第11話 面白味のない配信?

『ーー月ーー日ーー時頃、ーー県ーー市ーー第1ダンジョンにて、女性の遺体が発見されました。死因はダンジョン内のーーによるー殺であると見られています。警察の捜査によるとそのーーからーーと見られるものが検出されており、ーーの可能性もあるとして捜査が進められています。また……』


「……もう朝か」


重い瞼をこじ開けて、悠真は目を覚ました。

最近ずっと同じ夢を見る、しかも見ていて気分の良くない夢だ。

誰かが死んだというニュースなんて朝から見たくないものの割と上位に入るだろう。


「……なんか見覚えはあるんだけどな」


体を起こしながら、そう呟く。

過去に見たことがあるニュースなのかもしれない。

とはいえ類似したものなどいくらでもあるため、正直思い出せない。


「……まあいいか」


今日は配信日だ。

考えるのをあきらめそう呟くと、悠真は朝の準備を始めた。


=======

「今日は特に面白いことがないですよね……すみません」


:そんなことないぞ

:1時間で高層階まで来てそんなこと言うな

:事務作業みたいに攻略するな

:めんどくさいからって階層にいるモンスター全部一掃するな


カメラに向かって申し訳なさそうにそういう悠真に対し、コメント欄はツッコミの嵐である。

悠真の所感としては、配信として見せ場を作れている気がしない。

なにせ今日来たダンジョンは、推奨Eランクといわれているものだ。

従って、出てくるモンスターもあまり強くないのである。


「推奨Eランクじゃなくて、近くのCぐらいの所の方が良かったかもしれないですね」


:自分のランク見ろ定期

:自己分析が出来てるけど出来てない

:※彼はFランクです

:その辺の配信者が聞いたらブチぎれるぞ

:ここのダンジョン、この間どっかの配信者グループが途中離脱したんですがそれは


自覚のない一言で、コメント欄のツッコミが加速する。

そう言われても実際そうなのだから仕方がないだろう、悠真のせいではない。


「ギリャア!!」


「それっ!」


曲がり角から奇襲を仕掛けてきたゴブリンをいなしながら、悠真は視聴者に話しかける。


「そういえば今丁度暇ですし、せっかくなので今までやって来なかった質問コーナーとかやりましょうよ」


:それ多分やけど家でやるもんやぞ

:一応モンスター襲ってきてるんやが

:どこでやってんねん

:ゴブリン切りながら質問コーナーで草


「まあ、このぐらいならコメント欄見ながらでも大丈夫なので!気軽に質問してきてください!」


「バゥ!!ーーーー……ウゥ」


ダンジョンの奥に歩を進めながら、悠真はコメント欄に向き合っている。

今オルトロスらしきモンスターが襲ってきた気がするが、まあ切れば全部一緒なのでどうでもいい。


:お前に聞きたいのなんてなんでそんな強いんかぐらいやぞ

:強さ以外に聞くことあるんか

:感覚マヒしてきてるけど、Fランクって本来さっき真っ二つにしたゴブリンすら狩れないランクやからな、ガチで何者なんや

:ごく稀にFランク時代から異質に強い奴はいるけど、お前ほどのやつは見たことないぞ


集まった質問は、どれも悠真の強さについてのものばかりだ。

端的に言えばここから先10年間の鍛錬の代物になるのだが、それを言うとさすがにまずい気がする。

混乱を招くし、第一信じてもらえる気がしない。

ここは、適当に理由を考えるとする。


「……まあ、才・能……ですかね」


:一回でいいから殴らせろ

:くっそウザくて草

:なんやこいつ

:やっぱお前しゃべるな

:ブチ〇すぞ


余りピンとくる回答が思いつかなかったので適当に答えてみた所、思っていた十倍位のバッシングが返ってきた。

ここまで彼らが怒っている所は見たことがない。

悠真は少し焦りながら、事態の収束に走る。


「ーーじゃなくて!やっぱり小さいころから剣術とか習ってたからだと思いますよ!うん、きっとそうです」


:なんで一回余計なもの挟んだんや

:正直に言えてえらい

:それでも尚理解は出来ないんやが

:習い事でトロールは倒せないと思いますがそれは

:新進気鋭のルーキーの秘密、習い事だった


あんまり納得はされていないが、まあこれ以上何を言っても変わる気がしないので、これで良しとしよう。


「それより、なんか僕のことで聞きたいことないんですか?ほら、もっと個人的なこととか」


:ないぞ

:お前には強さしか求めてない

:別にお前の強さを見たいだけであって、お前自身を見ている訳ではないぞ


「……言い過ぎでは?普通に泣きますよ、僕」


「ギリャア!!ーーーー……ウゥ」


眼前に飛び出てきたゴブリンを切りながらも、悠真の目には涙が溜まる。


:愛してるぞ、ユウマ

:嘘やぞ

:冗談やん、ごめんて

:お前のことなら何でも知りたいぞ


「ですよね!やっぱ色々気になりますよね!良かったー僕みんなに嫌われてるのかと」


:切り替えはや

:何もかもが早い男

:情緒バグりすぎやろ

:その切り替えはもはや怖い

:心配して損したわ

:配慮返してもろて


ほっと胸を撫でおろす動作を大げさにして、軽く笑って見せる。

バズってから2週間ほどたち、彼らともこうして冗談を交えて交流することが出来るようになったのだ。

これは成長だと思う、ここ数年間で一番感じたそれかもしれない。

なんてことを考えながら、階層間の階段を登りきる。

すると、


「--おっ!ボス部屋ですよ皆さん」


:タイムおかしいやろ

:配信開始から1時間20分、ボス到達です

:RTA勢大敗やんけ草

:雑談しながらボス部屋に行くな


眼前に現れたのは、悠真の身長の10倍はあろうかという石扉だ。

通称ボス部屋、悠真はその扉を躊躇なく押し開けていく。


元来のダンジョンはこのように最上階の部屋でボスモンスターが待っていることが通例だ。

この扉からボスが逃げ出すことは稀にあっても、ユイカと会った時のような1階にボスがいるなんてことは本来あり得ないのである。

そんな違和感を思い返しながら、悠真の視界は扉と共に広がっていき……


「ガアアアアアア!!!」


「--え?」


:草

:なんでやねん

:がっつりドラゴンやんけ草

:推奨Eランクとは

:迷宮局仕事しろ

:これは他の配信者も逃げ帰るやろ


推奨は多分B、もしかしたらAかもしれない。

扉を押し開けそこに鎮座していたのは、配信の取れ高……ではなく漆黒の翼を持つドラゴンーーニーズヘッグだった。

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