第293話 2人の思い

「なんとなく、予想していたんだ。サリアリットと、戦うことになるんじゃないかもって。」

「それは、サリア的には嬉しいよ。」

「なぜだい?君の方が僕より強いからかい?」

「強いかどうかなんて分からないよ、まだサリアはノエルくんの本気を見たことないから。ただ、サリアは諦めが悪いからさ、ノエルくんがどう思っていても連れ戻すつもりだから、そのつもりで!」


チャキンッ!

サリアはダガーを構える。


「……理解できない、蠢く会のメンバーって分かったのに君はまだ僕をレイヴァーに入れようとするのかい?」

「確かに、サリアも蠢く会の行いは、絶対に許せないよ。けど、ノエルくんは蠢く会にいるのには理由があるよね。」

「理由?そんなの、白き世界成就のために決まっているじゃないかーー。」

「サリアに嘘つくの?今のノエルくんの顔は、ただ後悔している顔、今まで何度も見てきた顔。その顔をする時、ノエルくんは大抵嘘をついてる時なんだよ。」

「くっ、余計な話は終わりだ!君は、僕が倒す! ジン四の型ヨンノカタ豪弾マグナム!」


ズザッ!

勢いを乗せた全力の拳がサリアに迫る。


「戦いの中で、たくさん話そう!ノエルくん! 参の舞サンノマイ悲哀の挽歌ソローエレジー!」


ガギーンッ!

ダガーとグローブを装着した拳がぶつかり合う。


その衝撃は、周りの木々を揺らすほど。


「ノエルくん、気付いてるんでしょ!蠢く会は、度を過ぎたことをやりすぎてる、ノエルくんが理解できないことだって!」

「うるさい!僕は、蠢く会に忠誠を誓ったんだ、ハーデンの為に僕は命を捧げると!」


バゴーンッ!

サリアは3mほど後ずさる。


「それは嘘だよ、ノエルくんには違う理由がある!だから、今そんなに苦しい顔をしてるんでしょ!」

「だったらなんだって言うんだ!僕が、蠢く会にいる理由はーー。」

「ホルム、ノエルくんのお兄さんを助けるためでしょ!!」

「うっ!?」


ノエルに隙が生まれる。


「壊せ!根の侵攻ルーツバスター!」


バゴーンッ!

地面から根が突き出し、ノエルを襲う。


「くっ、本当に君って人は。 ゴウ七の型ナナノカタ扇子ファン!」


グルルンッ!

素早い横回転蹴りで、根を弾き飛ばす。


「分かっているんだよ、サリアには!ノエルくんは、レイヴァーに入った時から偵察目的で動いてた。それは、サリア達の情報を蠢く会に流すため!」

「そこまで分かっていたのに、なぜ僕を殺さなかった!クロウガルトでも、アーシェリーゼでも知れば追放したはずだ!」

「サリアには、そんなこと出来ないよ。兄妹の大切さは誰よりも知ってるつもり、それに、エリカを、テーベを救った時、ノエルくんは命を懸けて戦ってくれた、あの時の姿を演技だとは言わせない!」


ガギーンッ!ガギーンッ!

2人の攻撃が火花を散らす。


「確かに、自分を信じ込ませるために命を張ったことはあるかもね、けど僕は、蠢く会のために動いてたのも事実だ!」

「確かにその事実は変わらないと思う。だけど、ノエルくんはサリア達が不利になるような情報は流さなかったよね?」

「っ!?」

「だって、サリア達は蠢く会に邪魔されることは確かにあったけど、命を取られるほど危険な場面には出会わなかった。それは、ノエルくんがそう仕向けてたからなんでしょ?」


ドクンッ!

ノエルの心臓が大きく鼓動する。


自分の中では、隠せていると思っていた。




だが、サリアには全て見破られていたことに驚きを隠せなかった。


「お願いだよノエルくん!レイヴァーに戻って!お兄さんを助けるのは、レイヴァーでもできることだよ!」

「それは……それはできない。僕はもう、レイヴァーじゃない、蠢く会のメンバーとしか生きられないんだ!」

「そんなことはない!確かに過去は変えられない、けど、

「ダメなんだ!僕が戻ってしまっては……。」


ノエルの闘志が、薄まっていくことにサリアは気づく。


(戻れない……そういうことか!ノエルくんがレイヴァーにまた入ったら、お兄さんに何らかの事態が起きてしまう。だから、ノエルくんは離れないんじゃない、離れられないんだ!)



「大丈夫、レイヴァーを、サリアを信じて!何があっても、この命を張ってあなたの大切なものを守るから!だからーー。」


グサンッ!

サリアの言葉が突然止む。


その姿は、ノエルの目にも映っていた。


「サリア、リット?」

「うはっ。」


バタンッ。

サリアはその場に倒れる。


左腹には深く刺された跡があり、血が流れ出す。



「サリアリット!」


ノエルが駆け付けようとした先には、


「さすがだな、ノエル。俺の弟として、役に立ってるじゃねえか。これで、レイヴァーを1人排除できた、上出来だ!」


ブワンッ!

サリアの背後から、ホルムが姿を現す。


「ホルム、兄さん。なんで。」

「なあに、可愛い弟のために助けに来てやっただけだよ!」


スタッ。

ホルムの手には、サリアを刺したであろう剣が。



「サリア、リット。」


ノエルの中に、これまでのサリアとの記憶が溢れ出す。


ぶつかる事も、助け合うことも、短い間で濃い時間を過ごした日々が。


そして、その本人は目の前に血を流して倒れている。




ノエルの全身が熱くなる。

血が滾り、内側から燃やされるかのよう。



その昂りは、ノエルの意思とは関係なく体を動かしていた。




そして、



「ホルム!!」


ノエルの怒りの拳が、ホルムの顔面に迫っていた。

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