第314話 出発

出発の準備をするため、クロウとアーシェ、サリアとノエル、ミラとリィンに分かれて行動する。


クロウとアーシェは最低限必要になる食材を集めた。



「ねぇ、クロウ。1つ聞きたいことがあるんだけど。」

「ん?」

「私たちが為すべきことを為した先に、あなたは何をしたい?どんな世界を求めるの?」

「どんな世界、か。難しいな。」


クロウは顎に手を当て考える。


導き出した答えは、


「まぁ、まずはアーシェと一緒に旨い店のバイキングに行くことからかな。」

「ちょっと、まじめに聞いているのよーー。」

「まじめだよ。それくらい、心に余裕がないと世界はとても広いのに視野がどんどん狭くなっちまう。それが引き起こしたのが、今回の蠢く会の事例だと俺は思う。だから、まずは俺たちが余裕を持つ必要があると思うんだ。」

「……なるほど、じゃあその先に何を求めるの?」

「簡単だ、元の世界に戻す。昔、父さんから聞いたことがある。4つの国がお互いを理解し合い、助け合って生きていく時代があったって。実績があるんだ、だったらまた前の世界に戻せばいい。」


淡々とクロウは作りたい世界について語っていく。



だが、その言葉は誰でも理解でき、アーシェも反対する部分が見つからなかった。


「そうね、いがみ合っていても良い結果なんて生まれない、あなたのような考えが必要なのかもね。」

「そういうこと、だからまずは、旨い飯のために俺は頑張る。アーシェだって、旨い飯を食う時は幸福になるだろ?」

「否定はしないわ。じゃあ、私から1つ注文していいかしら?」

「なんだ?」


先を歩いていたアーシェが振り返る。


「デザートは、クロウが作って頂戴。それが、私たちの再スタートの証よ。」

「責任重大な注文だな、いいぜ、忘れられない味にしてやるよ。」

「ふふっ、今から楽しみだわ。」


2人は買い物を終え、宿に戻り始めた。




場所は変わり、サリアとノエル。


「ノエルくん!薬とかはこれくらいでいいよね?」

「十分だと思うよ、あと買うものはーー。」

「あ、そうだこれ買っていい?」


サリアは隣の店に置いてあった青い宝石のついた小さいピアスを手に取る。


「装飾品かい?僕は構わないが、戦闘で無くしてしまいそうな気もするけど。」

「無くさないように戦うんだよ!じゃあ買ってくるね!」


サリアはそのピアスを持ち、買い物を済ませる。



「お待たせ!はい!」


戻ってくると共に。右耳分のピアスをノエルに渡す。


「え?これはサリアリットの分だろ?」

「ううん、これはサリアとノエルくんで付けるの!」

「え、だったら2買えばーー。」

「2つあるよ、右耳と左耳分!これを2人で付けたいの!……じゃないと、ノエルくんまたどこかに行ってしまいそうな気がするから。置いていかれる辛さは、ノエルくんも分かるはず、だから、最後の戦いが終わってもまだ繋がっていられるように分けて付けたいの!」


サリアは孤独を経験し、クロウ達に救われた。


それは、兄ホルムに置いていかれ自分の責任でサリアが怪我をしたと感じているノエルは、静かに消えてしまうのではないかと心配していたのだ。



「分かった、ありがとう、必ず無くさない。サリアリーー。」

「サリアって呼んで!」

「え?」

「ほら!早く!」


戸惑いながらも、ノエルは、


「あ、ありがとう、サリア。」

「うん!それで行こう!」


ノエルは、心が温かくなる感じがしていた。


そして2人も、宿に戻り始めた。




最後に、ミラとリィン。


2人は町のレイヴァーに対する噂を調査していた。


やはり、町の住民たちが倒れ始めたのは、レイヴァーのせいだとされていた。


これも、ハーデンが仕組んだ罠に違いない。


「やっぱり、レイヴァーの悪い噂が広まっていますね。事実でなくても、これではみんな信じてしまう。」

「ハーデンという男は、本当に厄介だ。自分が正しいと思い込んでいるのだろうな、でないとここまで人の心の掴むような噂を流すことはできない。」

「そうですね、何とか止めないと。」

「そうだ、リィンはいいのか?」

「何がでしょうか?」


ミラはリィンを見つめる。


「なにって、リィンもクロの事好きだろ?」

「え!?いきなり何を言って!!」


ミラは何も動じずにリィンの顔を見る。


「……はい、あたしはクロウさんの事が好きです。でも、あたしは選択を誤った、心の準備が出来ていないって自分に言い訳して、断られるのが怖くて何も言えませんでした。」

「だからって、諦める必要はないだろ?」

「え?」

「クロは、確かにアーシェと婚約をすると誓っていた。ただ、あいつも1人の人間だ、心の迷いが生じたときに支えになってやれたらチャンスがあるかもしれない。」

「……いえ、やめておきます。好きなのは事実ですが、加えて尊敬もしているんです、人としてすごいなって。だから、あたしは陰から支えることが出来たらいいなと思っています。」

「そうか、なら私はリィンを支えよう、辛いことがあったら私に話せ。」


スサッ。

ミラはリィンの頭を撫でる。


その時のリィンの表情は、少し明るい気がした。





そして、6人が集まった。

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