第339話 目的地
クロウは混乱していた。
アーシェは無事に帰ってくると信じていた。
だが、彼女の呼吸は止まってしまっており、目を開くことはなかった。
光は収まり、アーシェの姿は良く見える。
「……そん、な。」
「クロ!絶望している場合か!」
全てが終わってしまった、という顔をしていたクロウにミラの喝が入る。
「っ!?そうだ、まだ終わってない!」
スッ。
クロウはアーシェのそばにより、心臓に手を当てる。
「心臓マッサージって、こんな感じだよな。」
グッ、グッ。
クロウは心肺蘇生を始めた。
「ミラ、また体が冷えてきてる、足元を温めてくれ。」
「了解した!」
ミラは体を温め始める。
「アーシェ、戻って来い、俺を置いて勝手に逝くことは許してねぇぞ。まだ、俺もお前もやらなくちゃいけないことがたくさん残ってる、こんなところで死んでる場合じゃねえぞ!」
心臓マッサージを止め、口の方に移る。
スッ。
顎を上げ、クロウの位置からアーシェの胸が見えるように構える。
「早く、帰ってこい。」
スゥ。
人工呼吸を始まる。
(戻って来い、戻って来い、戻って来い!)
クロウは念じながら人工呼吸を続けていると、
ピクッ。
クロウの耳に、何かが動いた音が聞こえた。
「んっ?」
「すほし、ふるしいんあけど(少し、苦しいんだけど)。」
アーシェは目を開けていた。
人工呼吸をされながら。
「っは、アーシェ!良かった、無事でーー。」
ガシッ。
アーシェから離れたクロウは、再度アーシェから抱きしめた。
そして、
スッ。
クロウと口づけを交わした。
「っ!?」
衝撃的な行動に、クロウだけでなくミラ、レオも動けずにいた。
経過した時間は、5秒もないだろう。
「大胆だな、アーは。」
「すごい、魔力を自分のものにしたというのか!」
アーシェはクロウから口を離す。
「ふぅ、安心できたわ、また帰ってこれて。」
「そ、そうか、良かった。」
クロウは頭が整理できていない様子。
「あらっ、あなたさっき言っていたじゃない、最期まで支えてくれるって。私だって、正直怖かったのよ、だからあなたから安心をもらうためにキスしたの。ただ、それだけよ。」
「え、あ、うん、そうか。」
「ふふっ、心配しなくても、私は私よ。あなたの知るアーシェはここにいる、魔力の欠片のおかげで力も戻った……というよりさらに増したわ。」
「そのようだな、あなたから感じる魔力がより濃くなったように思えます。」
「……さすが、規格外だな、俺のアーシェは。」
「あなたにだけは言われたくないわね、クロウも大概よ。」
アーシェは魔力の欠片を克服し、さらに自分の力も上げることに成功した。
体も問題なく動かせ、力が漲っている。
これで、ハデスとハーデンとの最終決戦の準備も完了した。
アーシェが起きてから数分も経たずに、サリア達が戻ってきた。
「お待たせクロ君、戻ってきたよ……アーちゃん!!」
アーシェの元気な姿を見てサリアは思わず抱きつく。
「ごめんなさい、みんな。心配かけたわね。」
「よかった、生きててくれて。アーちゃんなら大丈夫って信じてたけど、正直怖かった。」
「ごめんね、サリー。私は見ての通り問題なく回復したわ、幸か不幸かハデス達の産物を使って。」
「魔力を回復させるものですか、危険なものまで作り出していますね、あの人たちは。」
「でも、アーシェリーゼが復活したのなら、僕たちは止まっているべきではない。もうこれ以上、被害を生み出さないために。」
「埋葬してくれたんだよな、アーシェ、外に出ようぜ。」
クロウがアーシェの手を引きながら、外に出る。
その後を、サリア達も付いていく。
町の真ん中に、魔力を吸い取られえ息絶えた魔族達を埋葬する墓地を作り、名前の分かるものは墓石に名前を彫っていた。
この町での魔族の死者、計126名。
その悲惨な光景に、胸を痛めずにはいられなかった。
「みんな、俺は思うんだ。ここで死んでいった奴らは、罪を犯したわけじゃない、ただ生きるべき世界で生きていただけだ。でも、無闇に命を奪われた、白き世界がそういう世界なんだっていうなら、俺は、何が何でも止める。生きなきゃいけない理由はあっても、死ななきゃいけない理由はないんだから。」
クロウは手を合わせ、目を瞑る。
レイヴァーが、最期まで必死に戦った魔族達に誓っていた。
必ず、この世界を取り戻すと。
時間が惜しいレイヴァーは、レオに別れを告げた。
「城までは、1時間もかからない。すまない、レイヴァーだけに託すことになってしまって。」
「俺たちだけじゃねえよ、スパルタを救いたいって気持ちは他のやつらも持っている。現に、テーベからエルフたちが来ているからな。」
「そう、だったのか。お前たちは、すごいんだな。」
「すごいのは私たちだけじゃないわ、未来を生きるために努力している人は皆すごい人よ。」
「……ありがとう、ございます。次期魔族の王女様。どうか、お気を付けて。」
レイヴァーは、もう見えている城に向け走り始めた。
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