第273話 約束する
王国はでてから約3時間、休憩も挟みつつアテナイのパノラマに向かって進んでいた。
パノラマのことは、誰も知らないところということもあり慎重に動いていた。
「なあ、リィン、ダイカンはなんでパノラマに直接いくように言ったんだと思う?」
「そうですね、クロウさんも引っかかってると思いますが、それだけ急なことなのかもしれません。正直、あたしも不安なところが多いです。」
「ダイカンさんの依頼とあれば、私たちがやるべき事は変わらないわ、今までの数えきれない恩を返すだけよ。」
「……そうだね、僕たちが力になれるなら。」
ノエルの声には、少し元気がないように感じられた。
さらに先に進み、辺りは暗くなる。
残り半分というところまで辿り着いたため、レイヴァーはキャンプを張ることにした。
クロウとリィンが料理を、アーシェとサリアがテーブルの準備を、ノエルとミラが辺りの警戒を担当した。
今回の料理は、
牛の肉をこんがり焼き、大きめに切った色とりどりの野菜と共に鍋に入れ、スパイスを入れシチューのようなものができていた。
さらに、持たせてくれた魚を塩味の強いソースと砂糖で煮て、計2品を作り上げた。
パンもあり、皆の食欲をそそる物が出揃った。
そして、6人がテーブルに着く。
「いただきます。」
久しぶりのキャンプ飯に舌鼓をうっていると、
「クロウさん!やっぱりとても美味しいですね!!何でこんなに料理ができるんですか!?」
「言わなかったか?一人暮らしが長かったからってーー。」
「だからって、こんなに上手くなるのは相当の努力をしたのだろう?私は、こんな美味い料理を作れる自信がない。そう思わないか、アー?」
「んぐっ??はにはいっは?(何か言った?)」
アーシェはいつも通りの食欲を発揮し、クロウもそれを予測して大量に作った料理を目にも留まらぬ速さで食べ進めていく。
「言葉はいらないね、アーちゃんは。」
「久しぶりに見た気がするよ、アーシェリーゼの健啖家姿を。」
「よくそれで太らないよなーー。」
「ウェルダンOK??」
ボアッ!
久しぶりに、アーシェの手のひらに明るく真っ赤な炎が灯される。
「NO!ごめんなさい。」
「クロくんの失言は変わらないね。」
「それがクロらしいと言ってもいいかもな。」
賑やかな食事は光のような速さで過ぎ去り、就寝の準備をしていた。
アーシェは、夜風に当たりながら空を眺めていた。
(アテナイに戻るのね、アルタで追放されて、ナウサではダイカンさんの力も借りられて受け入れてもらえた。パノラマは、どうかしら。)
「1人で何黄昏てるんだ?」
スタッ、スタッ。
涼しい風に当たりながら、考え事をしていたアーシェの元にクロウが。
「黄昏てないわよ、ちょっとね。」
「今更何を考えることがあるんだ?アテナイに戻って、ダイカンの依頼を達成する。それだけだろ?」
「それはそうだけど、アルタでの時のことを思い出さない?私たちは、蠢く会の罠に嵌められて追放されたのよ?」
「まあそうだけど、実際俺がオールドタイプだから追放されたんだ、アーシェは気にしなくていいーー。」
「そんなこと出来るわけないでしょ。」
スッ。
大きな声で反応し、アーシェはクロウを見つめる。
「な、なんだよいきなり大きな声で!?」
「私はあなたなの。あなたが辛い時は、私だって辛い、それにあなたは人一倍責任感が強いから周りに見せないように大きなものを背負おうとする。」
「別に、そんなことしてるつもりはーー。」
「うるさい。」
グイッ!
アーシェが両手でクロウの頬を摘む。
「痛い痛い!」
「私が言ってるのだから、それが事実なの!クロウは、誰よりも強く手本であろうとする。それがみんなを助けてくれてる。でも、1人でいつもそうやって背負って欲しくないの、ちゃんと私も使いなさい!」
「アーシェを使う?」
「そう、私をあなただと思って使うのよ。支え合うのはとても大切なこと、片方の負担が増えるのは支えるんじゃなくて甘えてるだけ。私は、そんな関係を望まないの。頭に刻み込んだ?」
アーシェの言葉は、クロウの心の奥深くに突き刺さった。
「……まったく、本当に束縛の激しい次期王女様だな。」
「当たり前よ、今更気づいても手遅れだから諦めることね。」
「へへっ、いいぜ、受けて立つ。少しずつ、俺は変わっていくからよ、しっかり見ててくれ。その目に、俺の完璧な姿を映して見せるからよ。」
「楽しみにしてるわ、どれだけかかったとしても、その目標を達成してみせなさい、そして私のそばにこの先もいてほ……。」
アーシェは口から出そうになった言葉を無理やり飲み込む。
「ん?どうした?」
「な、なんでもないわ!じゃあ、先に寝るわね!」
スタッ、スタッ。
アーシェは足早に戻る。
(私は何を口走ろうとしてるの、クロウにそばにいて欲しいなんて、はあ熱い!なんでこんなに熱いの!水でもかぶろうかしら。)
その熱さにアーシェは困惑しつつも、夜眠りについた。
そして、明るい朝が来た。
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