ep.002 探偵の助手〜味見探偵の場合

 教室の前方、黒板の前に置かれた大きなモニターがある。

 映し出されているのは、探偵科が推理実習を行ったスタジオ。

 アパートの一室で起こった事件現場を模したセットが組まれている。


 探偵科の生徒、味見探偵が推理演習を行ったが、指導を受けて、セットから離れていった。

 探偵科講師のシャーロット先生が、探偵科の生徒たちに呼びかける。


「さあ、次の探偵さん! この事件を安全に、華麗に解いてくださいまし!」


 シャーロット先生の高らかな声が、モニターのスピーカーから教室に響き渡った。


 その直後、ピッと電子音が鳴り、映像が静止する。


「さて」


 モニターの横に立つ、白衣を着た長身の男性。

 助手科講師の穂村ほむら和斗尊わとそんは、低く落ち着いた声で、生徒たちに語りかける。


「助手科のみなさん。みなさんがこの現場に来た探偵の助手であったなら、どのような行動を取るべきでしょうか?」


 手をあげた生徒たちを、和斗尊先生が当てていく。


「警察に通報します」

「救急車を呼びます」

「現場の保全を努めます」

「探偵の味見を阻止します」

「アパートの住民に聞き込みをします」

「捜査は自殺か他殺かにより異なります」

「依頼人からの依頼内容を再確認します」


「みなさん、ご回答ありがとうございます」


 和斗尊先生はゆっくりと、教室にいる生徒たちを見渡した。


「さて、ここにいる探偵の助手を目指すみなさんは、探偵という規格外危険ニンゲンバケモノ取り扱う飼い慣らすになってもらいます」


 モニター画面の静止画になっている、シャーロット先生に赤いポインターが当たる。


「例えば、シャーロット先生。私が助手を勤める探偵であり、私の妻にあたる彼女は、見ての通り美しく、華があり、どこへ行っても目立ちます。頭脳明晰で、カリスマ性もあり、特に事件現場という舞台における彼女は、アカデミー賞をも受賞しえる主演女優です。しかし……」


 和斗尊先生は、少し俯き、左手で眼鏡の位置を直した。


「事件現場という舞台を完成させるために必要なニンゲンは、だけでしょうか……?」


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