第295話 兄弟喧嘩

ホルムから蒸気が沸き立ち、目は赤く、異常が起きてるのが見てとれる。



中でも、


バギッ!

右肩と左肩が膨れ上がり、ゴリラのような上半身に。


もはや、人とは呼び難い存在に変わってしまった。


「ホルム、なんでそこまでして。」

「いいぜ、乗ってきた!なあ、そう思うだろノエル!この力、この感覚、これが本当の俺だ!これなら、誰でも殺せるぜ!」

「人を捨ててまですることに、なんの意味があるんだよ!その姿は人ではない、化け物になってるのがわからないのか!」

「化け物?笑わせるな、これが俺の全て、俺という存在証明なんだよ!」


シュンッ!

体からは予想のつかないスピードで、ノエルに接近する。


「まずはお前で試させてくれよ、ノエル!」

「くそっ、こんな! ジン九の型キュウノカタ散弾ショットガン!」


ガッガッガッ。

ノエルの連続の拳が、ホルムの体を捉える。



だが、


その攻撃は弾かれ、顔に傷一つ入っていなかった。


「っ!?硬いだけじゃない、なんだーー。」

「おらおら!遅いぞノエル!」


ブンッ!

ガギーンッ!

大振りの拳が、ノエルを壁に打ち付ける。


防御はしたものの、その上から吹き飛ばされるほどのパワー、明らかに力は増幅している。


「げほっ、やはり人とは遠い力だ、ミラさんの一撃と似て威力は高いけど、それとは違う。体を、何か冷たいものが覆う感覚が残ってる。」

「おいおい、まだ終わってくれるなよ、ノエル!前菜もまだ出てきてねえぜ!」

「なら、僕から前菜を提供するよ! 止められるかい!閃光の弾丸グランデバレット!」


ダダダダダッ!

手のひらに光の玉を集め、弾丸の如きスピードで放つ。


しかし、


ホルムの体に当たっても何一つ変化がない。


「はっ、そんな軽い攻撃が俺に効くかよ!」

「なら、背中はどうかな!」


ノエルの魔法攻撃はフェイクかのように、瞬間的にホルムの背中を取っていた。



ゴウ九の型キュウノカタシップ!」


グルンッ!

ガゴーンッ!

鋭いサマーソルトが、振り返ろうとするホルムの顎に直撃。


しかし、


「だから、効かないって言ってんだろ!」


ガシッ!

ブンッ!

ノエルの攻撃をびくともせず受け止め、右足を掴んで数十メートル投げ飛ばす。


「えほっ、なんだ、何があの体を守ってる。」


ノエルの体は、至る所に傷が生まれ、多くの出血が見てとれる。


通常使わない力を解放しながら、ホルムの変化した状態と闘い続けるのは、体に相当の負担を与えていた。


(くそっ、手も足も長くは使えない。1分、いや持たせられて2分か。その間に、ホルムを倒してサリアリットの状態を確認しないと。)


いつも冷静な表情をしているノエルの顔からは、その余裕は無くなっていた。


「さあて、そろそろ終わりにするか?ノエル!お前も、アークと同じところに送ってやるよ!!」

「ホルム、なら最後に教えてくれ。アイアコス家を抜け出す時、なぜ僕も一緒に連れ出したの?」

「あ?はっ、そんなの使えそうだったからに決まってるだろ!アイアコス家の奴らは、この世界になんの疑問も持っていない、だから王国にいいように使われて、自由がない生活を強いられてる!」

「確かに、アイアコス家は自由が少ない環境だった。それに、その時の兄さんは何か大きな希望を持っているように見えた、あの時の兄さんはどこに行ったんだよ!」

「そんなものあるわけねえだろ、俺は俺のやりたいようにやって、生きたいように生きれる世界が欲しかっただけだ!もしその俺に希望を抱いてたなら、お前が愚かだっただけだ!」




ドスンッ!ドスンッ!

着実にホルムがノエルに迫る。


ノエルも動こうとするが、すでに傷だらけの体のため一歩を大切にしないといけなくなっていた。


「まあ期待外れの弟だったけどよ、死ぬ時くらいは楽に死なせてやるよ。兄の責任としてな!」

「くっ、僕は兄さんを連れ戻そうとしてたのに、何もできなかった、本当に愚かな存在だったな。」

「俺を連れ戻すか、それは大きなおせっかいだったな、俺はここを、蠢く会を家のように扱ってる!そうだ、もし俺と同じ存在になるなら、ハーデンに交渉してやってもいいぞ!道を間違えた弟を助かるっていう話でーー。」

「断る。」


鋭い眼差しで、ホルムを睨みつける。


「なんだと?」

「僕は、化け物になってまで生きていきたいとは思わない。人は人として終わりを迎えるのが、この世界の定めだ。あんたと同じ存在にはなりたくない。」

「そうか、ならお前はここで、1人ぼっちで死んでいけ!哀れな弟!」


シュイーンッ!

ホルムの右拳に、魔力が溜まっていく。


「ごめん、サリアリット。ごめん、レイヴァー。僕は、役に立てない弱虫だった。」

「さあ眠れ、ノエルーー。」



ノエルが死を覚悟したその時、



ガゴーンッ!

ノエルの視界から、ホルムが一瞬で消える。



気づくと、左前方の建物に打ち付けられていた。


「な、何が起きてーー。」

「何勝手にうちを殺して、兄さんも死のうとしてんねん。こちとら、まだ生きてるわ!」


そこには、植物魔法を放つサリアの姿が。


「サリア、リット。なんでーー。」

「ノエルくん、1つ頭に刻んでおいて。あなたは、1人ぼっちなんかじゃない!」


ホルムとの戦いに、1つの光明が刺した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る