第310話 彼の気持ち
バゴーンッ!!
大きな爆発音が町中に響く。
「クロウさん!」
リィンたちの目の前で大きな爆発が起きたのだ。
アーシェの魔法によって。
そこには、
「はぁ、はぁ、はぁ。」
息を切らせているアーシェと、
「……っ。」
手を広げ、アーシェを通せんぼしていた無傷のクロウの姿が。
そう、掌に溜められた炎の魔法は、クロウの顔の横を通り背後に着弾したのだった。
「っ、出来ない、出来ないわよ。あなたを、殺すなんて。」
アーシェから大粒の涙が零れる。
「アーシェ。」
「私は、あなたに会えなかったら今を生きていない、もうとっくに死んでいた。スパルタを逃げ出してあなたに助けて貰わなかったら、ギルに捕まった時も助けに来てもらえなかったら、他の多くの戦いでもそう、あなたがいなかったら今の私はいない。」
「……っ。」
「あなたの事を考えると、訳も分からず心がもやもやする。あなたがいなくなるって考えただけで、胸が張り裂けそうな痛みが走る。この感情は何、あなたは、私に何を気づかせたの、怖いよ。」
ズザッ。
サリア達もアーシェ達の近くまで辿り着く。
「アーちゃーー。」
スッ。
駆け寄ろうとするサリアを、ノエルが手を掴んで止める。
「サリアリット、今は2人を見守ろう。僕らの知るクロウガルトとアーシェリーゼを信じる時だ。」
「……うん。」
アーシェの涙は止まらない。
「今もそう、あなたを殺すくらいなら自分が死んだほうがいいって、その方が楽だって思ってしまった。でも、あなたから離れたくない、叶うなら最後まで一緒にいたいと思ってる自分もいる、矛盾していることは分かってる、けど私の心がそう言っているの。」
「アーシェ、俺はーー。」
「こんな気持ちになるなら、みんなと仲間に、あなたの相棒になるんじゃなかった。こんなにも失いたくない、傍にいたいって思ってしまうくらいなら、出会うべきじゃなかった。苦しみも、悲しみも、感じずに済んだ!」
「……でも、俺たちは出会ってしまった。だったら、アーシェの願いを叶えればいい。いや、俺がその願いを叶える。」
「えっ?」
ガシッ。
クロウはアーシェに真正面から抱き着く。
「クロウ、何をーー。」
「俺も同じなんだ、アーシェ。お前を失いたくない、どこまでも一緒に着いていく、この力が役に立てるなら喜んで使う。そう思ってたら、気づいたらここにいたんだ。そしたら、アーシェもここに来た。」
「何で、何であなたには私の動きが分かるの、何でいつも私のそばにいるの!あなたにとって、私はーー。」
「大切な存在だからだよ!俺は、この世界の真実を追求するためだけに生きてきた、けどアーシェと出会ってから、考え方の違い、国の文化の違い、種族の生き方の違い、多くの事を学んだ。そして気づいたんだ、アーシェがいなかったらここまで成長は出来なかったって。」
クロウの言葉が、アーシェの胸に突き刺さる。
「アーシェ、信じてもらえるか分からねえけどよ、俺にはお前が必要なんだ。お前がいたから、ここまでこれた、何度も挫けそうだった、何度も死にかけた、それを1番近くで救ってくれたのはアーシェだ。」
クロウの頭の中に、仮面に囚われた時や、テーベでの戦いが思い起こされる。
「クロウ……。」
「俺とお前は、真逆の人間だ。考え方も、戦い方も。けど、同じ道を歩きたいという思いは全く違わない、失いたくないんだ。アーシェという存在を、俺を支えてくれる相棒を、俺のわがままかもしれないけどよ。」
「でも、問題も山積みなのよ。蠢く会も、ハデスが率いる魔族も強大な力を持ってる、私たちだけでどうにかできるものではない。力の差は、明らかにあるのーー。」
「だったら、俺たちだけでやらなければいい。俺たちは、これまで多くの人とのつながりを作れた、力を貸してくれるとも言ってくれた。だったら、協力してもらおう、レイヴァーだけで世界が回るほど、この世界は小さくない。」
スッ。
クロウはアーシェから離れるが、両腕だけはつかんでいる。
「なぁ、アーシェはまだ不安が残っているだろ、体の震えが止まっていないし、いつもより冷たい。」
「……そうね、やっぱりまだ怖いの、大切な仲間を失うことが、あなたと離れることが。」
「そうか、分かった。なら、俺がとる行動は決まっているな。……いや、これが俺の意志だ、聞いてくれ。」
クロウは真剣なまなざしでアーシェを見つめ、アーシェは何を言われるのか不安に感じる。
(何?今までにない真剣な顔というか、迫力を感じる。何言われるの?)
そして、クロウの口から放たれた短い言葉。
「アーシェ・ヴァン・アフロディテ。俺と婚約をしよう。」
「っ!?」
衝撃的な発言に、アーシェは言葉を返せない。
ただでさえ静かな周りの空気も、風の音がうるさく感じるほどにさらなる無音で包む。
クロウからの告白に対して、
アーシェの返答は如何に。
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