第306話 真のレイヴァー
「あれが、ハデス。今のスパルタの魔王か。」
「ええ、私の両親が血のホワイトデイをきっかけに失墜した、その元凶がハデスだと思っているわ。」
「まさか貴様が生きているとは考えていなかったぞ、貴様の親共は口が固くてな、血のホワイトデイで行方不明ということにしていたが、アテナイに逃げ込んでるとは考えていなかったよ。」
「ハデス、今ここに現れたということは、蠢く会と手を組んでると思って良いのかしら?」
ギロッ。
アーシェの目が狼のように鋭くなる。
「ご覧の通りだ、アフロディテ。我はスパルタの魔王となり力を得た、だが、どうも物足りないのだ。」
「何を言っているの、魔王にはスパルタを繁栄させるという重大な使命があるわ!あなたは、それを怠っているのではないの!」
「そんなことをして何になる?我々の
「その言い方、白き世界と似てるわね。……まさか、あなたも!」
「勘がいいな、さすがアフロディテ!そうさ、白き世界と
誰が予想しただろうか。
周りの国とは一線を引き、交友を好まなかったスパルタの魔族、そんな魔族の魔王ハデスがアテナイの人族と手を組み世界を作ろうとしているのだ。
白き世界、
そんな世界を魔族のトップと、世界に手を伸ばしているハーデンが手を組んだとなれば、世界の終わりも近いと感じてしまう。
「ハーデン、てめえはそんな世界を本当に作れると思ってるのか!蠢く会は、ハーデン1人になった、こいつが生贄にしたからな!」
「そんなの、次の世界に必要がなかったから消したにすぎないだろ、ハーデンと我以外、必要な存在は我らが決める。そこに入らなかったのだから、生贄になって当然だーー。」
「てめえ、ふざけんなよ。命をなんだと思ってんだ!!」
「落ち着けよ、烏。今日はお前じゃない、そこの魔族の女に用があったんだ。」
スッ。
ハーデンはアーシェを向く。
「私は何も用がないのだけど。」
「本当にそうか?では、ハデスの言葉を聞いてみるんだな。」
「貴様が生きていることは、予想外ではあったが見つけてしまえな何の問題もない、この意味がわかるか?」
「まさか、あなた!!」
「3日後だ。3日後に、アフロディテ前魔王とその妃を処刑する。」
ハデスは高らかに宣言する。
アーシェの両親を処刑すると。
「さっきからふざけたことばかり言ってる魔王さんよ、そんなことさせると思うなよ!」
「烏の男、貴様に何ができる?」
「簡単なことだ、俺たちレイヴァーでお前らを止めてやる。アーシェの両親を、処刑させねえ!」
「単純な男だ。こちらも交換条件を出してやろうとしているのだ、そう焦るな。」
「交換条件だと?」
クロウは首を傾げる。
「簡単なことだ、レイヴァーの身柄を差し出し、アーシェ・ヴァン・アフロディテが我と婚約をしろ。そうすれば、次の世界ができた暁には、貴様らを全員生かしておいてやろう。」
ハーデンの言葉に、アーシェは体を震わせた。
怖いや苦しいといった感情ではない。
ドス黒い感情が体を支配した。
「そんなこと、サリア達は望まない!アーちゃんは、レイヴァーのメンバーなんだよ!あなた達なんかに渡さない!」
「そうだな、アーがいなくてはこのチームは完全ではない、奪いに来るなら来てみろ、後悔させてやる。」
「……。」
アーシェは黙り込む。
「まあいい、今回は挨拶しに来た程度だ。まあ、魔力も欲しかったのでな、数百人から奪ってはおいたが。」
「ハーデン、ふざけんなよ、人の命を弄ぶようなことを!!」
「何度も言わせるなよ、贄になれる幸福を与えてやってるだけだ。さて、俺とそろそろ時間か、アフロディテだったな、お前の中の最善の選択をするんだな。」
シュインッ!
目の前からハーデンは霧散し、さらに映し出されたハデスも消える。
「消えた、のか。」
「ハーデン、あの姿はなんだったのだろう。」
「まずは、作戦を立てましょう。これからの動きはあらかた決まりました。」
「あの、少しだけいいだろうか。」
ノエルが5人に話しかける。
そして、直角に体を曲げ、
「申し訳なかった。今まで、君たちを騙していた。レイヴァーの一員になると言っておきながら、蠢く会に情報を流してたんだ。僕は、ここにいる資格がないーー。」
「それは、兄貴のためだろ?」
「え?」
クロウがノエルに近づく。
「兄貴のために、自分を犠牲にして俺たちのところに来た、そしてこの状況からしてお前が兄貴をこの世界から解放してやったんだろ。辛いのは俺達よりも、お前だろ、ノエル。もちろん、聞かなきゃいけないことはまだある、けど今は俺たちの仲間として一緒に来て欲しい。」
「……いいのかい、僕がついていって。」
「ノエルを拒む理由を、俺は持ち合わせていない。ほら、近くの町まで移動して作戦を練ろう、それからが俺たちの役目を果たす時だ。」
スタッ、スタッ。
レイヴァーは王国を出て、近くの町に向かった。
その時のアーシェの表情は、何かを考えているようであった。
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