第275話 町の声
ホルムの突然の一言に、レイヴァーは混乱を隠せない。
「てめぇ、何が目的だ!アーシェだけがこの町の元凶だと?だったら、俺たちレイヴァーが元凶って言葉の方が正しいんじゃねえか!」
「はははっ、分かっていないねアレス!確かに、チームである君らを排除出来たらとても楽なんだよ!けど、君らは強いからね、だから厄介な奴から弾いていくことにした。」
「貴様、そんなことを町の民がいる前で言ってしまっていいのか。お前の言葉を、信じる者はいなくなるぞ。」
「そんなことはないさ、ほらてめぇら、心の思うままに言ってやれ!」
ホルムが合図を出すと、
「あいつが、あの魔族が俺たちの町を壊したんだ!」
「許せない、殺してやる、あなたがここにいられないように!」
「消えろ!消えろ!消えろ!」
数百人はいるであろう、町の人々が次々にアーシェに向けて罵声を浴びせる。
「なんだこいつら、さっきのホルムの言葉を聞いていなかったのか?」
「クロ、やはりここの人達は何かおかしいぞ。あの目といい、言葉の抑揚といい、まるで操られているかのようだ。」
「でも、サリアの魔力探知には何も引っかからない、魔法じゃないのは確定だよ。」
「だとしたらあり得るのは……チップ。蠢く会がモンスターに使っていたチップじゃないですか?」
「まさか、人間にまでチップをつけ始めたのか。」
ニヤリッ。
ホルムは寒気がするほど奇妙な笑みを浮かべる。
「考えてばかりで大変だね、まあ答えは教えられないけどはたしてそこの魔族の女はいつまで耐えられるかな!」
「なめないで頂戴、こんな場面は何度も乗り越えてーー。」
ドクンッ!
アーシェの心臓が、突然縄で縛られたかのように苦しくなる。
(なに、この感じ。体は動くのに、内側が鎖でぐるぐる巻きにされたかのように苦しい、痛い。何が起きているの。)
ドサッ。
アーシェはその場に膝をつき、崩れ落ちる。
「アーちゃん!どうしたの!」
サリアが駆け寄り、アーシェの具合を見る。
「アーシェ!ホルム、てめぇ何をした!」
「何もしていないさ、これがこの町の人の思い、願いってことだよ!」
「ふざけないで!アーシェさんだけを悪者にしているのは、あなたの仕業ですよね!」
「ん?何を言ってるのか俺にはわからねえな!それよりいいのか?このままじゃそこの魔族の女は壊れちまうんじゃねえか?」
ブルブルッ
アーシェの体は震え、何かに支配されているように見える。
「アーちゃん!しっかりして!大丈夫だよ!サリア達がいるからーー。」
「怖い、何が起きているの、私が、この町を破壊した?」
「まさか、洗脳でもしているのか!?ならば、奴を叩き切るのみだ!」
ズンッ!
ミラは大斧を構え、ホルムに向け突っ込む。
だが、
「おおっと、俺に手を出したらどうなるかな。」
スッ!
ホルムの目の前に、子供たち3人が盾になるかのように立ち塞がる。
「んなっ!?」
ズザッ!
ミラは距離を取り、攻撃をやめる。
「いいんだぜ、こいつらを殺せば俺を殺すチャンスが生まれるんだぜ!ほら、早く来いよ!不殺の掟なんて守ってないでよ!」
「下衆な奴が、アーを失うくらいなら私がその分の十字架を背負ってみせようーー。」
「やめろ!ミラ!そんなことをしても、アーシェは余計に傷つくだけだ!」
「クロ、だがホルムを倒さないことにはどのみち苦しみ続けるのだぞ、アーは!」
「その子供たちを殺すことで、さらにアーシェに追い打ちをかける可能性だってある!そんなことになったら、アーシェがアーシェでなくなっちまう!」
クロウたちは手も足も出せない状態だった。
「なんだ、レイヴァーもその程度なのか、テーベとエリュシオンを救ったていうからどれだけ強いのかと思えば、期待外れだな。」
「てめぇ、自分が何をしているのか分かっているのか!何の罪もない人たちを操って、1人の人間を傷つけさせているんだぞ!アーシェだけじゃねえ、そこにいる町の人たちの心にも傷をつけているんだぞ!」
「はっ!それがどうした!弱い人間は、強い人間に従うのが世の定めだ。こいつらも嬉しいことだろう、俺の役に立ててな!」
「兄さん!もうやめてくれ!こんなことをしても、喜ぶ人誰もなんていない、僕たちの家のようにバラバラになるだけだ!」
「ノエル、お前ならわかるだろ。アイアコス家がバラバラになった理由が、だがこのやり方なら皆がつながっていられるのさ!俺たちが苦しむことはもうないんだよ!」
「それは違う!兄さんのやり方は間違っている、無理やり従わせることと分かり合うことは別物だ!今の兄さんには、誰もついてきていない、無理やり連れてこさせているだけだ!」
ノエルとホルムの間で、今まで見たことのない熱を帯びた会話が。
アイアコス家のバラバラ、それはいったい。
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