第277話 奇策

「クロくん!?何を言ってーー。」

「どいてくれ、2人とも。」


クロウはリィンとサリアのもとに向かい、2人をアーシェから遠ざける。


「いいぞいいぞ!そうだアレス、お前が殺せばアテナイの人間がたくさん救われる!やっよお前も賢くなってきたようだな。」

「おいクロ!本当にやるつもりか!」

「ミラ、俺が今まで重要な場面で、嘘をついたことがあるか?俺は、今のアーシェを殺す。」

「クロウガルト……。」


シャキンッ。

クロウは刀を1本抜き、アーシェの前で構える。


「ク、クロウ。」

「悪い、アーシェ。これが、最善の選択なんだ。」


カチャッ。

刀がアーシェの心臓を狙う。



「さあさあ!ここからが最高のショーだ!派手に頼むぜ、アレス!!」

「クロウ、ごめんなさい。」

「謝るな、これは俺の選択だ。今楽にしてやるからな、アーシェ。」


スッ!

グサッ!

刀がアーシェの体を貫く。


バタンッ。

そして、アーシェの体がその場に横たわる。


「おおっ!最高だ!アレスが初めて人殺しをした!これで、お前が犯罪者だって振れ回れるな!」

「振れ回るだと、ホルム貴様!」

「当たり前だろ!俺が約束を守るやつに見えるのか、ばかなレイヴァーが!」


ホルムははなっから約束を守る気はなかった。


クロウに今度は同じ苦しみを味合わせるつもりだった。



「さあアレス、お前も苦しめーー。」

「うるせえぞ、下衆野郎。」


ギリッ。

いつの間にか仮面を半分付けたクロウが、ホルムを睨みつける。


「ひっ!?いつの間にーー。」

「今だ!


クロウの声と共に、


シュイーンッ!

ピカーンッ!

大きな光のベールが、パノラマの町を覆う。


すると、


バタンッ。

町の人たちが次々と倒れていく。


「な、何が起きた!?」

「ミラ!サリア!町の人の安全を確保しろ!ノエルとリィンはジュールの光魔法を補助!そして!」


ズザッ。

クロウが光の速さでホルムに迫る。


「ひっ!」

「俺が、ぶん殴る! 拳の響ケンノヒビキ四式シシキ雷光ライコウ!」


バゴーンッ!

正拳突きがホルムの顔面を突き刺す。


ズザーッ。

10mほど吹き飛び、辺りの岩の壁を貫くほどの威力だ。


「くそっ、人族ごときがーー。」

「人族だけじゃないわよ、ホルム!」


シュンッ!

ホルムの目の前には、クロウに突き刺されたはずのアーシェが。


血の1滴も流さずに、魔力を込めていた。


「なっ、お前刺されたんじゃーー。」

「ええ、刺されたわよ。私の服がね! 弾け飛べ!闇の波動ダークパニッシャー!」


バゴーンッ!

闇の波動が、さらにホルムを吹き飛ばす。



そう、クロウが刺したのはアーシェではない。アーシェの服、つまり彼女の体のない空間を突き刺したのだ。


「ジュールさん!」

「リィンさん、ミラさん。」

「また会えるとは、うれしく思うぞ。」

「僕もです、ミラさん。それに、変われたようで良かったです。」


そう、クロウは見えていた。


ホルムと町の人のさらに奥、ジュールが潜み合図を送っていることを。


ジュールのジェスチャーで、クロウはアーシェに集中攻撃されるような魔法がかけられていることを察し、ホルムの油断を作るためにアーシェを突き刺すふりをした。


「クロくん!町の人たちはサリアの魔法で覆ったよ!」

「僕の方も、問題ない!」

「さぁて、じゃあ話を聞かせてもらうか、ホルム!」


シュンッ。

クロウは仮面を解き、7人がホルムの所に集まる。


「えほっ、えほっ。くそ、俺がしくじるなんてな。」

「兄さん、もうこんなことはやめよう、蠢く会は被害を広げる一方だ。」

「あっ?そんなわけないだろ、蠢く会がいるから、今新しい世界が生まれるんだ!その第1民族に俺たちはなれるんだよ、ハーデンがいればな!」

「本当にそう思うのか!アークは、エリュシオンで死んだ。仮面の実験台にされて、あいつの顔は恐怖におびえた状態で固まっていた。お前だって、同じ運命をたどる可能性もあるんだぞ!」

「それはない、アークは少し調子に乗りすぎた。その分、俺は優秀だ!蠢く会での立場をわきまえている、貢献している!俺が消されるなんてありえない!」


ホルムは、傷だらけの体を引きづり立ち上がる。


「まあ、今日は計算をミスったようだ。けどな、まだもう1つの作戦は生きてるんだよ、これでもお前たちは逆らうつもりか!ハーデン!」


シュイーンッ!

空一面に紫色のガラスのように透き通った画面が現れ、アテナイを覆った。



そして、


「聞け、アテナイの民たちよ。」

「ねぇ、あれって!」

「……嘘だろ、何であんたが生きてるんだよ、。」


その画面に映しだされたのは、ハーデンと共に立っているアテナイ元国王ラストだった。


ラストは、血のホワイトデイの時に死んだとされていた。


彼は、なぜ姿を現すことができたのか。

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