第18話 デートの誘いは突然に

「明日なんの配信しよ……そろそろ考えないとマズイよな」


日も傾き出した夕刻。

悠真は自室で思考を巡らせていた。

配信内容、それはある程度の知名度を得た配信者にとって最も大事なものと言えるだろう。

今まで適当に近場のダンジョン攻略ばかり行ってきたが、それ一辺倒という訳にも行かない。


「アレに挑むにはまだ早いし……」


脳裏に浮かぶのは、深淵穴を始めとする階級『厄災』に分類されるダンジョンの攻略だ。

この階級に分類されるダンジョンは全国に数える程しかなく、その中身も他のダンジョンと大きく異なる。


また通常所在地とナンバリングによって管理されているダンジョンであるが、この階級のダンジョンには固有名称まで付いているのだ。

Sランク探索者であった悠真ですら深淵穴の攻略に数年を要している事を考えると、それは他のダンジョンと別格と言えるだろう。

そんな代物に今挑むのは無謀過ぎる。

ならばどうするか……


「他の配信者でも見るか」


こういうものは、先駆者に頼るのが1番である。

そう思って寝転がった体勢は維持したまま、悠真はスマートフォンから配信サイトへと飛んだ。

するとホーム画面に並んだサイトからのおすすめ動画に見覚えのある顔が写っていた。


「これ……結花の配信のアーカイブだ」


見つけたのは、彼女のチャンネルの配信アーカイブだった。

彼女を助けたあの日から、彼女との交友は続いている。

と言っても彼女は多忙なようで、実際に会うのではなく連絡を取り合っているというのが現状だ。

その連絡の内容も取り止めのない話が多く、正直彼女について聞かれても答えられない事だらけである。


「……見てみる?……いや、ダメか?」


人によって感性は違うだろうが、実際にあったことのある人に活動を見られるということに悠真は好意的ではない。

理由は単純、なんか恥ずかしいからである。

悠真はその価値観に則って、彼女のことを自分から調べることもなかったのだ。

だが……


「ここ数日連絡無いし……」


連絡は割とマメな方の彼女が、ここ数日なんの音沙汰も無いのだ。

勿論そういう日もある、そういう事もあるで済む案件なのだが、その少しの違和感が興味へと変換され、悠真は思わずチャンネルページへ飛んでしまう。

ズラッと並んだ動画とアーカイブ、しかし……


「……特に何も無い」


至って普通、ここ半月の配信頻度を見ても直近数日配信が無いことは特段おかしな事では無い。

考え過ぎだろうか。

アイドルという以上、彼女達には配信外の活動も往々にしてあるらしい。

以前からライブが近いとも言っていたし、それに注力しているのだろう。


「……よし、なら俺は俺のことしないと」


そう結論づけると頬を自らの両手で軽く叩き、気持ちを切り替える。

彼女のチャンネルページを閉じ、悠真は他の配信者の動画を徘徊し始めたのだった。


=======

「……え?もう朝?」


気付けば沈んだ日が登ってきてしまっていた。

どうやら先駆者を研究するという大義名分に則って、オールで動画を未漁っていたらしい。


「やっべえ……全然眠くない」


夢中になって見入ってしまっていたが故なのか、徹夜明けだというのに意識の微睡を全くと言って良いほど感じない。

これならこのまま寝ずに一日過ごして、無理矢理にでも生活習慣を戻した方が良いだろう。

大学生の頃に培った徹夜経験がそう言っているのだ。


「さてと……飯作ろ」


立ち上がってキッチンの方へと向かう。

最近はコンロが使い物にならなくなったので、お湯があれば出来るカップラーメンに頼りっきりである。

電気ケトルに水を注ぎ入れると、棚から備蓄のうちの一つを手に取った。


「……ん?こんな朝っぱらから誰だ?」


その時、不意にインターホンが鳴った。

壁掛け時計を見るに、時刻は朝の7時を過ぎた所である。

こんな早朝の来客は身に覚えがない、というか来客そのものに身に覚えがないのだ。

悠真は不思議に思いながらも、「はーい」と声を上げながら玄関へと向かった。

チェーンを外し扉を開く。

そこには、


「ねえ悠真さん、デートしましょ!!」


「……え?」


あまりにそれ向けの服を着た少女ーー一ノ瀬 結花が笑顔を浮かべて立っていた。

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