異種族通訳初仕事!?

「うへぇ……二日酔い」

「お姉ちゃん? ……大丈夫?」


 もはやすっかり太陽が昇った頃、宿泊地として与えられたテントから差し込んできた陽の光を浴びて、私は痛い頭と共に目が覚めた。

 昨晩レイラちゃんの命名記念と銘打って、ただ酒を飲みたいだけの私たちが宴会を始めたところまでは覚えているのだが……。


「うっぷ……。 ロザリー……私達どれくらい寝てた?」

「昼前、といったところじゃの。 お主らは随分と呑んでおったからのう。 最悪今日一日は起きんじゃろうと思っておったが……まぁまだマシじゃろうて」

「うーん。 てか、ここのお酒度数濃すぎない? アルコール入りすぎでしょ」

「ふむ……。 考えてみたこともなかったが、確かに人間と妾達では身体の構造が違うからの。 アルコールなどの毒に対する耐性も違ってくるじゃろうな」


 ふむ……なるほど。

 未だ頭痛が痛い私と違って、周囲のオークは狩りの獲物を捌いたり、農作業を行っているし、ロザリーの推論であっている事だろう。

 これって私が怠け者って可能性も……いやいや。


「それで、レイラちゃんはどこにいるの?」

「あの子ならそこで農作業を手伝っておるぞ?」


 ロザリーの指差した方向を見ると、屈強なオーク達にまじって小さな影が芋を掘り返そうと格闘していた。 

 言わずもがなレイラちゃんである。

 ……あ、芋を引き抜くと同時に反動でひっくり返った。

 バツの悪そうな顔を浮かべるレイラちゃんだったが、すぐに笑顔になって再び芋掘りを再開する。


「ん? 打ち解けたんだ?」

「まぁ妾の人徳、というやつかの? 言葉はイマイチ分からぬが、仕草でコミュニケーションを取ろうとしておったぞ?」

「へぇ……そりゃ凄いなぁ。 人徳ねぇ……」


 私は得意げな表情を浮かべるロザリーを見つめる。


「……なんじゃ?」

「別にー?」


 最初出会ったときの刺々しい雰囲気がだいぶ柔らくなったような気がする。

 本人に言ったら怒られそうだから言わないけど。


「ぐっ……。 まぁよい。 それよりも、お主に用事がある。 付いてこい」

「ん? 何かあったの?」


 私は疑問に思いつつも、言われるままにロザリーの後をついて行く。

 そして、しばらく歩いたところで周りの建物とは明らかに構造の違う、豪華な建物へと通された。


「ほれ、アリス。 こっちに来るがよい」


 ロザリーに連れられて到着したのは、大きな机と高そうな椅子の置かれた広い部屋。

 多分執務室かな?

 部屋に入って立ち止まらずに、ロザリーは大きな机の椅子に偉そうに腰掛けた。


「さて、お主を呼んだ理由だが……これを見て欲しいのじゃ」


 ロザリーが指差す先には、一枚の紙が置かれていた。


「これは……地図?」

「そうじゃ。 この森一帯を描いた地図じゃ。 そして、この点々と存在する赤い印がオーク以外に住む別種族の集落があるところじゃ」


 地図……と呼ぶにはなかなかに杜撰な作りのそれ。

 いったいどうしたのだろうか。


「……はぁ」

「それで、じゃ。 お主の力を見込んで手伝ってほしいのじゃ」

「えっと……つまり?」


 ロザリーの言い方は結構回りくどいから分かりにくい。

 一方ロザリーは「なぜ伝わらかいんだ」と言わんばかりの表情を浮かべた。


「お主は察しが悪いの。 要するに、お主なら他種族の言葉が分かるじゃろうから、その知識を活かして友好関係を築く手伝いをしてほしいということじゃ」

「なるほど……。 でもなんで急に? 長とかのレベルなら魔族の共通語を話せるんでしょ?」

「以前話したじゃろ? ゴブリンやコボルトの知能の低い魔物は意思疎通が難しい、と。 レイラが意思疎通できないのと同じじゃ」

「ふむ」


 確かにエルフとかの魔族に比べて、それらの種族は知能が低いイメージがある。


「とにかく、これらの種族とのコミュニケーションの橋渡し役を頼みたいのじゃ」

「あぁそういうことね」


 それにしてもゴブリンとかコボルトかー。 

 噂だけで判断すると、あんまりいいイメージがないな。


「……嫌そうじゃの」

「だって……ねぇ?」


 人間との大戦において、数が多く下級兵士として暴れ回っていたゴブリンやコボルトは各地で略奪の限りを尽くしていた。

 ……特に女性にはひどいことを。


「ふむ……まぁ気持ちは分からなくもないが、お主が考えている程、奴らは悪辣ではないぞ? 生存本能が高い故に、女ゴブリンや女コボルトがいなかった大戦中はひどかったが……」

「うーん。 まぁ最悪の場合オークの男の人たちが守ってくれるか」

「その意気じゃ! まぁどちらにせよお主に拒否権はないがの」


 そう言って意地の悪い笑みを浮かべるロザリー。

 私としてもずっとタダで食事や寝床を提供してもらうのは気が引ける。


「うぐ……。 まぁずっとお世話になるのは心苦しいし……」

「うむ! それでこそ我が友というものじゃ!」

「ちなみにだけど、もし私が協力しなかったらどうなるの?」


 私の問いを聞いたロザリーは、先程の意地の悪い笑みを深めて「さぁの」と答えた。 

 教えてくれない方が怖いんですが……。


「さて、早速出発するのじゃ!」

「……え? もう昼過ぎだけど? 今から出るの?」

「当然じゃ。 善は急げと言うからの。そもそも我ら魔族は夜行性じゃ」

「うへぇ……二日酔いなのに……」


 こうして私は、渋々ながらロザリーと共に他種族との会談に向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る