第268話 10年を超えて

クロウとミラは王から伝えられた、約2時間ほど離れた小さな山がある場所まで走って向かっていた。


もちろん、距離として10㎞ほどはあるので馬などを使って向かうのが普通だろう。


だが、ミラの頭の中には一刻も早く出会いたいという気持ちで溢れており、体が勝手に動いていた。


運動神経がずば抜けているミラに、クロウも置いて行かれないように後を追いかける。


「なぁ、ミラ。両親と会えたら、お前はこれからどうするつもりなんだ?」

「どうするとは?」

「お前の旅してきた意味が、ひとまず完結することになるんだろ。何年も探し続けてたどり着いた目的地だ、旅を終わりにするのも悪くないタイミングだと思ってよ。」

「……正直分からない、1度はクロウガルト達のようにチームで旅をしてみたいと感じていた、でも今は、何が正しいのか分からないんだ。」

それがどういう結果にたどり着くのかは、本人にしか分からない、だから自分が信じた道を進むのが一番正解に近い方法だとは思うけどよ。」


走りながらも、クロウはミラの将来を心配していた。


「……答えは必ず出す、そしてクロウガルトに1番最初に伝えると約束しよう、私はお前に命令されたことがあるからな。」

「命令?」


クロウが何のことか思いだしていると、小さな山の上に小屋が見えてくる。


「ミラ!あれじゃないか!?」

「王の言うことが正しいならそうだな、行ってみよう。」


そのまま走り続け、ミラは横開きの扉を開ける。



そして、


「っ!?あなたは、まさか。」

「おおっ!信じてみるものだな、自分たちの娘を!」

「父さん!母さん!」


そこには、無事に暮らしている姿のミラに似た巨人族の夫婦が。


どうやら、ミラの両親のようだ。


この時を、どれだけ待ち望んだだろうか。


エリュシオンがおかしくなり、ミラは国から死神扱いされ、両親は急にいなくなった。


絶望に包まれる中、今やっと長年の旅に意味があったのだと証明することができた。


ミラの顔には、今まで見たことのないほどの笑顔と涙が。



その姿を見て、クロウはその場から静かに離れようとする。


「あ、お待ちください!」

「ん?俺か?」

「はい、申し遅れました。私はミラの母、アレクと申します。夫の、ライルです。ここまでミラを連れてきてくれたのはあなたですよね。」

「そんな大層なことはしてないよ。ここにたどり着くまでに想像を絶する壁にぶつかっても、突き破って目的地にまで届いたのは、他でもないミラの力だ。今は思うところもあるだろ、近くを散歩しているからあとで話を聞かせてくれ。」

「ありがとうございます、強くて優しい人族の方。」


スタッスタッ。

クロウは小屋から離れ、近くの草原に出る。


草木は緑一色、ついさっきまで命を懸けた戦いを忘れてしまうほどのどかな環境だった。




だが、クロウの心は穏やかでなかった。


蠢く会は最低7人のメンバーがいる、そしてその1人であるアークは使い捨ての駒のような形で命を落とした。


埋葬をしているときに気づいたこと、


アークは目をかっぴらき、口は開き、まるで石化でもされたかのように固まっていた。


そんな状態で無理やり戦わされ、どの段階で命が尽きていたのかは分からない。



しかし、アークに対する可哀そうと思う気持ちと、蠢く会のやり方に怒りを覚える事に変わりはなかった。


テーベを救い、このままエリュシオンも回復をしていくだろう。


残りは、アテナイとスパルタの2国。


そして必ず出会うことが分かっている、蠢く会のメンバーと魔王軍の配下。


未だに、蠢く会にギルが誘拐された後のことも分からない。


(蠢く会、ハーデン、お前たちは白き世界を成就するだとか言っているけどよ、仲間を殺してまで作る世界はそんなにいい物なのか?そこまでして手に入れる世界に、いったい何があるっていうんだ。どんだけ頭回しても、俺にはわからねえよ。)


スサーッ。

心地よく感じる涼しい風が、クロウの髪を揺らす。


彼の眼には、これからのことに対する決意が現れていた。


何がなんでも蠢く会を止める、そして自分の贖罪しなくてはいけないことを心にとめ、これ以上同じ苦しみを生み出さないと。


そのためなら何でもやる、レイヴァーは確かに強い、だがこの先2国も彼らだけで変えられるかは分からない。



でも、やらなければならない。


追放された者として、この世界が変わってしまった理由を突き詰めることを使命として生きているクロウには、どんな未来でも受け入れる、道がないのなら切り開く準備はできていた。




そうして数十分後、


ミラが小屋からクロウのいる場所にまで歩いてきた。


彼女の口から放たれる言葉とは。

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