水門

 丘を登っていく。

 小さな石の窓に、かすかな火の明かりが見える。彼女は笑う。足を速める。まろやかな形の、板を連ねた扉を開く。引かれ、手放された拍子にカン、となる鉄の把手。彼女はなかで待っていた彼へ飛びつく、交わされる微笑み。小屋の床はむき出しの土、その中央にひどく大きな歯車があった。二人はそっとその歯車に手を滑らす、撫でるように触れて、回し始める。二人の間から笑い声が上がった。歯車を回す手と手を重ね合う。

 ふいに地響きが鳴る――二人は微笑みながら肩を寄せ、窓へ近づき外を見た。どちらとなく、壁から吊るした明かりを吹き消す。まったくの暗闇。お互いにお互いを預けながら目を閉じる。

 沈黙。

 そして水音。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る