第7話 実質的初配信

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名前:藤嶋 悠真

年齢:24

身分:配信者

階級:F

Lv:31/999

HP:256/256

魔力:512/512

魔術:膂力強化

  炎刀付与

  魔具生成

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「――我ながら、とんでもない成長だな」


一連の騒動の数日後、悠真は隣町のダンジョンにてそう呟いていた。

目の前に浮かぶ半透明のステータスは本来あり得ない数値をたたき出している。


通常ダンジョン内のボスモンスターが討伐され、それまでそのダンジョンで得た経験値が挑んだ者達に配られた時、上がるレベルは多くても10数レベルがマックスである。

それが急に30も上昇しているのだから、この成長速度はまさに異常といえるだろう。


「魔術も3つ、やり直す前と貰えるものが違うってのもなんか不思議だよな」


見覚えのない魔術欄に少しの困惑を覚える。

『膂力強化』は持っていたものの、『炎刀付与』と『魔具生成』の二つの魔術は悠真も知らない魔術である。

なんの違いによって齎された差異なのだろうか、悠真自身もその辺のからくりには詳しくないため正直当てはまる節は思いつかない。


「まあなんでもいいか、……とりあえず配信しよ!」


分からないことを考えてもしょうがない、そう思った悠真はおもむろに持ってきたリュックを下すと中からパソコンとドローンを取り出す。

結花との一件があって以来、つまりバズってから初めての配信だ。


「……ふぅ」


少しの緊張を覚えながら溜息をつくと、悠真は配信開始のボタンを押した。


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「どうもみなさんこんばんは!―――ってすご!!」


:おっ始まったな

:きちゃ

: こんばんは!

:Fランバケモノの配信が始まるぞ


真っ白なことしか見たことのない配信のコメント欄にぎっしりと詰められた文字を見て、悠真は思わず挨拶すら中断してしまった。

同接数は開始直後にもかかわらず1万人を記録しており、実際それぐらいの人数がいることが分かるほどに流れていくコメントは速い。


――こんな濁流みたいに流れていく文字を配信者たちは当たり前に読んでたのか……あいつらってすごかったんだな


嫉妬で馬鹿にしていた対象がすごかったことを知り、正直悠真は見直してしまう。

だってこんな文字の塊の中から彼らは抜粋して読み上げたり、反応したりしている訳だ。

追うのが必死の自分とはレベルが違う。

これから頑張らないと、なんて思いながら悠真はカメラへと向き直した。


「改めて……ユウマです。みなさん今日は見に来て下さりありがとうございます!こんなに大勢の方に見られるのは初めてで緊張するんですけど、頑張ります!」


:初々しくていいね

:実質初配信みたいなもんやもんな、頑張れ

:配信だけFランクで草

: あんなバケモノに勝っといて緊張してんのなんか草


それとこれとは話が違う。

ダンジョン攻略はかれこれ10年やってきた本職なのだから、あれぐらい動けるのは当然と言えるだろう。

だが配信は違う、人生34年間でこれほどの数の人前に出たことがないのだ。

Sランク探索者であった時、そういう人の目が集まる場所に出なければいけない仕事の依頼も多々あったが、なんか陰の実力者的な奴の方がかっこいいと思っていた悠真はすべて断っていたのだ。

