第6話 嫌な夢
――ダメだ……気持ち悪い……
ユウマの家からの帰路の途中、結花は悪寒に襲われていた。
その理由は複数ある。
第一にスタッフを死なせてしまったこと、第二に自分だけ生き延びてしまったこと、そして加えられたのが、
「恩人に仇で返して……何をしてるんだろう私」
吐き捨てて、ほとほと自分の愚かしさに呆れかえる。
だってそうだ、どこまで罪に罪を塗り重ねれば気が済むのだろうか。
人生においてここまで自分に嫌悪感を覚えたのは初めてかもしれない。
「――急がないと……」
何があろうとも時間は止まらない。
始業のベルが鳴るまであと1時間を切っている。
彼女は頬を叩くと、自宅へと急ぐのだった。
=====
「結花ーー!!本当に無事で良かったぁぁ!!」
「ユイちゃん生きてる!生きてるよおぉ!!」
教室に着くや否や、大号泣共に2人の親友ーー彩奈と咲希から飛びつかれる。
2人分の体重を一度にかけられ、結花はそのまま倒れ込んだ。
「心配してくれてありがと、なんとか生きてるよ!!」
めいっぱいの空元気でそれに答える。
こんな時に心配してくれる友人がいるなんて、本当に幸せなことだと思う。
だから見せれない、自分の鬱屈とした感情の捨て先を彼女達に宛てる訳にはいかないのだ。
「本当に心配したんだから」
「そうだよ、委員長が居ないと俺たちなんも出来ないんだから」
「良かった……私どうなる事かと思った」
2人に続いてクラスメート達だけでなく他クラスからも多くの生徒が集まってくる。
結花がダンジョン配信者、もっと言えばダンジョンアイドルグループMeiriaの一員である事は学校中の周知事項だ。
昨日の配信が話題になって居たのだろうか、結花の周りには人集りが出来ていた。
だが違和感がある。
「みんなありがとう!私は全然大丈夫なので」
そう明るく振る舞い出来た人の輪を暫くの奮闘の末なんとか崩すと、結花は2人に尋ねた。
「――そんなに話題になってたの?」
「え?結花知らないの?あの切り抜き」
周知事項とはいえ、一配信を学校中の生徒が追っているとも考えにくい。
そんな結花の疑問は、彩奈の見せてくれたスマホによって解決した。
「え!?500万再生?」
思わず素っ頓狂な声が出る。
それほどまでに目の前の事実は衝撃的であった。
「マジ、大マジよ」
開いた液晶に移るのは、Meiliaの非公式切り抜きの動画である。
昨日の配信は勿論のことではあるが、非公開になっている。
しかし、非公開になる前に切り抜かれていたそれは平時1万再生程のチャンネルでありながら一晩で500万再生というアーティストのMV顔負けの数字を叩き出していた。
「そりゃみんな知ってるよね……」
平時であれば喜んでいた事実も、心の底から喜ぶことなど到底できない。
この動画で知名度を得たとしてもそれは彼と犠牲の上に成り立っているのだから。
「皆学校来た時からこの話で持ち切りよ」
「ってかあの人何者なの?結花の恩人なんだから私達も挨拶しないと!」
「……何者なんだろうね」
結花すら知らないのだから答えようが無い。
彼について聞こうと思ったが、自分の失態がその機会を失わせたのだ。
「まあ、また何か分かったら教えてよ」
「分かった……ありがとね」
そんな結花の気まずそうな雰囲気を感じ取ったのか、二人はそういう言うと自らの席に戻っていった。
彼女達は本当に凄い、結花が欲しいときに欲しい対応をくれるのだ。
そんな厚意を感じながら、結花は席へと着くのだった。
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「やっべぇ!!今日一日なんもしてねえじゃん!」
結花を見送って半日ほど経ち日も完全に沈んだ後、悠真はリビングで叫んでいた。
理由は2つ、昨日の一連の出来事による肉体的疲労、こっちが大半だがもう一つは結花を家に入れたことによる精神的疲労だ。
「……寝よ」
一日何もしていないことへの罪悪感はあるが、こういう時は不貞寝に限る。
今日を諦めて、悠真は床に就くことにする。
「ーーおやすみ」
就寝までのルーティンの淡々とこなし、ベッドに入る。
そうして自分に一日の終わりを告げると意識の糸を切った。
『ーー月ーー日ーー時頃、ーー県ーー市ーー第ーダンジョンにて、ーー一名の遺ーが発ーされまーー。死ーーダンジーー内ーーーによるーーであると見られてーーー。警察ーーーによるとそのーーからーーーらしきーーが検出ーーーおり、ー殺のーーーもあるとーー捜査ーーーーーーーます、また……』
そんな悠真の夢の中では、途切れ途切れで上手く聞こえない朝のニュースが流れ続けていた。
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