第337話 魔力の欠片
クロウはお湯を使って、ハーブティーを準備した。
ミラも厚めの布を見つけ、アーシェと狼魔族に与えていた。
「そういえば、君の名前を聞いていなかったな。」
「あ、ああ、すまない。俺は、レオだ。この町で、戦士長としてやってたけど、このざまだ。魔王10将軍を目標にしていたが、今のスパルタにその価値はなさそうだな。」
「戦士長、あんたがこの町を守る要、すまなかった。」
スッ。
クロウはレオに頭を下げる。
「な、なにを!?」
「俺は、目の前であんたが守ってきた者たちを、大勢死なせちまった。何か対策ができたはずなのに、俺はーー。」
「自分を責めないでくれ、事の発端はハデスだ。ハデスのやったことに、君たちは巻き込まれただけだ、何も悪いことをレイヴァーはしていない、というより感謝しているんだ。」
「感謝?」
「ああ、俺はレイヴァーのおかげで生きてる、それに俺たちでは出来なかったスパルタの統制をアフロディテ様がいれば為せる。希望が、見つかったんだ。」
レオは微笑みながらクロウに語り掛ける。
「クロウ、だったか。」
「ああ。」
「……良い目をしている、曇りのない真っすぐで何事も諦めないという強さも感じる、でも、その先には数えきれないほどの苦労があったのだろう。」
「何でそう思うんだ?」
「戦士の勘だよ。迷いのない選択を出来るのは、過去の経験があってこそだ。君は、戦士としても人間としてもとても成長している、俺の光になってくれる存在だ。だから、これを託したい。」
スッ。
レオは胸のポケットから、小さなダイヤモンドのように輝く宝石を取り出す。
「なんだそれは?」
「魔力の欠片、と俺たちは呼んでいた。どういうわけか知らねえが、この近くに現れた新種のモンスターを倒した時に、2回手に入れたんだ。」
「どんな効果があるんだ?」
「簡単に言えば、魔力が回復する。」
衝撃の言葉に、クロウは目を見開く。
「なら、その宝石を使えば2人共!」
「いいや、この宝石は1つしかない。それに、リスクもあるんだ。」
「リスク?」
「君も、そこの巨人族の戦士もオールドタイプだからこの宝石の魔力に影響されることはないのだろう。」
「私とクロが反応しない、ならアーはどうなんだ?」
横になっているアーシェに問いかける。
「嫌でも分かるわ、その宝石には私の全魔力以上のものが詰め込まれている。モンスターなら数百体、魔族だったら100人は必要な魔力量よ。」
「そんな代物なのか、この宝石は。……まさか、そのリスクっていうのは?」
「クロウの想像通りよ、今の弱った体にその魔力を吸収しようものなら、キャパオーバーになりかねない。魔力が限界量を超えると、魔族は人じゃなくなると言われているわ。」
「それじゃあ、もう1つの宝石を使った魔族は……。」
「ああ、見たことのない姿になってしまった。だが、暴れることはなくその場で息絶えてしまった。限界を超えた魔力が、命ごと喰ったのだろう。」
スッ。
アーシェはゆっくりと体を起こす。
「レオ、と言ったわね。その宝石、私に使わせてもらえないかしら?」
「正気かアーシェ!」
「私はいつだって本気よ、今は少しでも時間が欲しい、だから使えるものは何でも使うわ。」
「だが、死ぬ可能性もあるのだぞ。アー、怖くないのか。」
「……怖いわよ、大切なあなた達と2度と会えなくなるなんて考えたくもない。けど、ハデスとハーデンによってレイヴァーが危険な目に合うのも見たくない、だったら私も戦いたい。」
クロウもミラも知っている。
アーシェは、自分が決めたことは簡単には曲げないと。
例え、どんな危険な方法だとしても、仲間のために命を懸ける存在だと。
「……分かった、レオ、貸してくれ。」
「クロ、いいのか。」
「アーシェの決めたことだ、俺たちはバックアップに回る。アーシェを、信じよう。」
「うむ、そうだな。」
スッ。
クロウは宝石を受け取り、アーシェのそばによる。
「アーシェ、無茶はするなよ。て言っても、俺じゃ説得力がないか。」
「全く、そのとおりね。けど、今からするのは無茶じゃない、私の挑戦よ。だから、もし私が失敗したら……。」
「殺してくれって言うんだろ。分かってる、お前は誰も傷つけたくないんだろ、だったら俺がしっかり責任を持つ。」
「あなたは当たり前のようにそういう事言うのよね。でも、不殺の掟は破らせたくないから、這いずってでも戻ってくるわ。」
「さすが、強い女だな。じゃあ、始めるぞ。」
シュイーンッ!
アーシェに宝石を近づけると、突然光だしアーシェを包み込む。
「クロ、危険だから離れた方がーー。」
「いや、アーシェならやってくれるはずだ。俺はしっかりと出迎えたい、だから残る。」
「……そうか、なら私も君の盾として残ろう。」
「ありがとうな、ミラ。アーシェ、待ってるぞ。」
アーシェは魔力の欠片を無事使いこなすことはできるのだろうか。
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