第311話 婚約

アーシェの顔は驚きに包まれており、クロウの発言に何も答えられないでいた。


(今、何て言われた!?婚約!?私とクロウが!?)


アーシェは薄々気づいていた、もしかしたら自分はクロウに好意を感じているのではないかと。

クロウの事を考えると心拍数が上がり、体が熱を帯びることが分かっていた。


アーシェはサリアから聞いていた、というものが何なのか、理解できつつあった。



だが、クロウにはその気は全くないように見えた。


そのせいか、自分の気持ちは何かの間違いだ、この感情は恋ではないと塞ぎこんでいた。




しかし、今のクロウの言葉を聞いて、体が火照り、心のもやもやが解消され、嬉しいという気持ちが溢れていることが分かった。



そして、やっと言葉を口にできた。




「わ……しで、……の?」

「ん?もう1回いいか?」


クロウは蚊の羽音のように細い声のアーシェに聞き直す。



「だから、わた……いいの?」

「え?」


空気が読めないクロウは、再度問いかける。


そんなクロウに、アーシェはしびれを切らし、



「だから!わたしでいいのかって聞いているの!五感が鋭いんだから、耳いいはずでしょあなたは!」

「あ、いや、なんとなく聞こえてはいたんだけど、間違いじゃないか確認してたんだーー。」

「はぁ!?あなたって人は本当に!」

「待ってくれ!怒らせるつもりはなかったんだ!俺も、不安だったんだよ、アーシェに釣り合うような存在なのか自分ではわからなかったから。」


珍しく弱気な姿を見せるクロウ。


その姿に、アーシェは少し安堵した。


(そうか、クロウも私と同じ不安を抱えていたんだ。それを、敢えて口にしてくれた、やっぱりあなたは強い人。)


「私がいいって言っているんだから、その言葉を信じなさい!ていうか、こっちも恥ずかしいんだから何度も言わせないでよ!」

「いや、だって、いつもはっきりものを言うアーシェが聞こえるかどうかの声だったからどうしたのかなってーー。」

「私だって、経験のないことに戸惑うことぐらいあるわ!ああ、もう、そういう鈍感なところは本当に嫌い!……けど、クロウの事は嫌いじゃない。」

「どっちなんだよそれ、まあいいか。じゃあ、俺の覚悟を示すから少しいいか?」

「えっ?」


クロウはアーシェに身を寄せる。


「な、何!?」

「婚約をするんだ、その誓いを立てるのはこうするのが礼儀だって俺は教わった。」

「それって、まさかーー。」

「アーシェ、俺はお前を守る、いや、幸せにする。必ずだ。」



クロウが言い終えると同時に、


クロウの手がアーシェの顎を少しあげる。



そして、



2人の唇が重なり合う。



その空間は、時が止まっているかのように思えた。


アーシェも咄嗟の事に頭がパンクしていた。




だが、クロウとのキスを拒むことはなかった。



その姿を、他の4人も目にしていた。


「クロくん大胆!」

「まあ、クロらしいと言ったららしいと思うがな。」

「悔しいですが、お2人はとてもお似合いだと思います。」

「そうだね、僕たちは戻ろうか。今は、2人の時間が必要だ。」


スタッ、スタッ。

4人はその場を離れ、宿に戻る。



キスをして何秒経過しただろうか、アーシェは体中が熱で覆われる感覚に陥り、今までに体験したことのない感覚に多少の怖さを感じていたが、クロウが傍にいることの安心さがその怖さを上書きしていた。



実際は5秒もないだろう。



そして、クロウから口を離す。



「これが、俺の覚悟だ。


クロウの言葉に、アーシェは返答しようとするが、あまりの恥ずかしさと混乱で顔が見れない。



「あれ、アーシェ?」


クロウが心配になり顔を覗き込もうとすると、


「ええ、脳内にも体全体にも記憶したわ。」

「そうか、ならこっちを向いてくーー。」

「今は無理よ。」

「え、なんでーー。」

「今顔を覗き込んだら、問答無用でウェルダンにするわよ!」

「なぜに!?」


驚いているクロウをよそに、アーシェは俯きながら深呼吸をする。


「その、クロウ。」


スッ。

全ての力を使いアーシェは静かに顔をあげる。


「ん?どうした?」

「その、ええと、私を選んでくれて、ありがとう。」


顔をあげたが、クロウの目は見れずに溢すアーシェ。


「こちらこそ、これからもよろしくな。あと、俺はこっちだぞーー。」

「余計なこと言ったら焼く!」

「はい、ごめんなさい。」


2人はそのまま宿に戻る。



その時、アーシェはクロウの袖をつかんでおりクロウはなぜこうなっているのか分からずにいたが、余計なことは聞かずに宿に戻った。




時間は日をまたごうとしていた。



クロウとアーシェは各部屋に戻り、眠る準備を。



そしてここは、クロウの部屋。


(アーシェと一緒に居られてホッとしているのは事実。けど、目の前に大きな壁が残っているのも事実。明日、作戦を考えてアーシェの両親を助け出さないとな。)



コンッ、コンッ、コンッ。

考え事をしている部屋に、ノックの音が響く。


「ん?入っていいぞ。」


ガチャンッ。

扉が開かれると、そこには枕を持ったアーシェがいた。



「どうした?」

「その、まだ体に不安が残っているみたいなの、だから、今日だけ、その。」

「ん?」

「一緒に寝てもいいかしら。」

「……え!?」


予想外の言葉に、クロウは声が裏返る。


「な、なに、文句でもあるわけ!」

「あ、いや、急な申し出だったからつい。」

「別に、隣で寝たいだけよ、婚約しているんだから変じゃないでしょ!」

「そ、そうだな、うん。」

「もちろん、変なことしようとしたら即刻ウェルダンだからよろしくね!」


少しのごたごたがあったが、2人は少し広めのベッドに横になる。


2人の距離は限りなく近いが、くっついてはいない。


「ねえ、クロウ。私たち、勝てるかしら。」


アーシェは不安そうなトーンで声をかける。


「当たり前だ、俺たちはレイヴァーで、多くはないが他に仲間もいる。それに、俺とアーシェが力を合わせて勝てない奴はいない、俺が保証する。だから、必ずハデスとハーデンの計画を阻止しよう。」

「……ええ、そうね。あなたとならできる気がしてきたわ。……ねえ、もう少し、そっちに寄ってもいいかしら?」

「どうぞ、アーシェがしたいようにしてくれ。」

「ありがとう。それじゃあ、お休みなさい。」

「ああ、お休み。」


アーシェはクロウに体をくっつけ、2人は手をつないで眠りについた。




そして次の日、彼らは動き出そうとしていた。


第61章 完



◆◆◆お礼・お願い◆◆◆


第61章まで読んで頂きありがとうございました。


クロウとアーシェの気持ちがぶつかり合い、本音をこぼしたアーシェ。

そして、2人は婚約を誓い決意を改めて固めた。

レイヴァーの最後の戦いは、着実に近づいていた


スパルタに行く準備スタート!

最終決戦は目の前!?

これからもレイヴァー応援しているぞ!


と思ってくださいましたら、

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ここまで読んで頂きありがとうございます!今後とも宜しくお願いいたします!

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