第269話 判断の時

「待たせてすまない、クロウガルト。」

「気にするな、俺も今頭の中整理してたところだ。少しは、落ち着いたか?」

「ああ、お前の言う通りだったな、自分の目で確かめるまで諦めるべきではない、その言葉のおかげで私は2人に会えた。」

「別に、特別なこと言ったつもりはねえよ、ただ、ミラには死んで欲しくなかったから言っただけだ。」


スタッ、スタッ。

ミラはクロウの隣に座る。


「なぁ、クロウガルト。お前は、レイヴァーはこれからも世界の矛盾と、蠢く会と戦い続けるのだろ?」

「そうだな、俺もアーシェも、レイヴァーの奴らは血のホワイトデイを機に人生が変わった奴らだ。しかも、ここまで蠢く会が大きいってことはもしかしたら血のホワイトデイにも関係してるかもしれねえ、だからここで止まるつもりはない。」

「……この先、どれほどの敵が出てくるかわからないぞ。最悪の場合、アテナイとスパルタの2国を敵に回すかもしれない、そうなったらレイヴァーもタダでは済まないぞ。お前たちは、5人なんだ。」

「そりゃあ、覚悟の上だよ。俺たちは一度追放されてるんだ、だったら俺たちが正しいんだって分からせるチャンスが来たと考えて、進まないほうが勿体無い。簡単に言えば、人生にリベンジをするいい機会だ。」


ミラは少し空を見上げ、何かを考えている様子。


(父さん、母さん、私の目は間違っていないようだ。)


スッ。

クロウはミラを見つめる。


「やはり、クロウガルトといれば飽きることはないな、大火事が起きるとわかっているその中に飛び込もうとしているのだから。」

「でも、そうして今の仲間達を手に入れることができた。火事が起きてるなら、見捨てるんじゃない、消化して助けるのが普通だろ?辛いことばかりじゃない、どんな時でも心の支えになる仲間を手にできたことがその大きな成果だと思う。」

「そうかもしれないな。……よしっ、私の中でも迷いは無くなった、クロウガルト!」

「うおっ!?な、なんだいきなり!?」


スタッ。

ミラはクロウの目の前で片膝をつき、頭を下げる。




そして、


「私を、レイヴァーに入れさせてくれ。これからの5人の旅に、私も連れて行ってくれ。」



鋭くも決意の表れを見て取れる表情でクロウに述べる。


その姿に、クロウも真摯に応える。


「いいのか?10年もかけて両親を探して、せっかく出会えたんだ。ここで、いったん休憩するのも必要だと思うぜ。」

「ああ、これまでの私は確かに出会うのが目標だった。でも、出会えたからこそだ。2人は、エリュシオン復興の為に王に力を貸すとお話だった。なら、私がすることはクロウガルトに言われたことを遂行することだろ?」

「俺が言ったこと?」

だろ?」


ニコッ。

ミラは優しくクロウに微笑みかける。


「あ、あれは1つの例だ!お前が生きる意味がないとか言い出すから、だったらこんなところで死んで欲しくなかったから言ったんだ!」

「では、次の私の生きる目標はそれだ。もちろん、次の目標ができたらクロウガルトに相談する。それまでは、レイヴァーのリーダー、クロウガルト・シン・アレスの剣となり盾となり生きてみたい。」

「本当にいいのか?さっき話した通り、俺たちが進むのは茨の道どころじゃない、断崖絶壁、立ち入り禁止のエリアに真正面から足を踏み入れるようなものだ。」

「構わないさ。だって、お前は約束してくれただろ?俺は頑丈だから、そう簡単に死ねると思うなよって。私も同じだ、この体はクロウガルト以上に頑丈だ、私がお前を最強にする、異論はあるか?」



クロウも少し考える。


せっかく幸福を手に入れたのに、そこから連れ出していいのかと。



その時、サリアのことが頭をよぎる。



「サリアもエリカも、レイヴァーにいたい、家族なんだから。」



テーベに残る選択肢があった中、サリア達は同行を選んだ。


クロウは、ミラの頭をあげさせる。


「お前の気持ち、しっかりと受け取った。ミラ・アトラース、レイヴァーに入って俺たちの力になってくれ。俺はそう簡単に死なない、だからミラももう嫌だってくらい長生きさせてやるからな。」

「私も望むところだ。この大斧が振れなくなるまで、この命はクロウガルトに捧げる。だから、これから先失望させないでくれよ、戦う準備は出来ているからな。」

「それじゃあ、とりあえず呼び方を変えないか?俺はみんなからクロウって言われてるんだ、ミラも砕けて話してほしいーー。」

「なら、クロでいいか?」

「クロ?」


クロウは咄嗟の提案に戸惑う。


「サリアリットがそう呼んでいるだろ?私も、長い名前を呼ぶのはあまり好みではなくてな、クロなら呼びやすいし問題ないだろ?」

「ま、まあ問題はねえけど、何かペットみたいじゃないか?」

「別にいいではないか、何か成功するたびによしよししてあげよう。」

「いらねえよ、そんな称賛は。じゃあ、これからよろしくな、ミラ。」

「ああ、こちらこそ頼む、クロ。」


ガシッ。

2人は固い握手を交わした。



ミラがレイヴァーに加入し、これで6人。


より力を増した、最強と言っても過言ではないチームの完成だ。

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