第281話 亀裂

ここは、暗闇に包まれ、光が届かないように設計されている建物の中。



そこには、黒いローブを着た者が複数名集まっていた。


もちろん、ノエルの姿も。


「アイアコス弟、今日までのレイヴァー潜入任務ご苦労だった。少し瘦せたのではないか?」

「いえ、ハーデン様、問題ございません。近日戦闘が続いてたため、多少の疲れが出たのかもしれません。」

「にしても良かったな、あんたは。アークのように勝手に死なずにすんで!」


ライアが大きな声を発し、ノエルを見つめる。


「そうですね、アークさんが亡くなったのは残念ですが。」

「気にすんな、あいつは勝手に髑髏の仮面を持ち出して勝手に使って死んだんだ。ハーデンが使う許可を出したわけでもないのによ。」


ノエルの兄、ホルムが笑顔で語る。


他にも、キルシャス、ドートも参加しており蠢く会6人が集まっていた。


「あれ、あの鰐の魔族はどこだ?もう手放したのか?」

「そんなわけないだろキルシャス、あいつは僕たちが作り出した最初の魔族の状態を保ったゴーレムだ。たしか、ギルって名前だった気がするけど、もうあいつではないから裏切ることもできないよ。念のため、牢屋には入れてあるけど。」

「質問があります、宜しいですか。」

「どうした、アイアコス弟。」


ハーデンにノエルは質問を投げかける。


「僕の認識では、ゴーレムは複数の生命体を融合させることにより生み出されるものですよね。であれば、元々ギルであったあの生命体は何がきているのでしょうか。」

「何、そんなことも知らないの、ポンコツ諜報員は?」

「そういうな、ライア。レイヴァーの危機察知能力は厄介だ、だからこそアイアコス弟を選んだのだ、こっちの情報が届いていないのも無理はない。そうだな、簡単に進化したゴーレムのその先の存在についてはなそう。」



ギルは、魔王10将軍の中の1人で戦闘力は中でも上位争いをできるほど。



だが、数か月前に蠢く会は魔族大使館を襲撃、一番力を持っていると判断した彼らはギルを殺すのではなく、ギルから何か作り出せるのではないかと考えていた。


そこで導き出したのが、



これまでは、魔力を持つものを媒体に、ある一定値まで達した際に魔力を全て開放することにより、形状が保てずボー連の形となって生まれる。



だが、魔族の中の精鋭となれば話がべつ。


元々の魔力量がこれまでの比にならないほど高いため、一定値まで魔力が達した際に開放したが体がバラバラになることがなかった。その分、ギルは鮮明に体を正確に保ち、意識だけが蠢く会によって書き換えられた状態になった。


前回、クロウたちに攻撃をしたのはギルの意志ではなく、ハーデンが操る仕組みを開発し遠隔で操作していたのだ。


「こんなところだろう、まだ完成形ではないからこれからさらに実験をすることになる。これが成功すれば、モンスターを操るどころか、この世界全ての生命体を操れる日もそう遠くない。白き世界成就も、近づいてきたぞ。」



蠢く会の6人は解散し、ノエルはホルムと共に歩く。


「楽しみだなノエル!もうすぐ俺たちの世界が作られる、そうすりゃ俺たちを馬鹿にしてたくそ親父たちを見返せるぜ!」

「……そうですね、兄さん。」


ホルムはノエルの違和感を察していた。


「なあノエル、お前本当にレイヴァーの情報を全てこっちに回してたか?」

「どういう意味ですか?僕は、レイヴァーで手に入れた情報、蠢く会に役に立つ情報はすべて提出してました。」

「本当か?にしては、クロウってやつとサリアってやつの情報が極端に少ないだよな。お前、あえてこの2人の情報を隠してるんじゃねえのか?」

「そんなことはしていない!確かに、2人の情報は少なかったかもしれない、だけどそれ以上にアーシェリーゼの情報は多く出したはずです。2人の情報について渡せなかったのは、僕の力不足です。」

「そうか、まあそういうことにしてやるよ。お前がレイヴァーに入れ込んじゃったんじゃねえかって疑ってたんだよ。」


ズンッ!

ホルムはノエルに顔をぐっと近づける。


「忘れるなよ、俺たちはアイアコス家を追放された、邪魔者扱いされた存在だ。俺は、復讐を誓った。それにお前も賛同してると今も思っている、余計な情は捨てろ、あいつらを見返すことだけを考えろ。」

「……兄さんは、それで満足なんですか。その先の未来には、何が見えているんですか。」

「そんなのはどうでもいい、目の前の邪魔者を排除しねえと未来も何もねえだろ、ほら戻るぞノエル。」


スタッスタッ。

ホルムは先に歩く。



(兄さん、本当にそれで解決するのですか。何か別の方法はないのですか。)



ノエルはホルムのことを心から信じられずにいた。

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