠空らるくくんが、お腹を空かせているんじゃないかしら?」


 シャーロット先生がそう言った直後、ベビーカーから赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。


「あ、ミルクの時間っす! 授乳室いってきまーす」


「ええ、いってらっしゃい」


 育児探偵はベビーカーを押して、スタジオを後にした。




ーーーー


学生番号:230-1224155-5

氏名:生田目いくため栞瑠しえる

年齢:21歳

所属:探偵科

二つ名:育児

決め台詞:「おなくなりっすね」

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