第338話 次の姿
アーシェを真っ白な光が包み込み、クロウ達にはアーシェの姿が見えなくなる。
「レオ、これでいいのか?」
「ああ、俺が見たことある光と同じだ。今彼女は、光の中で魔力を自分のものにしようと戦っているはずだ。……だが、失敗する可能性の方が高い、その時はーー。」
「大丈夫、アーシェは無事に戻ってくる、そう約束したんだからな。あいつは、今まで約束したことを何1つ破らなかった、だから今回も信じて待っていよう。」
「そうだな、アーは私たちの誰よりも心が強い、それに苦労も重ねて何度も死地を乗り越えた、待っていられる根拠だらけだ。」
クロウ達は、光り輝くその先を見守っていた。
ここは、先ほどまでいた空間とは違う場所。
アーシェは、光に覆われると同時に意識が違う場所に移っていた。
(ここは、どこ。さっきの部屋ではないし、体が動かせない。夢……とも違う感覚、ここはいったい。)
アーシェは周りに何もない、真っ白な空間に仰向けでフワフワと浮かんでいた。
(魔力の欠片によって私は魔力の光に覆われた、ここで私は何をすればいいの。)
何も出来ずに宙を浮いていると、
(っ!?何か来る!?)
突然、アーシェは背中に何物かの気配を感じる。
そして、何の気配なのか、すぐに理解できた。
魔力が背中から体に入り込んできたのだ。
(これが、魔力の欠片に込められてた力、想像以上だわ。一瞬でも気を緩めたら、私が魔力に喰われてしまう。)
アーシェは入り込んでくる魔力を自分のものにしようと力を込める。
だが、
自分の魔力に変換するよりも、強制的に流れ込んでくる魔力量の方が圧倒的に多かった。
(うぐっ、この魔力、いったいどれほどの生き物が犠牲になったというの。私の想像は遥かに超えている、これが納められていた宝石に嫉妬しそうだわ。)
体が直火で焼かれているように熱く、頭の中を他人に混ぜられているような感覚に陥る。
魔力の根本部分は、まだ解明されていない。
その理由は、魔力を解明する前に皆死んでしまうからだ。
「えほっ!」
ピシャッ。
口に手を当てると吐血が。
「こんなもの自然に勝手に生まれることはあり得ない、だとしたらハデス達が作り出したと考えるのがよさそう、怒りが、憎しみが、抑えられない。」
アーシェの体を魔力だけでなく、その魔力と同時に他者の感情も流れ込んでくる。
辛い、憎い、怖い、死にたくないという多くの感情。
その感情に、アーシェの心は蝕まれそうになっていた。
その頃、医務室では、
「アーシェ!アーシェ!」
クロウの叫び声が響く。
そう、光が少し弱まると、アーシェの体が痙攣していたのだ。
そんな姿を見て、クロウは必死に声をかけ手を握っていた。
「くそっ、強制的に戻す方法とかないのか!」
「そんなことをすれば、魔力の爆発が起きてここ等一帯が吹き飛ぶことになる。」
「じゃあ、私たちには待つことしかできないというのか。」
「くそっ、信じるとは言ったけどよ、心配なのは変わりねぇんだ。頼む、早く戻ってきてくれ、俺はお前を、殺したくない。」
クロウは握るアーシェの手に力が自然と入ってしまっていた。
場所は戻り、アーシェのいる空間。
アーシェは宝石から流れ込んでくる魔力と、死闘を繰り広げていた。
「これだけの魔力、今の私に使いこなすのは不可能に等しい。けど、諦めたらみんなに、クロウに会えなくなる。それだけは絶対に嫌、たとえ四肢がもげようが、私が私でなくなろうが、必ず戻って見せーー。」
バフッ!
さらに魔力が増幅し、体全体を焼き尽くさん勢いになる。
(っ、熱い、苦しい、痛い、このままじゃ。)
ふと頭の中に、クロウの言葉が蘇る。
「俺とアーシェが力を合わせて勝てない奴はいない、俺が保証する。」
クロウと婚約した夜に、彼から聞いた言葉だ。
「そうよ、私1人では勝てなくても、クロウがいれば誰にでも勝てる。今の私でこの魔力に勝てないなら、クロウと同じようにその先の自分になればいい!」
クロウは仮面に2度呑まれた。
だが、仮面の力を自分のものにするために仮面を理解し、寄り添うことで操ることが出来た。
「理解するには、魔力にも感情にも負けない器を私が作ればいい。まだ1度も成功したことはない、けど、ここは私の挑戦する場所、今やらないでいつやるの!」
アーシェは深く呼吸し、全身に力を込める。
そして、
「
シュイーンッ!
アーシェの体を、赤い魔力が纏う。
その魔力は、しっかりと目で見ることができ、1匹の獅子のように見えた。
「私は、アーシェリーゼ・ヴァン・アフロディテ!スパルタを取り戻し、平穏な世界を作る魔族の王女になる!そして、クロウと最後まで添い遂げる!私の力になりなさい、魔力の欠片!!」
バヒューンッ!
アーシェを白い光が纏い、光り輝く。
そして、現実では。
「アー、シェ。」
痙攣が収まり、クロウが心臓に耳を当てると、
「っ!?止ま、ってる……。嘘だろ、おい!」
クロウを恐怖が包み込んだ。
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