場慣れしておけばよかった……、悔やんでも悔やみきれないとはこのことだろう。


:チェック・メイトだ(イケボ)兄貴さんちっす

:チェクメニキこんばんは

:終わりで締まらなかった男や


挨拶を済ませ、悠真はちらりと目線をコメント欄にやる。

するとコメント欄には、おそらく悠真のことであろうあだ名が定期的に見て取れた。

チェクメニキってなんだ?あずかり知らぬそれに疑問を持った悠真は視聴者に聞いてみることにする。


「あのチェクメニキとかチェックメイトがどうだかってやつ、それなんなんですか?」


:あっ……

:やめとけやめとけww

:だめだそれを聞いちゃいけない

:本人認知してないやんけ草

:【悲報】例の切り抜きのコメント欄、本人未巡回


コメント欄の様相が変わった。

みんな何かを知っているが、それを隠そうとしている感じだ。

このまま聞き続けてもらちが明かないことを察した悠真は、とりあえずパソコンからテザリングして、持っていたスマホでチェクメニキとやらを検索することにした。

すると……


「えっ……僕…きも……」


:配信中に本人巡回は草

:自分にドン引きしてて草

:ダンジョン内でネットサーフィンするな

:顔引きつりすぎで笑う


たどり着いた動画は悠真がトロールと対峙していた時の様子を切り抜いたものだった。

それも途中まではよかったのだ、正直言って結構かっこよく撮れていたと思う。

だが最後だけがいけなかった。

悠真が考え抜いた渾身のカッコつけセリフは、何故か無意識のうちにネットリイケボ(笑)のような声色になっていたらしく、そのキモさたるや本人ですらドン引くレベルのものであったのだ。


「穴があったら入りたい……」


:草

:今の今までキモイことに気付いていなかったのか

:冒頭の元気はどこいってん

:ダンジョンの中で膝抱えて丸まるな

:こいつおもろいな


消え入るような声で側壁にもたれかかりそう呟く。

ここ数日の間余り寝つきがよくなかったこともあって活動的になれなかった悠真は、今しかないと思って社会人時代に積読していたラノベの一気読みを刊行していた。

それにより偶発的インターネットデトックスとなっていたため、バズったことだけ認識しつつも原因のこの切り抜きを知らなかったのだ。

本当に自分は何をしているんだろうか、これを知っていれば配信の初めにするべきことは一つしかなかったのに。


「ほんと……こんなキモイものを世にお出ししてしまって……申し訳ありませんでした」


:謝ってて草

:俺はあれ好きやから謝らんくてもええんやで

:突然の謝罪ほんま草

:ダンジョンの中で謝罪会見するな


立ち上がってカメラに向き直すと深々と頭を下げ、自分の愚行についてしっかりと謝罪する。

あんなにも耳に入れて不快な声なんて今後出てくるのだろうか、そう思えるど程に比類なき言動に詫びを入れている悠真。


「ギャァ!!」


:モンスター来てるやんけ

:そういえばここダンジョンやったわ

:後ろ後ろ!

:あれ多分ゴブリンの通常種やろ

:おい深々と頭下げすぎてユウマ気づいてなくねこれ


その背後から、棍棒を片手にゴブリンが悠真めがけて飛び掛かってきた。

頭を下げていたため、この一閃は丁度死角からの攻撃になってしまう。

元来の探索者の死因第4位ぐらいに入ってくるのがこの死角からの攻撃である。

通常魔力操作により防御しダメージを減らす人間にとって、敵に気づくまでの時間がないその攻撃は、魔力を練る時間が取れず致命傷になってしまうのだ。


「――邪魔」


謝罪の邪魔はしないで欲しい。

そんな事は関係ないと言わんばかりに小さくそう呟くと、悠真は振り返りながらゴブリン目掛け裏拳をお見舞いした。


「――ア……アァ」


:そういえば強かったわこいつ

:なんで魔力こもってない裏拳で壁に穴が開くんですかね

:ゴブリンがかわいそうに思えてきた

:謝罪のついでにモンスター狩るな

:ダンジョンの中でモンスター倒すな……ん?


顔面にクリーンヒットし側壁まで吹っ飛ばされたゴブリンは、勢いそのまま壁にめり込んだ後、そう短く呻くと絶命した。

その様子を見送ることもなく、悠真は数十秒の深い謝罪の後、何事もなかったかのように頭を上げる。


「じゃあ、今日はみなさんと一緒にこのさいたま第23ダンジョンの攻略をやっていこうと思います」


:まってました

:やっと今日の本題や

:楽しみ

:何もなかった、いいね?

:後ろで倒れてるゴブリンにはなんも触れないのね


仕切り直しだ。

悠真は改めて今日の配信の趣旨をそう説明すると、ダンジョンの奥めがけて歩を進めるのだった。





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