砂の底

「どんな人が住んでいただろうね」

 言いながら、テレジスは手のひらに砂を撫でる。夜空の深さを映して、いまや群青に光る砂の海。

 彼の目は静かに伏せられている、うつむきがちの顔色はどんなものかわからない。風は乾いて、けれど息苦しいというほどではなかった。青白い月の光。

「苦しかっただろうか。怖かっただろうか」

 長く骨ばった指だった。いくらか奇妙な、鱗にも似てひどくまろやかな形の五つの爪。指の長さに反して小さな手のひら。

 レジオラは言う。いまやテレジスの傍らへ跪き、その背をそっと撫でながら。

「誰も一瞬のことで、何一つわからず、何一つ感じなかったに違いない。きっと」

 すべては静かだ。砂は広く、見渡す限りに続いていて、果ても見えない。生き物のある気配もない。ここには一粒の水もありはしないのだから。

 いまはもう何もかも砂の底。

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