第307話 彼女の決断

レイヴァーは近くの町に移動し、身を隠していた。


王国で人々がたくさん死んでしまったことは、情報操作の影響か、アーシェが実行犯だとされており指名手配の重要度が上がってしまった。



そのため、王国から離れた田舎町に身を寄せた。


食材を買い、一件家を宿として貸している珍しい経営の宿屋を借りた。



そこで、ノエルは全てを話した。



アイアコス家のこと、ホルムが自分の生きる目標だったと、蠢く会としてレイヴァーに潜入し情報を流していたと。


さらには、ミラを暗殺しようとしたこと、サリアの命を狙ったこともあると告白した。



だが、


「ノエは、私を殺す気は全くなかったように見えたぞ。確かに、私は銃を向けられた、だがそこに殺気はなかった。あったのは、1人の人間としての迷いだ。」

「ミラさん……。」

「迷うことは悪いことじゃない、初めから正しい判断なんて存在しない、自分が信じたものが正しかったとなる道を作るのが生きるということだ。」

「ノエルくんに殺意を向けられたことはない、サリアもそれは保証するよ。それどころか、ノエルくんがいなかったらサリアはホルムに殺されてた。むしろ感謝してるよ!」

「2人の意見はこうだ。リィン、アーシェはどうしたい?」


ノエルをレイヴァーに連れ戻していいかの判断を下していた。


「あたしも、ノエルさんには戻ってほしいです。素早い判断、皆さんに劣らない戦闘力、そして数少ないレイヴァーのまともな人、絶対必要です!」

「リィン、今なんで俺の方を見て言った?」

「気にしないでください!アーシェさんは、どう思いますか?」

「……そうね、確かに彼はとても強い。でも、裏切ったことを私は許せない、たとえどんな理由があったとしても。ノエルランスが戻らなければ、サリーが怪我しなかった可能性もあった。」


アーシェのきつい言葉がノエルに突き刺さる。


「裏切られた人ってのは、そう簡単に信頼し直すのはとても難しいことよ、心の傷はそう簡単には癒えない、けどそんな環境でも信頼を取り戻す覚悟があるなら、私も戻ってきてほしいわ。」

「アーシェリーゼ。」

「あなたの覚悟がどんなものなのか、それが図られる時よ。私は、あなたを贔屓して見ることはしない、努力して上がってきなさい。」

「……ありがとう、みんな。」

「そんじゃあ、ノエルは正式にレイヴァーのメンバーに復帰だ!この後のこともある、先ずは治療を最優先で明日ここを出よう。」


スタッ、スタッ、スタッ。

ガチャンッ。

レイヴァーは1人1人が部屋に入り、1日の疲れを癒していた。


中でも、アーシェは身体だけでなく心も疲労困憊であった。


(ハーデンと、婚約。)


頭の中に、先程までのハーデンとハデスの会話が蘇る。



「くそっ!」


ガゴンッ!

アーシェの怒りの拳がテーブルに振り下ろされる。


それはもちろん、アーシェの気持ちとして婚約をしたいわけがないからだ。



(どうするのが最善なの、私はレイヴァーにいたい。だけど、ハーデンとハデスも、ハデスの配下もまとめてレイヴァーに攻め込んできたら、いくらみんなでも勝てない。)


アーシェの葛藤は、いつまでも続く。


外は暗くなり、月の光が真っ暗なアーシェの部屋に差し込む。


その光は、アーシェの顔に浮かんだ涙を光らせた。


「誰か、答えをちょうだい……。クロウ。」


アーシェはゆっくりと目を瞑る。


その頭には、これまで乗り越えてきた数え切れないほどの思い出が。


スパルタからアテナイに渡り、クロウと出会った。


そこでクロウという存在がどういうものなのか、最初は意見がぶつかり合うだけのイラつかせる存在だった。


だが、自分が助けられたことの恩返しとして行動を共にし、リィンと出会い、サリアと仲間になり、ノエル、ミラとも一緒に行動することで、自分が変わっていくのが分かった。


今までは、自分の国を繁栄させるためなら、欲しいものは力ずくでも手に入れ、誰よりも強くあろうとしたのがスパルタの歴代魔王だった。


アーシェも、同じ道を辿るべきだと思っていた。




だが、クロウは自分と真反対の人間であるにも関わらず、皆を幸せにし、繁栄させる力を持っていた。


それは、アーシェにも響いていた。



「クロウ、私はあなたを、どう思っているのかしら。この感情は、この苦しみはなに。なぜ、あなたの顔を思い出すと、呼吸が苦しいの、私の体に何が起きてるの。」


最後に、ハーデンの声が響く。



「婚約……私がここからいなくなれば、レイヴァーは生きることができる。……そうね、私が選ぶべきものなんて、初めから決まってるじゃない。」


ズサッ。

スタッ、スタッ。

アーシェは、静かに部屋を出て家のドアを開ける。



そして、振り返る。




「ありがとう、今まで寄り添ってくれて。……さようなら。」



優しく微笑み、真夜中にアーシェは1人で町の門へ向かう。


その足取りはしっかりとしている。


だが、後ろ姿はどこか悲しさを纏う。




「これが、私の選択。レイヴァーが幸せになれる最善の選択ーー。」

「何が、最善の選択だって、相棒。」

「っ!?」



門の前には、いつもそばにいて力をくれた、クロウの姿が。


その顔は、今まで見た中でとても真剣で、釘付けにされてしまうものだった。


アーシェは、クロウは、何を語るのか。


第60章 完



◆◆◆お礼・お願い◆◆◆


第60章まで読んで頂きありがとうございました。


戦いを終えたのも束の間、外に出るとそこにはハーデンと映し出されたハデスが。

そこで、アーシェに伝えられた婚約の言葉。

そして、アーシェとクロウは何を話すのか。


物語はクライマックスへ!

クロウとアーシェは何を語る!?

これからもレイヴァー応援しているぞ!


と思ってくださいましたら、

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ここまで読んで頂きありがとうございます!今後とも宜しくお願いいたします!

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