第278話 別れ

「ラスト王、生きていたのですか!?」

「クロくん、あれが血のホワイトデイで死んだとされてた……。」

「ああ、紛れもない国王だ。」


空に大きく映し出された姿は、ラスト王そのものであった。


「ホルム、てめぇ何をした!国王は魔族の手によって殺されたって話だろ、あそこにいるのはーー。」

「確かに、世間には死んだってことになってたかもな。けど、見てみろよ、王は生きているんだ。それを証拠に、王は何か言いたいことがあるみたいだぜ。」


空に投影されている国王の姿は、大きく揺れながら言葉を話し始める。



「アテナイの民よ、心して聞いてほしい。私は、10年前の血のホワイトデイで襲撃を受けた際、死の間際まで追い込まれてしまった。皆には、今まで何も伝えられていなかったこと、深く謝罪したい。では、なぜ今こうして話せているのか。それは、蠢く会に命を救われたからなのだ。」

「蠢く会に命を救われた!?こいつらがそんなことを!?」

「アテナイは今、とても危険な状態に陥ろうとしている。皆も1度は耳にしたことがあるだろう、レイヴァーという存在を。奴らが、この国を脅かす最大の脅威なのだ。」

「何勝手なことを!クロウを追放して、さらには多くの人を傷つけているくせに!」


アーシェの怒りが、爆発寸前。


「アテナイの民よ、この国を平和にするのは誰か、それは私と蠢く会だ。蠢く会には、ハーデンという命の恩人がおる。そして、そのハーデンもまたレイヴァーによって苦しめられているのだ。こんなことが、この国で起きていていいのだろうか!」


王の言葉を耳にした国民たちは、あちこちの町で声をあげる。


「国王様の言う通りだ!アテナイに害をなすなら、排除するのが俺たちの役目だ!」

「王様が生きていられるなら、まだ希望はある。みんなで、レイヴァーを抹消しましょう!」


各町で、レイヴァーに対する批判の声が生まれ始める。


その声は、パノラマの人たちからも生まれていた。


「くそっ、ホルム、こんなことをして何が狙いだ!てめぇらが作り出したゴーレムに、何人の人が犠牲になったと思ってる!」

「アレス、それは違うよ。彼らは道先案内人になってくれただけ、いわば国を代表して光を突き刺す役目を全うしたにすぎない、名誉ある存在さ!」

「そんな名誉のため命を捨てたってのか、笑わせんな!ゴーレムにされた人たちは、助けを求めてた。ゴーレムだけじゃねえ、仮面をつけられた奴らも恐怖に怯えながら死んでいった、アークと同じように!」

「仮面?何を言っているんだ、あの仮面は君たちレイヴァーが作り出したものだろ?」

「貴様、何を言ってーー。」


王の声が再び響き渡る。


「皆の結束力こそ、この国を救う最大の力となる。だが、レイヴァーもそう易々と消えてはくれない。それに、レイヴァーの中にも被害者はいる、主犯はただ1人なのだから!」

「主犯?あの王様は、何を言っているの。」

「レイヴァーという存在に無理やり巻き込み、テーベやエリュシオンで暴れ秩序を壊してきた者がいる。それが、元魔王の娘、アーシェ・ヴァン・アフロディテである!奴こそが、この世界の元凶であり癌なのだ!その危険因子を取り除くことこそが、アテナイを含めた世界の平和につながる!皆、奮起せよ!!」


王の言葉は再びアーシェの心に傷をつける。


「あの王、でたらめばかり言いやがって!」

「知っているかい、アレス。例えでたらめだとしても、多くの人間が支持するものはその国で正当化される。正しい正しくないはどうでもいい、信じたいか信じたくないかが重要なんだよ!!」

「あなた、最初からアーちゃんを狙って!」

「そうさ、魔族の女が一番厄介だからな、邪魔な奴は即排除する。でも安心しろ、レイヴァー6人を殺すわけではない、アフロディテがチームを抜ければ、他の5人は助かるように王に俺から話してやろう。無理やり指示されて、手伝わされていたってことにしてやるよ。」

「てめぇ、ふざけんのもーー。」

「本当なの?」


アーシェがホルムの前に立ち、問いかける。


「ああ、確かに俺は外道と呼ばれるが、約束は破らない。お前が永久追放されること、つまり魔族領のスパルタに閉じ込まることが条件だ。これをのむことが、どれだけ重要か、お前ならわかるだろ?」

「……。」


アーシェは数秒考え、そして。


「分かったわ、その条件を受け入れーー。」

「レイヴァーのリーダー、クロウが命じる。アーシェ・ヴァン・アフロディテはレイヴァーに拘束し、一切の個別行動を禁じる!」

「っ!?クロウ、何も言ってーー。」

「うるせぇ、これはリーダー命令だ。お前はレイヴァーから離れちゃいけない、俺が離したくない。ただそれだけだ。

「あなた、その判断がどれだけ大変なことか分かってーー。」

「そんなことはどうでもいい!アーシェは俺の大切な存在、そして家族だ!俺の家族に手を出そうっていうなら、容赦はしねぇ。死ぬ覚悟できやがれ!」


チャキンッ!

クロウは大剣を抜く。


「はぁ、やはりこうなるか。なら、レイヴァーはこの世界から追放され、破滅までのカウントダウンが始まったと思え!」

「破滅するのはどっちが先か、世界か俺たちか。」

「クロウさん、まずはここを離れましょう!少しでも安全なところに!」

「おう!」


ズザッ!

クロウたちが走り始めると、


「いくぞ!ノエル!」


ノエルは、その場に立ち止まったまま。


「どうした、早くーー。」

「すまない、クロウガルト。僕は、そっちにはいけない。」

「っ!?何言って。」

「兄さん、僕の任務は終わりだよね。蠢く会、NO,7としての仕事。」

「そうだな、戻ってきていいぞ、ノエル。」


ノエルはホルムの方に歩いていく。


「おいっ!ノエル!」

「お別れだ、クロウガルト。もし生きていたら、また会えるといいね。」

「待てっーー。」

「クロ!」


ガシッ!

ミラがノエルに向かおうとするクロウを抱え、走り出す。


「待てミラ!まだノエルが!」

「今は退く時だ。彼は、迎えに来ればいい。」

「……、くそっ!!」


ノエルと別れることになってしまったレイヴァーは、パノラマから走って去った。



ノエルの意志は、レイヴァーのこれからは。



第54章 完



◆◆◆お礼・お願い◆◆◆


第54章まで読んで頂きありがとうございました。


ホルムの謎の攻撃に苦しめられるも、ジュールの援護でなんとか突破。

しかし、蠢く会の力で死んだとされていたアテナイの王ラストが現れる。

ノエルとも別れることになったレイヴァー、果たして彼らのとる行動は。


アテナイでいきなり事件発生!

ノエルは何を思うのか?

レイヴァー応援しているぞ!


と思ってくださいましたら、

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ここまで読んで頂きありがとうございます!今後とも宜しくお願いいたします!

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