第285話 気配

アーシェ達が宿に戻ると、クロウ達は先に宿にたどり着いていた。


「アーちゃん、リィンちゃん、ミーちゃん、お帰り!」

「ただいま。2人の方が早かったわね。」

「ギルドに言ったところで、ちょっと厄介な可能性に気づいちまってよ、先に戻ってきたぜ。そっちはどうだった?」

「こっちは簡単に言うと、黒いローブを見ました。すぐに見失ってしまったのですが、この町にも蠢く会がいるとみて間違いないと思います。」


5人は広間に集まり作戦を考える。


「蠢く会もやっぱりここにいるか、まあ、もうどこにいても驚きはしねえか。」

「そうね、私たちの動きは、ある程度予測されてると思った方がいいわね。それで、厄介なことに気づいたって何のことなの?」

「ああ、この前ラストが生きてる姿を見ただろ?普通、死んだはずの王が生きてたら国全体として大騒ぎするはずだ。けど、アーシェの手配書ばかりで王のことには全く触れない、それどころか、俺が話した奴は王が生きてることを伝えたら嘘だって言ってたぜ。」

「それって、もしかして!」

「ああ、あのラストは魔法かなんかで作り出された幻、俺たちにしか見えていなかった存在だ。そして、アーシェを狙う理由は、俺とミラは仮面を持っているから殺したくない、加えて人族が他の種族で1番嫌っているのが魔族、つまりアーシェから排除して俺たちを追い込む作戦だと思う。」


クロウの考えは、全員を納得させた。


「確かに、だとしたら町の活気が溢れたままなのも納得がいきます。王が生きていたと分かれば、ラスト王はオールドタイプですから皆から標的にされるはずですもんね。」

「良かったじゃないか、アー。やはり、悪いのはアーではない、これまでの歴史が作り上げてきたいざこざだ。むしろ、その被害者にさせられたくらいだ。」

「ありがとうミラ、少し楽になれた気がするわ。あとは、これからどうするかって所ね。」

「王国に向かうのは早い方がいいと思いますが、あたし達も疲れていては勝てる戦いも勝てません。それに、ノエルさんが出てくる可能性もあります、今日は早めに休んで明日に備えましょう。」

「そうだな、一旦今日は解散だ。こういう時だからこそ、自由行動でリフレッシュするか。」


5人はバラバラに動き、各々の時間を過ごす。



その中でも、クロウは再びギルドに向かっていた。


(アーシェを狙う戦士がもしかしたらいるかもしれねぇ、あいつがそう簡単にやられるわけねぇけど、集団で動かれたら厄介だ。少し観察してみるか。)


キィー。

ドアを開き中に入ると、嫌な予感は的中していた。



アーシェの討伐依頼を見た多くの戦士が、報酬について受付嬢に質問をしていた。


内容は簡単、一生分の暮らしの保証はどこまでなのか、何まで手に入れられるのか、集団で倒してもいいのかなどクロウが聞いていてイラつくものばかりであった。


(くそっ、蠢く会の罠に上手く嵌められているな、こいつらが全員動き出したら、アーシェの身の危険だけじゃねぇ、この町の治安も悪くなりかねない。明日町を出たら、1分でも早く蠢く会を止めないとアテナイが崩壊する。それも蠢く会の狙いだとしたら、白き世界成就が近づいちまう。)


クロウがギルドを出ようとすると、


「おう、お前もあの依頼目当てか?」


クロウの2倍ほどある大柄な男が、話しかけてくる。


「あの依頼、何でも報酬をくれるってやつか?」

「そうだ、どこのギルドもあの依頼で持ちっきりだ。胡散臭いけど、あれで一生遊んで暮らせるようならどんな手を使ってでも討伐しときたいぜ。」


その言葉は、無意識にクロウの殺意を引き出していた。


「そうだな、まあ、それだけの依頼をされるターゲットなら、そう易々と討伐できる存在じゃねえんだろうけどな。もちろん、討伐に行くやつをどうこう言うつもりはねぇけど、死んでから後悔することになるだろうな、相手を間違えたってよ。」

「ん?そうか?やけに詳しいなお前。」

「なぁに、胡散臭い依頼には裏があると思っただけだ。」


クロウはそのまま宿へと戻る。



そして5人は再び宿に戻り、その日は眠りにつく。





が、夜もまだ深い中、宿の周りをそそくさと動くものが。


「っ!?何かいる。」


クロウは草と足がかすれる音を聞き逃さなかった。


クロウが気づいてから、1分も経過していないだろう。



ボァァ!!

一瞬にして、宿が火の海に包まれる。


「よし、作戦成功だな、中から人の気配は感じない、それにここに入ってから抜け出した痕跡もなかった、俺たちの勝ちだな。」



スタタタタッ。

宿の周りにいた者は、闇に紛れ消えていく。




スッ。

宿の近くの草むらに、数人の人影が。



「ふぅ、サリア達は助かったね。」

「ええ、クロウのおかげで逃げ出すタイミングを合わせられたわ。さすが、戦闘においてはエキスパートね。」

「だが……。」


クロウ達5人は、警戒していたおかげで抜け出すことが出来た。



だが、宿を経営する人は連れ出すことが出来ず、炎の海の中に消えていった。



「くそっ、目的のためならだれでも巻き込むのかよ。」

「行くぞ、クロ、王国に少しでも早くいかないと、被害が大きくなりかねない。」

「……ああ。」


スッ。

5人は宿に向かい深々と頭を下げ、町を出る。



蠢く会との決戦も、そう遠くないのかもしれない。

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