タンジョ〜探偵科と助手科は同じ実習室で推理する〜

春木のん

ep.001 味見探偵〜阿治良雄

 木製のテーブルの下に、男が倒れている。

 周囲に争った形跡はない。

 状況から、男は食事の途中だったらしい。

 皿の上にあるのは、食べかけのパンケーキ。

 マグカップの中はからっぽ。


「なるほどね……」


 味見あじみ探偵、阿治あじ良雄よしおは、そう言いながら右手の白い手袋を外した。

 そして、パンケーキにかけられていた、はちみつのような粘度のある琥珀色のシロップを人差し指ですくって、口に含んだ。


「ぺろっ……これはっ! 味良し!」


「アウトー!」


 突然、ブッブーと大きな音が鳴った。


「ちょ、待てよっ! まだ推理はこれからなんだけど?!」


 味見探偵が不服そうに、音の鳴った方向に振り返る。

 白衣を着た金髪の女性が、眼鏡越しでもわかるほど鋭い視線で、味見探偵に睨んでいる。

 彼女は探偵科講師の、保村ほむらシャーロット。


「いいですか、探偵さん。仮にもし、その男の死因が毒で、その毒が今なめたもの含まれていたとしたら?」


「うっ……」


「あなた達は、何のためにこのタンジョに……『探偵たんてい助手じょしゅ専修学園』に入学したのですか? 有名な探偵や、名探偵の助手になりたいから? もちろん、それもあると思います。しかし、私たち講師陣は、それ以前に、安全で持続可能な探偵業を行える、未来の探偵と助手を育てるための授業を行っているのです。そこのところ、おわかりいただけるかしら?」


「ぐ、ぐぅ……」


 味見探偵は、グゥの音を口から漏らしながら、テーブルを離れた。

 シャーロット先生が、手を鳴らして声を張る。


「さあ、次の探偵さん! この事件を安全に、華麗に解いてくださいまし!」



ーーーー


学生番号:230-1222182-8

氏名:阿治良雄

年齢:51歳

所属:探偵科

二つ名:味見

決め台詞:「味良し!」

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