第276話 ホルムの狙い

「さぁ、もっと苦しめ魔族の女!」

「てめぇ、いい加減にしろよ。」


ギリギリッ。

クロウの表情が徐々に怒りに呑まれていく。


「そうだもっと怒れ、アレス!その気持ちを爆発させろ!そうすれば、もっと楽しくなるぜ!」

「こいつっーー。」

「ダメ!クロウさん!」


ガシッ!

リィンがクロウを後ろから抱きしめる。


「離せリィン、俺はーー。」

「ホルムの言いなりになってはダメです!もしクロウさんが仮面に取り込まれたら、もう止められないかもしれない、死んじゃうかもしれないんですよ!そんなことになったら、一番苦しむのは誰かわかりますか!」

「だとしても、俺は誓った、アーシェを守るって、そのためなら何でもするって!」

「アーシェさんが、自分のために、その手を血で汚してほしいって思うと思うんですか!」

「っ!?」


シュー。

クロウは殺意に満ちていた感情を、徐々に制御していく。


リィンの言葉で、自分を取り戻せたようだ。


「悪い、リィン。おかげで冷静になれた、もう大丈夫だ。」

「良かったです、アーシェさんはあたしとサリアさんで何とかして見せます!だから、クロウさんたちはホルムの方を!」

「ああ、分かった。」

「了解した。」

「くっ……。」


リィンはサリアとアーシェに何が起きているのか解明するため、そばに寄り添っていた。


そして、クロウ、ノエル、ミラはホルムと対峙していた。


「ちっ、お前が烏に吞み込まれれば万事解決だったのによ。」

「悪いな、俺はお前と違って1人じゃねえ、孤独に生きてるんじゃねんだよ。さあホルム、お前が何をしているか暴いてやるよ!」

「それができるかな、お前なんかに!」


ズザッ!

クロウは拳を構え、ホルムに接近する。



だが、子供たちが盾になるように立ち塞がる。


(この一撃に集中しろ、目の前の子供じゃない、狙いは奥のホルムだけだ、イメージしろ、表面じゃない子供をすり抜けてホルムの所で爆発する攻撃を!)


拳の響ケンノヒビキ初式ショシキイカヅチ!」


スッ!

掌底突きが、子供のおなかに触れる。



だが、そこから放たれた衝撃波は子供に直撃したようには見えなかった。



「ぐはっ!」


ズザッ。

ホルムが2歩後ずさる。


腹をおさえ、苦しそうに顔をしかめる。


「ぶっつけ本番、大成功。」

「てめぇ、何しやがった。」

「さぁな、お前のその足らない脳みそで考えるんだな!」


シュンッ!

追撃しようとするクロウの左側から、矢が迫る音が。


「うおっ!」


持ち前の反射神経で避け、矢が放たれた先を見ると、


「お、お前は。」

「何でそっち側にあなたがいるの。」

「っ……、あそこに見えるのはギル将軍?」


アーシェは苦しみに耐えながら前を見る。



そこには、1度アーシェを捕え監禁していた魔族の10将軍の1人、鰐の姿をした魔族のギルの姿が。


クロウ、アーシェ、サリアは出会ったことがある。


斧を振りまわし、血の気が多いように見えた過去の姿からは予想すらできない落ち着いた姿。


ホルムと同じく、黒いローブを着ており蠢く会のメンバーにしか見えない。



「何が起きている、蠢く会には魔族もいるのかよ。」

「ああ、彼は僕が推薦したんだよ。俺たちも情報は多いに越したことはないからね、唯一孤立に近い状態だった彼を俺たち側に引き込んだのさ。」

「それは本当か。一見、ギルは何も話さねえしあの時の迫力は全くねえ。ホルム、ギルにも同じ細工をしているんじゃないか!」

「細工?何言ってるんだ、俺は町の人にも彼にも何もしていないよ!これは、ここにいる者たちの総意なんだよ!」


ザワザワザワッ!

さらにアーシェに対する罵声がひどくなる。


「うっ。」


さらにアーシェは苦しみだし、1人で体を支えるのもやっとの様子。


「やめてくれ兄さん!こんなことをして、何が目的なんだ!」

「目的か、そうだな……よし、交換条件と行こうか。」


ホルムはレイヴァーに提案する。


「レイヴァーの誰でもいい、そこにいる魔族の女を殺せ。そうしたら、俺たち蠢く会は今後一切お前たちに手を出さない。」

「なっ!?アーちゃんを、殺す?」

「そうだ、簡単な話だろ、1人の命を消すことで、多くの命が助かるんだ!お前たちも気づいているだろ、俺たちが何人の命を実験台にしているか!」

「その言葉、信じられんな。アーは私たちの大切な戦力で仲間だ、その仲間を殺せと言うなら、私はお前を道ズレにして死んでやろう。仲間を切るより、100倍増しだ。」

「そうか、なら苦しむ魔族の女をもっと眺めているんだな!」


シュイーンッ!

さらにアーシェに対する力が増していく。


「うっ、くっ。」

「アーちゃん!ホルム!」

「恨むなよ、この町を壊した元凶に罰を与えているだけなんだからよ!」


何も出来ずに苦しむアーシェの姿を見ることに、クロウは我慢の限界だった。


「分かったぜ、ホルム。」

「ん?」

「俺が、


クロウが出した決断とは、何を意味するのか。

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