第296話 1人じゃない

「サリア、リット。なんで、生きて。」

「勝手にサリアを殺さないでよ、まだやりたいことがたくさん残ってるんだから、こんなところじゃ死ねないよ。」

「でも、怪我は!ホルムに刺された怪我は、軽いものじゃなかったはず!」

「ああ、それやったら植物魔法で無理やり縫合して塞いだわ。心臓をやられたんちゃうから生きとるけど、かなりの痛みが残ってる。いつも通りは動けへんで。ノエルの兄さんは?」

「僕も、せいぜい後数回攻撃できるくらいだ。すまないサリアリット、エリカリット、こんなことに巻き込んでしまって。」

「何言うてるんや?サリア達は、こんなところで死なないよ、あの人は絶対に止める!!」


ズザッ。

姿を変えたホルムは、2人の前に迫る。


「まだ生きてたのか、エルフ、しぶといやつだ。」

「なんや、あんた知らんかったんか?レイヴァーはしぶとい連中で組まれとるんや、もう簡単に殺せると思うてるのなら大間違いや!行くよ、ノエルくん!」

「え?」

「サリア達で、レイヴァーのサリアとノエルくんでこの人を止める、どんな姿でもあれはお兄さんなんでしょ?兄弟が離れ離れになるのは、辛いことだから。」

「……ありがとう、サリアリット。謝罪も、どんな罰も受ける、だから、今この時だけでもいい、あれを止めるために力を貸してくれ。」


カチャッ。

サリアはダガーを構え、ノエルは拳を構える。


「はっ!死に損ないが、そんなボロボロの体で俺を倒せると思ってんのか!!」

「確かに、1人じゃできないと思うよ。だけど、僕にはサリアリットがいてくれる、これは僕が勝つ根拠になる!」

「時間はかけられへん、でもノエルの兄さんならうちらのやりたいこと分かるやろ?」

「任せてくれ、僕が必ず合わせる、君は君のまま動いてくれ!」

「あくまで倒すつもりみたいだな、なら、やってみろよ!」


バゴーンッ!

ホルムの体から衝撃波が2人に放たれる。


「いくよ!」


2人は力を振り絞り、挟み込む形でホルムに迫る。


「いいぜ、2人共ここで死んでいけ!」

「嫌だね! 肆の舞シノマイ友の協奏曲フレンズコンチェルト!」


シュンッ!

ガギーンッ!

ブーメランのように投げられたダガーは、ホルムに弾かれる。


「なら! 撃ち抜け、空の彼方まで!惑星間砲弾マスドライバー!」


バゴーンッ!

続けて、魔銃から無属性魔法の弾丸を放つ。


だが、やはりホルムには通じない。



(ん?今、魔法が当たる寸前に魔力の流れが乱れた?ホルムの体、何か気になる。)


「無駄ってことを認識しろよ!」


ブンッ!

ガギーンッ!ガギーンッ!

ホルムの拳を、サリアはダガーでギリギリで弾く。


(うっ、刺された影響で100%の力は出せない、かなりきつい。)


「ホルム!もうやめろ!こんな戦いは、何も生まない! ゴウ八の型ハチノカタ車輪ホイール!」


グルンッ!

ガゴーンッ!

縦回転し、2段蹴りがホルムを襲う。


だが、攻撃はホルムまで届かない。


「うるせえよ、俺が選んだ道を邪魔するな!」


バゴーンッ!

魔力の爆発を自分の体で行い、2人を壁に叩き付ける。


「えほっ、はぁ、はぁ、なんとなく分かったで、あんたの弱点が。」

「あっ?俺に弱点?そんなもの、あるわけねえだろ!」


ブンッ!

ホルムの拳がサリアに迫る。


ズザーッ。

何とか転がり避けると、壁はたやすく打ち抜かれる。


「サリアリット、何か分かったのかい?」

「うん、あの絶対的な防御は確かに存在する。けど、物理と魔法の両方を同時に防ぐことはできなさそうだよ。その証拠に、うちらの魔法、ノエルの兄さんの物理の時に魔力が乱れるのが分かった。可能性は、かなり高いと思うで。」

「だったら、その可能性に賭けるしかないね。でも、1つ間違えたら。」

「サリア達は死ぬことになるね。けど、これくらいの壁は何度も乗り越えてきた。それに、ノエルの兄さんとなら大丈夫な気がすんねん。」

「……ありがとう、必ずお礼はする、何でも構わない。だから、今この瞬間は、僕に命を貸してくれ!」

「いいよ!サリアのすべてを、ノエルくんに捧げる!」


ズザッ!

神憑りクロス限界突破オーバーフローを発動している、尚且つ体のダメージも相まって、限界はとうに超えていた。


しかし、2人の目にはホルムを止めることしか映っていなかった。


「俺は飽きてきたぜ、そろそろ眠れよ!」

「どっちが先に目を閉じるか、勝負しようや!」

「僕たちは、乗り越えなくちゃいけないんだ!世界なんてどうでもいい、仲間のために!」

「うるせぇ、早く死ね!」


バヒューンッ!

ホルムの体から、ドス黒い魔弾が複数放たれる。


「うちらの完成形、見せたるわ!行くでサリア! 全てをこの体に!樹の精霊ドリアード!」


ブワァ!

サリアの周りを、無数の花が覆い、地面からは根が、空からは枝がホルムを襲う。


植物魔法の最上級技だ。


全ての植物と同調し、自分の手足のように操れる。


その攻撃は、ホルムの視界を遮るように襲い掛かる。


「ふん、だから効かないと言ってーー。」

「メインディッシュは、ここからだよ、ホルム!  ゴウ終の型オワリノカタ破滅の蹴舞デストロイドライブ!」


ガガガガガッ!

目で追えない連続の蹴りが、ホルムの背後から突き刺さる。


まるで足が10本でもあるかのような、鋭い打ち込み。



「ちっ、邪魔なんだよお前は、失せろーー。」


パキンッ!

ズサッ!

ホルムから何か割れるような音が鳴り、背中に衝撃が走る。


「うごっ、なんだ、何が起きてーー。」


ズシャンッ!

次は、上空からの枝が右肩に刺さる。


「何でだ、完璧な体の俺になんで!」

「完璧なんて、この世に存在しないんだよ、兄さん。その身で、しっかりと味わってくれ!」


2人の無数の攻撃がホルムを襲い、ノエルの最後の1撃がホルムを壁に突き刺す。


はたして、この戦いの終わりは。

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