第319話 悲痛の叫び

空の光ソラノヒカリ八式ハチシキ紅鏡コウケイ!」


ガギーンッ!

順手と逆手で2刀を持ち、縦回転斬りでシャープを攻める。


「ぐっ、流石の力ということか、だが!」


大斧で弾き返し、さらに追い打ちをかける。


「来いよ、拳の響ケンノヒビキ五式ゴシキ雷撃ライゲキ!」


ゴスンッ!

弾かれながらも態勢を整え、両手の掌底突きを腹に直撃させる。


「くっ、まだまだ!」

「そう来なくっちゃな!」


ガゴーンッ!

2人の拳がぶつかり合う。


「ちっ、人族がここまでやるとはなーー。」

「お前、何がしたいんだ。」

「ん?いまさら何を言いだす、お前たちをここで止めるだけだ。それが我の役割ーー。」

「だったら本気を出したらどうだ、お前からは殺気も勝とうとする意志も感じられない、むしろ自分を殺して楽にさせてくれって言っているように見えるぜ!」

「っ!?お前、生意気なことを言うな!」


バゴーンッ!

クロウは10m程後ずさる。


「お前のような人族ごとき、我1人で十分だ!」


スッ!

シャープは懐から赤い石を取り出し、


「生意気な小僧、ここで儚く散れ!」


パリーンッ!

赤石が割られ、シャープの魔力が著しく上昇する。


その覇気は、周りの生き物を気絶させられるほど。


「なるほどな、本音を話すまで付き合ってやるよ! 白烏リュコス、俺に力を貸せ!」


バーンッ!

クロウは半分の烏の仮面を付ける。


「魔族の敵、ここで散るがいい!」

「それはどうかな! 獣の声ケモノノコエ七式ナナシキ海人の舞セイレーン!」


グルンッ!

ガギーンッ!

大剣の回転斬りが、大斧とぶつかり合う。


その衝撃波は周りの建物を吹き飛ばさんとする勢い。


「その力が、仮面の力というものか。なかなかに面白い!」

「お前も、やっと力を出してきたな。けどよ、まだぬるいぞ!」

「ふんっ!その軽口をいつまで叩けるかな!」

「試してみやがれ!」


ガギーンッ!ガギーンッ!

クロウとシャープの激しい攻防は、3分を経過した。


「そろそろへばってきたんじゃねえか、シャープ!」

「ふっ、何を言うかクロウガルト!貴様らを止めるまでは、倒れぬわ!」

「なら、俺に付いてこれるか!」


シュン!シュン!

クロウはスピードを上げ、シャープを翻弄していく。


「ふんっ、加速したところでお前の攻撃など!」

獣の声ケモノノコエ十式ジュウシキ女王の彷徨メドゥーサ!」

「ぐっ!?」


クロウの威圧で動きを止められたシャープは、大振りの一撃を大斧で受け止めるが家の壁に叩きつけられる。


「ぐはっ、くそっ。」

「終わりだ、シャープ!」


シュンッ!

クロウの大剣がシャープの顔面に迫る。


「さすがだ、クロウガルト。」


ズシャンッ!

大剣が大きな音を立て突き刺さる。



そして、


ボロボロッ!

家の壁が崩れ落ちる。


「……ん、なぜだ。」

「何がだ?」

「なぜ我を殺さない!」

「殺してくれって言ってるやつを、理由も聞かないで殺すつもりはない。白烏リュコス、解除。」


シュンッ。

クロウは仮面の力を解く。


「これは、お前の慈悲だとでも言うのか?お前たちに歯が立たない魔王直轄の幹部が、惨めな死にざまを晒されないようにと。」

「そんなわけないだろ。お前は1度も、俺との戦いで殺意を見せなかった。それはなぜか知りたいだけだ、ちょうど5分経過した所だ、全員に話してくれ。」

「……レイヴァーのリーダー、クロウガルト。やはり、本物だな。いいだろう、全てを話そう。」

「理解が早くて助かる、みんな来てくれ!」


スタッ、スタッ。

レイヴァーがシャープの周りに集まる。


「初めに聞かせてくれ、お前たちはなぜ白き世界が作られることを望まない?」

「白き世界は、必要な存在だけを生かす世界なんだろ。てことは、その世界を作るために多くの命が犠牲になる。新しい世界を作るために、そんなことが許されるわけがない。」

「なるほどな、ならばアフロディテよ。お前は、白き世界を止めてどんな世界を作るつもりだ。この世界は、破滅に向かっている、そんな世界を救う方法がお前には見えているのか。」


アーシェは少し間を置き、話し始める。


「私は、皆で助け合える世界を作るわ。過去に手を取り合って生きていく世界があった、ならその世界を私が再び現実のものにして見せる。そのために、人族、エルフ、巨人族、魔族が分かり合う必要がある。」

「そんなことが可能だと?何十年も争ってきた種族同士が手を取り合うなどーー。」

「私たちがその証明よ。ここには、名家出身のオールドタイプ、魔族、エルフ、ニューマン、巨人族、一般育ちのニューマン、全員が全員立場が違う人が集まっている。こんなチームを、誰が成り立つと想像したかしら?」

「……なるほど、手を取り合う準備は出来ているということか。」

「そういうことよ。次はこっちからの質問よ、なぜあなたは私たちを止めるって言っておきながら、全力で戦わなかったの?」


シャープは俯き、静かに応える。


「……我の妻は、白き世界に不要と言われ、魔王ハデス様によって殺された。妻が死ぬ理由が我には見つからなかった、だから我も妻の所に行こうとしたのだ。」

「っ!?ハデス、自分の幹部にまで手を出すというの!」

「アフロディテ、信じるか信じないかは任せる、少しだけ我の話しを聞いてくれるか。」


突如レイヴァーの前に現れ、戦いに敗れたシャープ。


彼が口にすることとは、いったい。


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